第20話 初めまして同居人(2)


「っ、総合ギルド? 君、冒険者だったのか?」

「孤児だったので、幼い頃に総合ギルドで冒険者登録しました。冒険者としても働きましたけど、もっぱらこっちで稼いで生活してましたね」

「ほ、ほほぅーーー……」


 総合ギルドで取得した『食品販売許可証』を見せる。

 冒険者登録証明カードの裏に記載されているそれは、学校でのインスタント食品販売許可を取る時にも絶大な効果を発揮した。

 一応、総合ギルドでの実績(売上のことな)もあるので、それも加味されて俺は学校でもインスタント食品を販売できることになっているのだ!


「つまり、貴族が食べても大丈夫ということだな!」

「そうですね。学校からの許可はもらっていますし。まあ、それでもお貴族様は平民の作ったものなど食べる価値もないと思われるかもしれないので無理にとは」

「いや、食べる! せっかく同室になったのに、そんな悲しいこと言わないでくれ!」


 と、スプーンを手に取り迷わずパクッといったー!

 なかなかに思い切りがいいな。


「美味い!!」

「お口に合ったならなによりです」


 結局さ、オムライスってのもいろんなやつがあるけどさ、シンプルなやつに落ち着くよな。

 まあ、俺が作ったので美味いのは当たり前なんだけど。


「はぐ、はぐはぐっはぐ!」

「…………」


 そして思ったよりお貴族様、食い方雑だな。

 いや、テーブルマナーも習えない環境なのかも。


「美味いーーー! 君天才だな!」

「ありがとうございます」


 だが掴みは完璧だな。

 末端の騎士とはいえ、身内に騎士爵がいるのなら多少……本当にちょっぴり、役に立つかもしれない。

 だがブローディアに横恋慕されちゃあ堪らない。

 一応確認しておくか。


「えーと、レキ様? は、騎士学科ですか?」

「うん! そう! あれ、なんでわかったの?」

「襟元のタイピンに家紋があったので」

「ああ、これ? え? これでわかるの!?」

「え」


 家紋の意味は総合ギルドで教わった。

 お貴族様とつき合うことがあったら、平民は迂闊な態度を取れない。

 知らないと処刑されることもあるのだ。

 命が懸かってるんだから、死ぬ気で覚えた。

 お貴族様にとっても常識だと思うんだけど……意外とそうでもないのだろうか?


「へー! すごいなぁ! 家紋ってそんな意味があるのかぁー!」


 もしかして俺の同居人、貴族の中でもヤバいやつ?


「夕飯も君のご飯が食べたいな!」

「食費をお支払いいただけるのなら」

「払う払う!」

「本当によろしいのですか? 食堂でしたら無償なのに」

「こっちの方が絶対美味しい!」


 それは食堂のシェフに失礼なのではないか?


「あ、でもあんまりお小遣いがっ」

「たまにお買い上げいただければ十分ですよ」

「っていうかさ、これから三年間同じ部屋なんだから、そんな堅苦しい喋り方するなよ! 俺もイストって呼ぶから、気軽にレキって言ってくれよな!」

「え、ええ……?」


 いきなりフレンドリー!

 お前の家のこと調べてからじゃないと怖くてそんなことできねーよ。

 レキ・ギェド……ギェド家……俺の記憶の中にある貴族の家名の中にはそんな家ねーんだよなぁ。


「お、王都近郊にお住まいでは……?」

「いや、俺は辺境男爵家の五男だから。マージで気ぃ使わなくていいよ」

「…………。わかった。よろしくな、レキ」

「おう!」


 辺境伯なら「馬鹿野郎、めちゃくちゃ上位貴族じゃねーか!」ってなってたけど、辺境の男爵家の、しかも五男ってことは実質いずれ平民じゃねーか。

 家を継ぐこともなく、騎士爵が得られればまだいい方。

 ただの騎士として国に仕え、酒屋の看板娘と結婚してささやかな幸せを得られたら御の字な、そんな存在!

 なんだ、全然雑魚じゃん。


「あ、そうだ。イストは普通科だよな?」

「え? うん」

「じゃあ大丈夫だと思うけど……一応。貴族科に王族がいるから、気をつけた方がいいぜ」

「!」


 現在のシンビジウム王国、国王トール陛下には五人の妃と十二人のご子息、ご息女がいる。

 けれど、その半数近い五人ものご子息が亡くなっているらしい。

 正妃リザベラ様のアイビス王子が王太子となっているが、リザベラ様のご子息は生まれてすぐ二人も亡くなっているし、第五王妃はたった一人の息子が落馬で死んでいる。

 どう考えても王座を巡った暗殺の横行だ。

 学校に入学する年齢まで無事に生き抜いた王族……第三妃、第十王子のジルレイド王子か。

 たしか、双子だったけど第九王子は名前をつけられる前——難産のために出産直後すぐに息を引き取ったんだっけ?

 ……まあ、これは王家の正式公表ではなく、第二王妃側から“第三王妃の産後の肥立ちが悪いため、代理で”発表されたこと。

 怖いよな。

 絶対殺ってるよ、第二王妃。


「わかった、学科違うし、接点はないと思うけど」

「おれも。でも、なにがあるかわからないからなー」


 そう、王族と同学年ってだけでなにがあるかわからない。

 第二王妃エリセラ様は娘しかいないから、もし自分の娘を女王にしたいなら王子をすべて殺さなければならないのだ。

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