第10話 道はつづく
上映が終わると会場は騒めき始め、皆出口へと向かった。
和子はすぐに立ち上がれなかった。
「え。」
なんとも言えない理解の難しい気持ちになりハンドバックから手紙を取り出した。
手紙の字はよく見るとすこし波打っていた。
「命を失う時に残したかったことだったの?」
“…様々な人が、…世界…良く快適で幸せな人生を得ることを手助けできる存在になりたい。
…映画…監督に僕はなりたい。“
和子は日本人として生まれた。
何の疑問も持たずに、世間の波に飲まれながら人生を進んできた。
「私は…行尋さんの何だったの??どうして私に?」
行尋(ゆきひろ)の人生は必ずしも順調だったわけではなかったと感じた。若くして病死してしまったし、彼の壮大な夢だって理解してくれた友人がいたかどうかは不明だった。
(恋人らしき人はいなかったかな)
慌てて周りを見渡した。
が、ほとんど皆劇場から出ていってしまっていた。立ち止まっているのは和子くらいだった。
学生の頃のある日…
休み時間の移動中の学校の廊下に女友達とおしゃべりしながら通り過ぎていく和子と、ひとり別の方向へ向かう行尋が去って行った。
袖振り合うも他生の縁…
和子が行尋を見つめた目、は、行尋の夢を繋いでいたのかもしれなかった。
生きるという本能と現相 夏の陽炎 @midukikaede
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