第18話 寮
それから一時間後。
「クラスが決定した! 張り出したクラスごとに席に座り直すように!」
と、教師が黒板に紙を広げて張る。
慌ててブローディアと見に行くと——。
「はあー! ブローディアと同じクラスになれてよかった〜!」
「うん、よかった!」
本当に安心した。
でも、自分がこんなに読み書きに自信がないと思わなかったぜ。
要練習だな。
「では、明日から本格的な授業に入る。必要なものは教室に揃えてあるので手ぶらで来て構わない。制服だけは必ず着用してくるように。特に平民は制服で貴族からの無茶振りを回避することができる」
めちゃくちゃ制服大事じゃねーか……。
「では解散」
「え、もう帰れるのか」
「午後からは騎士学科や魔法学科の入学式だと思うから」
「あ、そうか」
チセは午後からだったからな。
でも大丈夫かな。
貴族と喧嘩にならなきゃいいんだけど。
「じゃあブローディア、チセを頼むよ」
「うん、任せて」
最近の嫁感。
ブローディア可愛い。
「イストも」
「え? 俺? 俺は大丈夫だよ」
「寮も貴族と平民、基本は分けられてるみたいだけど……騎士学科と魔法学科と選択学科は普通科は身分で分けられないらしいから……」
「え」
そ、それってつまり貴族と同室になる可能性もあるってことか——!?
ひ、ひいー! 嫌すぎる!
「相性が悪ければ部屋を変えてもらうこともできるみたいだし、あんまり変な人と同じじゃないといいね」
「う、うん。そ、そうだな」
一気に不安になってきた。
いや、まだ貴族と同室になるとは限らないしな!
と、男子寮、指定された部屋に向かう。
俺の部屋は三階の真ん中、315号室。
「……いかん。そういえば俺、さっき地味にフラグ立てちまった気がする……」
まだ貴族と同じ部屋になるかわからない、なーんて……完全にフラグじゃないか?
ここで「ハハ、そんなまさかな」とか軽率に言うとマジで貴族と同室になりかねない。
ここは冷静に貴族が同室だった時のことを想定して、礼儀正しく平和的に接するべきだろう。
それに、もしも魔法学科の生徒だったら、仲良くなってチセのフォローとか頼めたりするかもしれないし!
よし! 何事も前向きに! だ!
「こんにちは!」
笑顔良し! 声量よし!
室内無人!
「…………」
無人じゃねーかよ。
俺の笑顔と爽やかな挨拶の意味〜〜〜〜。
「いや、待てよ。この時間に無人ってことは——」
この部屋の、もう一人の主は魔法学科か騎士学科の人間の可能性が高いってことじゃないか!
うおおお、マジか!
「……平民だといいんだけどな」
なんにしても、寮部屋というから期待してなかったんだが、これはなかなかに広い!
入ってすぐに左にシャワールーム、右にトイレ。
なんとまさかのバストイレ別。
バストイレがついてるのも驚いたけど。
凸状の部屋の左右にはベッドと机、クローゼットとラックが備え付け。
机の横には鞄や教科書。
それに、机の上には鍵と、財布?
学校の校章が入っている。
鍵はこの部屋の鍵だろう。
相手の机の上にも同じものがあったと思うが……一足先に片付けられている。
クローゼットの中には運動着が三着、制服の予備が二着、パジャマが三着。
下着や靴下、靴まで入ってる……。
ラックの中は空だが、配達を頼んでいた俺の荷物が横に置いてあった。
窓際には簡易キッチン。
食材保管庫。
そして、キッチンの上にあるのは火の魔石。
「魔石……」
魔石は魔獣を倒すと出てくる資源。
魔力を溜め込むことができ、魔法使いが[属性付与]という魔法スキルで属性を刻むと、属性に準ずる魔法を
魔法を覚えた魔石は、使用者が魔力を流すと魔法を吐き出す——たとえ属性素養がなくとも魔法を使うことができるという代物。
ただし回数制限があり、強い魔法は一回か二回で使えなくなる。
魔石の表面に残りの回数が浮き出ており、キッチンに置かれた魔石には『三十』という数字があった。
火の魔石、ということは、キッチンで料理をする時の火だろう。
隣に水の魔石もある。
こちらは三つ。
どれも同じく『三十』。
まあ、火を使って料理をする生徒は少ないが、水を飲む機会は多いだろうしなぁ。
俺としてはどちらの魔石も【インスタント】で弁当作る時にお世話になるからありがたい。
「! そうだ! 料理を作ろう!」
同室の相手が平民だろうが貴族だろうが、俺の[料理]スキルレベルは8!
貴族の家のシェフの平均スキルレベルと言われている。
食材が安物でも、美味いものを作れる自信はある。
そう! 名づけて『同室の野郎の胃袋ゲット作戦』!
味方に引き入れて、穏やかな三年間を過ごすのだ!
あとお貴族様ならあわよくば就職先紹介してもらったり、他のお貴族様から守ってもらったり色々融通きかせてもらったりしよう!
食材は【インスタント】で[空間倉庫]にストックしてある。
ちょうど火の魔石と水の魔石があるし、キッチンの棚の中に食器も調理器具も入っている!
クククククク……待っているぜ、同室の野郎。
俺の[料理]スキルでその胃袋、狙い撃つぜ!
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