締め切り厳禁
児童館というやつが、僕の住んでいた市にもある。漫画や絵本の置かれた部屋があって、まあ、本当にそこで漫画ばっかり読んでいた記憶しかないんだけど、たまに子供を集めて工作したり、クリスマス会をやったりしていた。
大きな画面のある、学校で言うところの視聴覚室みたいな部屋があって、そこで道徳映画なんかを上映することがあった。上映中は基本的に照明を落として部屋を暗くするのだけれど、奇妙なことには、この部屋は決して締め切ってはいけないのだった。
寒い季節には「ストーブの排気のため締め切り厳禁」というようなことが張り紙に書かれていた。暑い季節には紙が張り替えられて、「蚊取り線香の煙のため締め切り厳禁」というようなことが書かれていた。
どちらも古い施設ならまあそういうこともあるかなというような理由ではあったけれど、いつ来ても途切れなく張り紙があり、そのくせ律儀に二種類を張り替えているのがなんだかわざとらしかった。
そんな場所で、ちょっとだけ不思議な体験をした。小学三年生ぐらいだっただろうか?とにかく夏の蒸し暑い時期だったことは確かである。夕方になって帰る途中で例の視聴覚室の前を通ると、バンバンと大きな音がした。
扉は半開きのままである。
他の子供がいたずらをしているのか、それともセミか何かが迷い込んでいるのか。児童館は見知らぬ子供の利用者も多かったので、できるだけトラブルにはなりたくない。それでも好奇心に負けて、思い切って中を覗いてみた。
いつも通り、イスも机もない殺風景な床があるだけだった。隠れる場所もないではなかったが、一通り探しても異常は見当たらなかった。ストーブはもちろん、蚊取り線香もおかれていない。照明もプロジェクターも落とされたまま。
結局バンバンという異音の原因はさっぱりわからなかったが、奇妙な体験談というにもいまいち締まらない。何より怪談として致命的なのは、締め切り厳禁というルールが全く破られていないことだった。そんなモヤモヤを残す体験だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます