第7話 Go to the Disney Land
「お待たセ…。」
ここは、舞浜駅。そこからすでに夢の国のモチーフが散りばめられていて、駅を出ればすぐにディズニーランドだった。
笙鈴の笑顔からほんのりピンクの唇が輝く。鎖骨がちらりと見えた白のチュニックに薄桃色のレースをあしらった膝丈のスカート。
(僕のこと嫌っていなかったのかな。)
翠は、無難にジーンズにTシャツだった。
「ここがいい。」
笙鈴はパンフレットの地図の”ジャングルクルーズ“を指さした。
翠は同意し、誘導しようと一歩前へ出ると、笙鈴は翠の腕をつかんだ。
「え?」
翠は振り向いた。笙鈴は腕を通って翠の手に滑り込ませ、ぎゅっと翠の手を握った。
そしてニコリと無邪気に笑い、前へと急がせた。
土曜日だったのでやはり混雑していた。笙鈴は混みように少しムッとした顔になった。
翠は
「ファストパスをとって後で時間になったら行こう。」
と提案した。
それから、カリブの海賊、スプラッシュマウンテンと立ち寄るが、やはり混雑していた。また道を戻り、モンスターズインクに行くが結局ファストパスを取ってきた。
「・・・!う~!」
不満そうな笙鈴はおろしていたミディアムヘアの髪の毛をくしゃっとつかんだ。
翠は慌てて
「そうだ、イッツ・ア・スモールワールドならあんまり混んでないかも!
いこうよ。」
翠はそう言って笙鈴の手をとった。
イッツ・ア・スモールワールドは20分待ちだった。笙鈴は諦めたように少し俯き並んだ。
「なんで、そんなにアメリカのモノがいいの…?
日本をセンソウにおいやった理由はアメリカ、ヨーロッパにあったのに。」
翠はきょとんとした。笙鈴の声は小さく独り言にも聞こえた。
地味な白に赤丸が映える日本国旗に、青と赤白縞の派手なデザインに50の星がきらきらと浮かぶアメリカの国旗。
ディズニーランドは日本文化にはない色とりどりの華やかさと遊び心に満ちた建物たちと小道具たちとそれらが創り出すファンタジックな世界が広がる。
アメリカナイズされたこの遊園地の片隅で不思議さを感じずにその場に溶けていた翠。
翠は生まれてこの方、アメリカとの接点が日本を明るくしているように見えていた。でなければ日本は屍のように思えてしまうくらい。
アトラクションが終わって出てきた。翠は振り向きざまに笙鈴を見た。俯きがちな彼女は目をキッと尖らせた。
「何よ、8000円もしたのに、こんなちんけな人形を見るだけのツアーなの?」
翠はポケットの中に手を入れチケットを確認した。
「お金ないの買って。」
笙鈴が翠にせがむ顔を思いだした。
「何か食べる?クレープがさっき売ってた。ポップコーンもいい香りだよね。」
笙鈴は真顔になったがすぐに答えない。
笙鈴の目線の先に、ポップコーンを売るお店があった。建物、木々のひとつひとつ夢色に舗装され路の細部に至るまで夢の続きの様で、ポップコーンから広がる甘いイチゴのような香りは、現実とは少し離れたメルヘンの世界へ導いた。
翠はストロベリーミルク味のポップコーンを買ってきた。笙鈴は手を伸ばしてポップコーンを食べ始めた。
そしてその後、ランド内を散策してランチを食べ、ファストパスの時間に合わせてアトラクションを乗っていった。
夜、パレードが始まった。主役のミッキーは愉快に夜の中を舞った。暗闇に華やかなライトが無数に光り、目を奪い、右へ左へと目線は止まることを知らない。日常とは離れた少しコミカルな電子音のようなBGMはパレードのパフォーマーの一人ひとりの演出に一定の規律を与えていた。この一見贅沢とも思えるエンターテインメントにどうしたって心を奪われてしまう。なぜかとは分からない。
シンデレラ城はライトアップされ一層豪華さは増した。
翠のことも忘れたかのように見入る笙鈴。
翠は少し開いた二人の距離と、非現実的なこの世界と、現実のはざまで揺れるような心の音を感じた。
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