星落つる跡地
飛んできた声に風竜――アーリィは、後ろへと一歩身を引く。
それでも、天色の瞳の眼光は鋭いままだ。
すとっぷ、とはティシェの耳に聞き馴染みのない言葉ではあったが、彼女の行動から察するに、制止の意味合いがあるようだ。
「カロン、もういい」
ティシェの呼びかけに、カロンもアーリィへと向けていた尾先を引く。
警戒は滲ませたままであるも、彼もティシェの元へとゆっくり引き下がっていく。
ティシェも倒れた身を起こす。が、引き倒された際に付いた肘が、衝撃となって少しばかり肩に響いていたようで、顔を僅かにしかめた。
グローシャがその背を額で支え、ティシェの身体を押し起こす。
ティシェは肩に触れて具合を確かめ、別段傷口が開いたわけでないことを確認して、グローシャへ「助かった」と礼を言った。
その頃にはカロンもティシェの側へと戻って来ていた。
カロンにも礼の意味合いも込めて頭を一撫でしてから、視線を上げて口を開いた。
「また会ったな、トール」
ティシェの蒼の瞳に見上げられ、彼――トールは一瞬茶の瞳を小さく見開き、それから、ゆるゆると緩く瞳を細めて淡く笑った。少しだけ困ったように。
「……そうだね。また会ったね、ティシェさん」
*
そこは開けた場所――否、空間だった。
木々が枝葉を伸ばし、半球状に覆って空間を創り出している。
森の奥地に足を踏み入れたというのに、枝葉からは木漏れ日が溢れ落ちていた。
先程までの絡みつくような湿気は霧散し、代わりに清涼な空気が辺りを包む。
その正体も既に気付いている。歩を進め、淵の側まで来ると膝を折ってしゃがんだ。
手を伸ばして指先を泉へ浸けてみる。冷たい。なのに、身体に沁みるその温度が心地いい。
泉は底まで見通せるほどに透き通り、不思議なことに星の瞬きに似たそれが、きらめきと成りて水底から溢れ出て昇り、弾けるようにして空気中へと溶けていく。
カロンが蔓草を斬り捨てた際、溢れた光が星の瞬きに見えた。それはきっと、水底から溢れ出るきらめきが空気中へと溶けていたから。
このきらめきは、ティシェの幼い頃の記憶と重なる。あの、強烈で鮮やかな――。
「――星、の瞬きみたいだよね」
視界の端。トールの靴が見えた。
ティシェが顔を上げると、トールも泉へと視線を落としていた。
彼の肩には腹の白い、
羽先は黄へと色合いを変えるその鳥は、ここへ向う際に仰ぎ見た影の主だった。尾羽根の下から伸びる飾り羽は、何度目にしても綺麗だと思う。
トールがラッフィルと呼んでいた鳥だ。
ラッフィルがトールの肩から羽ばたき、泉に静かに着水する。
飾り羽が水面に伸ばされて広がり、水底から溢れ出るきらめきに染まって、その美しさをより際立たせた。
「あのきらめきの起源って、知ってる?」
トールがティシェの隣に腰を下ろす。
それにならって、ティシェもその場に座り直した。
だが、トールの問いの答えは知らず、ティシェはいつもの乏しい表情下で首を左右に振る。それを見、トールは答えを口にした。
「かつて星が落ちた時の、その欠片なんだって」
「星の、欠片……?」
「うん。だから、ここは星落つる跡地の一つなんだよ」
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