第16話 兄妹


「そうだったの。…………」

「? ソフィアさん?」

「私、もう少し調べてみるわ。十年前、この国の王家には赤子が産まれていた、という噂があるの。まさかとは思うけど……」

「……っ」


 チセの魔力量は常人ではあり得ない。

 この国の——幻想獣種を倒して喰らった者の末裔である王族並み。

 十年前。

 王家の子。

 ……ふっ、ラノベだったら盛大なフラグだなぁ!


「お兄ちゃん……」

「「!」」


 チセの声にソフィアさんとダイニングの入り口を見る。

 そこにはバスタオルを巻いたチセ。

 ど、どうして!

 ああ、いや、これもまたこういう話の時のフラグか! 回収か!


「チセ……お兄ちゃんの、ほんとのいもうとじゃ……ないの……?」


 ああああああああああああああああああああ!!

 フラグを無事に回収してしまったぁーーーー!


「っ、チセ……」

「お兄ちゃん……」

「——だとしても! チセは俺の妹だよ。血が繋がってなくても、チセが王族でも貴族でも」


 本当言えば、そろそろチセに実の兄妹ではない、ってことを言うつもりだった。

 タオル一枚のチセに近づいて、抱き締める。

 そうさ、赤ちゃんの頃からずっとお世話してたんだから。

 俺はチセと血は繋がってないけど、チセがどんな血を引いていようと。


「チセが何者でも俺の妹はチセだ。チセは、スラムの……負け組の血を引いてる俺が兄貴じゃ嫌か?」

「!? 嫌じゃない! チセのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけ!」

「よかった。俺の妹もチセだけだよ」

「……お兄ちゃん……」

「たとえ身分が理由で離れ離れになることがあったって、お兄ちゃんはずっとチセの味方だからな」

「……おにい、ちゃ……うん、うん。チセも。チセもずっと、なにがあっても、お兄ちゃんの味方だよ」

「っ」


 え、泣くよ?

 こんなに健気に思ってくれる妹がいて、泣かない兄とかいる?

 心の大洪水が決壊寸前だよ?

 ああ、目から汗が止まらない。

 俺の妹マジブローディアと同率首位で世界一可愛い……!


「ふふ。……でもその格好のままだと風邪ひくから、早くお風呂に入ってきなさいな」

「ふぁ! はい!」

「しっかり温まってくるんだぞ」

「う、うん!」


 ブローディアもお風呂で心配して待ってるだろう。

 ……というか、ついに実の兄妹じゃない、ってチセにばれちゃったな。

 こんな形でばらすつもりはなかったんだが。

 まあ、仕方ない。

 どうせ近く話しておこうと思ってたし。

 でも、話すタイミング、本当にこれでよかったのかな。

 もっとチセが大人になったあとでもよかったんじゃないだろうか。

 はぁー、結構フラグって簡単に回収されてしまうものなんだなぁー。

 気をつけよう。


「ソフィアさん、台所を借りてもいいですか? 明日から売るパンのストックを、もっと作っておきたいんですが」

「ええ、構わないわよ。明日私にも売ってちょうだいね。お湯で三分ふやかしただけで元に戻るなんて、本当に便利よね〜」

「そうですね。総合ギルドで働いていた頃も、たくさんの人にご愛用いただきました! 学校卒業後はこのスキルで店でもやろうかなって、ちょっと考えてます」

「あ、それはいいかもね」


 このスキル、【インスタント】だ。

 総合ギルドの依頼を受けながら、俺はこのスキルを使ってインスタント食品を販売していた。

 特に冒険者たちには野宿の時、あったかくて豪華な食事を食べられると好評だったんだぜ!

 そしてその売上のため、俺は料理の腕を上げた。

 今の[料理]スキルのレベルは8!

 一般的な主婦が5〜6あたりだとすると、俺は店を開けるレベルだ!

 でもブローディアの飯の方が美味いと思う。

 いや、ブローディアの方が美味い。

 なぜならブローディアが作るからだ!

 そして冒険者たちもより美味いものを食うために、材料をタダでくれたりする。

 おかげで珍しい食材で美味いものを作る研究も捗り、前世の知識も活用して前世ではありえない食べ物までインスタント食品にできるようになったぜ。

 特にパンは意味わからん。

 お湯に浸して三分待つと、サクサクふわふわのパンに戻る。

 明らかに「お湯どこへ消えた?」って感じだよ。

 これもスキルの力っぽい。

【インスタント】はどんなものでもインスタントにできてしまう。

 冒険者たちが持ってきてくれた食材や、依頼ついでに集めておいた食材も、【インスタント】にして保存しておけば嵩張らない。

 しかしふと、ビーフシチューを作って皿に入れ、それに【インスタント】スキルを掴むてみた。

 すると皿ごと【インスタント】できた。


「……でき、ちまった」

「お兄ちゃん! お風呂空いたよー!」

「それともお姉ちゃんが先に入る?」

「私はレポートを書くからあとでいいわ」

「お兄ちゃん?」

「っ! あ、ああ、お風呂、入るよ」


 慌てて[空間倉庫]に入れる。

 皿までインスタントにできるなら、もしかして売れるものの幅が広がるんじゃないか?

 というか、たとえば、武器とか、家具とか。

 いや、でもお湯で戻さなきゃいけないから、武器の類はダメか。武器じゃなくて防具とかなら。


「…………」


 あのクズ親父の顔を思い出す。

 俺の【インスタント】は、悪い使い方をすれば密輸などに使える。

 とことん——俺はあいつの血筋なんだな。

 胸糞悪い。

 いや、でも俺は、絶対に悪いことにこのスキルは使わない。

 俺は、ブローディアとチセを幸せにするんだから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る