一つは本物
温水プールの裏手にゴミ焼却施設が建っている。その壁には、僕が中学生ぐらいの頃まで不思議な模様が描かれていた。
その模様は、等身大の人型のシルエットがフリークライミングのように壁にいくつも並んでいる、というものだった。その人型がまた、妙に不気味な赤黒い色で描かれていたせいか、一つは「本物」だという噂があった。
と言っても、僕自身が誰かからその噂を聞いたわけではない。少し離れた場所の古いベンチに落書きがあり、複数の人型とそれを指す矢印、そして「一つは本物」という文字が書かれていたのだ。近くにはナイフを描いたらしい落書きもあり、なんからの事件の存在を匂わせていたが、それ以上の詳細は、ネットなどを調べてもわからなかった。
本物ったって、血天井じゃあるまいし、なんて考えているうちに、この模様は新しい塗装に塗りつぶされてしまった。少しして、ベンチも新しいものになったが、その前に一度だけ新しい落書きが追加されていた。
「最初に消えた一つが本物」とのことだった。
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