第17話 入学!


 そしてついに翌日。

 寮に荷物は送ってある。

 まずは学校、講堂へと集まり入学式が行われるのだ。


「貴族科と騎士学科と魔法学科の入学式は一緒じゃないんだね?」

「時間をずらして行われるんですって。騎士科と魔法学科は平民よりも貴族が多いから」

「ふぅーん」


 ブローディアと講堂に入るが、チセだけは時間の指定が午後からになっていた。

 なんでだろう、と思っていたが身分制度のせいだったのか。

 午前中は平民オンリーの普通科と、ほぼ平民の選択学科の入学式が行われる。

 普通科は最低限の一般教養を身につける、前世の中学校みたいなところ。

 基本的に十五歳の、市民権がある男女が入学する。

 ここを卒業すれば、就職に多少有利になると言われているが、簡単に言うと就職先の選択肢をここで与えられるだけだ。

 たとえば農民がこの学校に通えば、農家以外にも就職先があるということを知ることができる・・・・・・・・

 学校に通わなければ知ることができない。

 いわゆる情報を得られるか得られないかの分かれ道。

 選択学科は、その名の通り専門学校みたいなもの。

 たとえば農民が選択学科に『商人になりたい』と目標を打ち立て入学したら、承認に必要な知識を得ることができる。

 どうやって専門的に学ぶのかは、普通科を選択した俺には知りようもないけど……まあ、専門学校なだけあって夢や目標がしっかりしている人間には学びに集中できるんだろう。


 そして、この場にいない貴族科、騎士学科、魔法学科。

 貴族科はその名の通りお貴族様オンリーの学科。

 帝王学とか政治学とか、国を治める者が学ぶようなそっち系の専門学校って感じだろう。

 あんま興味ないけど、平民とは徹底的に区別されてて校舎からして違う。

 高い壁で仕切られた、その奥が貴族科なんだってさ。

 まあ、ちゃんと区切られてたらこっちもお貴族様に関わらなくて済むからありがたいよ。

 そして騎士学科。

 騎士団に入学したい者が選択する学科。

 簡単に言えば騎士見習いの養成所だろう。

 魔法学科。

 こちらも魔法使い志望が集まる。

 主に王宮お抱えの魔法使い、または騎士団の魔法部隊の養成所。

 この二つは平民から位の高いお貴族様まで、幅広く在籍する。

 その分、身分の壁による差別や迫害も多く、貴族と平民がバチボコに対立しているとも聞く。

 特に平民の女はお貴族様に奴隷のように扱われるとか。

 めちゃくちゃチセが心配である。

 相手をバチボコにして目をつけられないだろうか……騎士学科と魔法学科の生徒は普通科や貴族科、選択学科と違い、そのようなトラブルが絶えないため、身分における忖度などは王命において禁止されていと聞くが……。


「心配だ……チセ、大丈夫かなっ」

「きっと大丈夫よ。姉さんもいるし」


 ソフィアさん。

 そ、そうだよな。

 ソフィアさんは魔法学科の先生だもんな。

 チセが暴走して人を殺めかけても、きっと守ってくれるはずだよな。

 最近ますます魔力が増えて、身体強化が自動発動してしまう時があるらしいからうっかり人を殺さないか心配で心配で。


(イスト、本当にチセちゃんが心配なのね。そうだよね、まだ十歳の女の子だもんね。お貴族様に目をつけられたら怖いもん……)


 と、ブローディアが普通の心配をしているのを知らない俺は、まだ見ぬチセによる被害を心配してやまない。

 まずは自分の心配をすべきだったのに——。


「えー、普通科と選択学科入学おめでとう諸君。まず、このまま講堂でクラス分けを行います。机に用意されている紙をめくってください」

「?」


 今更試験なんかやるんだろうか?

 学校は王立であり、平民はすべてが無償。

 理由は子どもという労働力を手放す平民が、ほとんどいないため。

 ブローディアは姉であるソフィアさんがここの教師になる程優秀で、村の誇りみたいになっているから手放しで送り出されたが、普通そんなことないのだ。

 俺も親がアレなので、本来なら学校の存在そのものを知ることがなかっただろう。

 だからここに通う余裕がある平民は、ぶっちゃけ国内では『変わり者』扱いされる。

 なので、入学希望はあっさりすんなり通るし、入試とかはない。なかった。

 それなのに、今更試験?


「…………」


 紙をめくったら、そこには名前を書く欄が一つ。

 その上に文字の羅列。

 あ、これ……読み書きのチェック、か!

 そうか!

 平民は基本的に読み書きなんて学ばない。

 最低限の教養を学ぶ学校という場所において、その最低ラインにすでに到達してる者、すぐに到達しそうな者、これから教えなければならない者とふるいにかけなければならないのか。

 ブローディアは——。


「?」

「……」


 にこ、と微笑まれる。

 その紙にはすでに名前が記載してあった。

 まあ、だよね?

 ブローディアは姉が教師。

 名前の綴りまで完璧。

 や ば い。

 俺は総合ギルドの勉強会で、文字の読み書きは教わってるけど……。


「っ」


 覚悟を決めろ!

 ここで躓くわけにはいかないぞ。

 ブローディアと同じクラスになるために! 

 俺の名前は、これだーーーーー!


「書いたら前に持ってきて」

「先に行くね」

「お、俺も!」


 ブローディアと同じクラスになれますように!

 ブローディアと同じクラスになれますように!

 ブローディアと同じクラスになれますように!

 ブローディアと同じクラスになれますように〜〜〜〜〜〜〜!

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