第6話 金曜日
「
食堂はたくさんの学生たちで賑わい、
「あ、何?」
「いや、何って。ここ数日、以前よりも増してぼーっとしてない?
心ここに在らずって感じだよ。」
翠は、目を瞬かせた。視線を落とすと、そこには褐色の…カレーライス。
持っていたスプーンで確かめるように掬ってみる。
(はて、僕はなんで今ここにいたっけっかな。)
「何だよ。本当におかしいぞ。」
「ああ、ごめん。カレーライス、意外と胃にくるなあと思って。」
翠は恭介のお皿を覗き込んだ。
「鮭、いいな。それにすれば良かった。」
「は?」
翠は少し笑った。
「僕、恭介より一つ年上じゃん。本当は志望大学も別だったし。
一浪したせいなのか、仕方なく入った大学のせいなのか。」
「志望大学、どこだったの?日大もずいぶんいい大学だと思うけどね。」
「地元の…国立大学。ほら、授業費ももっと安いし…。」
恭介はじっと翠を見つめた。
「確かにね。特に歴史の授業の時なんて上の空だもんな。
大学じゃなくって学部を間違えたんじゃない?そんなんじゃ…まぁいいか。」
「恭介はどう思うんだ。こんな戦争の繰り返しみたいな歴史。
“昔は今より不便で、貧しかった”って言ったって今に至るまで
戦争を重ねなければ世界は、
創ることができなかったのかな。
人間だけだろ。こんな無意味な争い。
僕は生まれた意味さえ必要を感じなくなる時もあるんだ。」
恭介はふーっと息を吐いた。
「僕は翠が心配だよ。
だから、この前もその前も喫茶店かショッピングでも誘おうと思ってたんだ。
でも、この感じだと、今週の土日も用事があるのかな。」
翠は、恭介の言葉にふと我に返った。だけど胸の痛みは消すことができない。
「翠、気にするな。また月曜に会おう。」
今日は金曜日。それを意識した瞬間に銀杏並木の黄がさらに
憧れの絵画の一つの絵のような胸の高鳴りは、噓だったとは思えない。落ちゆく木の葉に見送られながら、翠はバイト先へ向かった。
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