第3話 未来からの贈り物

 新幹線の座席で揺れるシートに身を預けていた。

和子は行尋さんのお母さんの言葉を思い出していた。

 

「行尋は1年前、心臓発作で病院に運ばれました。

  そして、心不全と診断されました。その時は、体調は回復しました。

  ちょうど、行尋の夢だった映画の撮影をしていた頃で、病気療養のために

中断するか医者と相談していたのですが、

行尋は“今というまたとないチャンスを失いたくない”と言い、

そして映画の撮影を継続することにしたのです。」

 行尋さんのお母さんは、切なげで、でも優しい顔をした。

 「一緒に試写会に行きませんか?」

 お悔みの言葉もうまく見つけられない和子は、事態を飲み込むこむように提案した。

行尋さんのお母さんは、また目を見開いたが、静かに瞬きすると言った。

 「和子さんは行尋の思い人だったのでしょうか。つまり、その…。」

 和子は息を吸い込んでそっと言った。

 「私は、中学の卒業式の時以来、お会いしていません。

  行尋さんも、夢を叶えるのにお忙しかったのでしょうね。」

 「あの子、行尋は、ほんの数か月前に、私に手紙を託しました。

  試写会が始まる前くらいに着くように出してほしいと。

  私は少し動揺しましたが、行尋にもしものことがあったら…

  あの子を傷つけたくなくて、これ以上何も聞けずに

  言われた通りに手紙を出すと約束しました。」

 「お手紙、ありがとうございました。」

 和子は目にうっすらと雫がたまっていくのを感じた。

 「行尋は、私の分はくれなかったの。試写会のチケット。

  “母さんは、映画が公開されたら、見に来てほしい”と。

  “絶対いい映画になっているから、見てくれたらお礼をするから”と。」

 行尋さんのお母さんは、その場で泣き崩れた。和子はなんとか手を差し伸べ、そっと手を握りしめた。


 

 東京駅に着いた。それから次の路線に乗り換えて目的地の駅へとたどり着いた。

(ここから5分くらいのところに映画館があるのよね?)

初めて来る映画館、東京も滅多に来ることはない。古く瀟洒な建物に導かれるように入り口に入った。


 チケットを渡し、指定された席へと向かった。何かどこかで誰かが和子を静かに待ち構えているような、何かに繋がっているような不思議な視線を感じた。


 上映は時間ぴったりに始まった。

ビーッ。現世を貫くような鐘の音が耳の奥でこだました。

大きなスクリーンに文字が現れた

『私は日本人として生まれた』

ハッキリとした字幕は、静寂に包まれた館内の人々を惹き込み、やがてもう一度スクリーンは暗くなった。

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