ローカルルール

 大学生だった頃、トランプゲームの珍しいローカルルールにいくつか出会った。いまではほとんど忘れてしまったが、特に印象に残っているのはサークル内で「タコパ式大富豪」と呼ばれていたものだ。

 「タコパ」というのは何代か前の先輩のあだ名で、要するにそのタコパ先輩が伝来させた大富豪のルールを「タコパ式」あるいは単に「タコパ」と呼んでいるということだった。


 「タコパ」はまず通常のセットを使わない。トランプの数字ごとに次のように枚数を揃えて使う。


1が一枚

2が二枚

3が三枚

4が三枚

5が五枚

6が六枚

7が七枚

8が八枚

9が八枚

10が十枚

Jが十一枚

Qが十二枚

Kが十二枚

ジョーカーは使わない


 通常の大富豪より手札が多くなるので、大人数向きのルールだった。サークルでは専用のセットを用意して使いまわしていたが、一から準備しようと思えば当然三セット以上のトランプが必要になる。裏面の柄は混じっていても構わない。むしろ戦略性が増すという触れ込みだったが、ぼーっと遊んでいる僕にはよく分からなかった。


 むしろ「タコパ」の妙な人気を支えていたのは、もう一つのルールだったのではないかと思う。このルールは「タコパ」の中でも独立して「さるすべり」という名前がついていた。

 「タコパ」では同じ数字の札を四枚同時に場に出すと数字の強弱を逆転させることができる。ここまではよく知られた「革命」のルールと同じだが、「タコパ」ではさらに、革命を起こしたプレイヤーが「さーるすーべり」と掛け声をかける。その間に全てのプレイヤーは手札から一枚を選んで裏にして伏せておく。掛け声が終わると、伏せた札を右隣のプレイヤーに渡す。間に合わなかった場合は自分の番を二回パスされる。

 革命で札の価値がひっくり返る中でいらない札を判断するのはなかなかスリリングだった。


 さて、ある日そんな「タコパ式大富豪」をしていたときの話である。そのとき僕の手札には7の札が三枚あった。確率は大きくはないが、「さるすべり」によって7の札が手に入ればその場で革命返しができるかもしれない。

 一応弁解しておくと、サークルでのトランプゲームは派手な戦い方の方が喜ばれる気風があったのだ。一回や二回負けたところで罰ゲームがあるわけでもなし、僕は7の札を手札に残し続けた。


 実際に「さるすべり」が起き、7の札を手に入れたときは有頂天だった。だが、革命返しをするためには場に出ている札の数字が7より弱い必要がある。慌てて確認した僕は混乱した。


 場に出ているのは四枚の7の札だったのだ。これでは7の札が八枚あることになる。これを伝えると、みんなで札を並べて枚数を確認することになった。みんな勝敗よりも降って湧いたミステリーの方が興味があったということだろう。結果は次のようなものだった。


1が一枚

2が三枚

3が二枚

4が三枚

5が六枚

6が六枚

7が十枚

8が十一枚

9が0枚

10が十枚

Jが十一枚

Qが十二枚

Kが十三枚


 これにはみんな呆れた。こんなことになっているのに誰一人気づかないまま、尤もらしくルールを伝承し、戦略性がどうのと語っていたのだから、なんだか寓話じみた話である。

 特に不思議だったのはKの札だ。三種類ある裏面の柄のうち、一種類が五枚あった。誰かがいたずらで同じ柄の札を買ってきて忍ばせたのだとしか思えなかったが、それがいつからなのかすら分からないのでは追及もできなかった。


 なぜここまで細かく数字を覚えているのかというと、僕がそれをメモしていたからだ。当時のメモ帳が発掘されたことで、この体験談を書くことができた。この事件の後少なくとも三回は札の増減があったが、僕以外の部員がそれに気づいた様子はなかった。犯人はどれほど歯がゆかっただろうと思う。

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