キャプテンキッド

 高校生の頃、二回ほど選挙管理委員会を経験した。生徒会選挙の時期は書類作りなどで結構遅くまで残ることもあり、帰宅部だった身としてはちょっとしたイベントだった。


 その日は、教師と委員の一人と僕の三人で遅くまで仕事をしていたのだけれど、何かの拍子に僕だけが生徒会室に残ることになった。ふと気づくと、どこかから歌声のようなものが聴こえる。

 夜は遠くの音が届くから、それかと思ったけど、声は部屋の中から聴こえるようだ。

 これでも音の方向を聞き分けるのは得意だ。歩きながら探してみると、机の下から手回しラジオを見つけた。型は違うようだけど、「技術」の授業で作った教材のラジオによく似ていた。

 その頃には歌の正体もわかっていた。合唱曲の「カリブ 夢の旅」だ。

 再生を止めてふと違和感を持った。どうしてラジオから合唱曲が流れてくるのだろう?不思議ではあったが、ラジオ番組に特に詳しいわけではないのでなんとも言えない。


 そうこうしているうちに教師が帰ってきた。ラジオを持っているのを見られたら説明が面倒なことになるかと思ったけれど、教師は「キャプテンキッドでしょ?」とだけ言うと自分の使っている席に戻った。

「よくあるんですか?」と聞くと、「よくあったら怖いよ」とだけ返ってきた。たまにしかなくても怖いよ、と言いたいところだったが、相手は無口なおじいちゃん先生で、普段よく話すわけでもなかったので、なんとなくそのまま流してしまった。


 後日、もう一人の委員にその話をすると、「いやそれで平気そうなお前が怖い」と言われた。こちらもよく話す相手ではなかったので、随分失礼な言い草だとムッとしたものだけれど、こうして体験談を書いていると、時々彼の言葉を思い出す。

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