第14話 九年後(2)


 カウンターの内側から出てきたミホシウルフは、俺たちのパーティーの一員。

 エルドとロビンの子ども、リッツ。

 総合ギルドの事務員さんたちにもふもふされて、癒しを与えるバイトが日課。

 これが、なかなかに儲かる。

 俺たちの宿代はリッツが稼いでいると言っても過言ではない。


『ったく、相変わらず喧嘩っ早いな〜』

「お兄ちゃんが馬鹿にされたのよ!? 当然の報いよ!」

『じゃあしょーがねーな』

「えええ……」


 そしてチセとリッツはオレに甘すぎない?


「これが見られなくなるとはな」

「本当に寂しいわ〜」

「絶対また来てね! いつでも待ってるから!」

「はい! またいつかお世話になります!」

「心配しなくても、また遊びにくるわ」

『オレはバイトでまた来るしな〜』


 最後の依頼を無事に……無事に? ま、まあ、気絶してる冒険者たちは自業自得だし? うん。

 とにかく、俺たちは居候先に駆け出す。

 王都クロッカスは魔法国家と言われるだけあり、建物が縦に伸びて生えている。

 元々は大地に建てられていたが、人が増え、発展するにつれ元々あった建物の下に建物を作り、王侯貴族などの地位が高い者が上、平民が下の区画に住むようになった。

 魔導具エレベーターやエスカレーター、テレポートステーションなどがあちこちに設置してあり、縦横無尽に扉が漂っている。

 まあ、普通に迷子になるよな。

 俺たちが今居候しているのは、中層上部にある士官寮の一室。

 明日からは王城側にある縦長の建物、シンビジウム王国王立学校の寮に住む。

 荷物はすべて運んであるし、今日がこの居候先に帰る最後の日だ。


「ただいまー!」

「ただいま帰りました」

「お帰りなさい!」


 扉を開けると、木造の廊下。

 その最初の間口から、エプロン姿のブローディアが顔を出す。

 え、最高すぎでは?

 いつ見ても俺は夢を見ているような気になる。

 だって亜久亜ちゃんと同じ顔のブローディアがエプロンで料理しながら「お帰りなさい」って笑いかけてくれるんだぞ?

 俺、死んだ?

 あ、死んでたわ。転生してたわ。

 って、なるじゃん?

 はぁーーーーー、かわいいいいいい!


「今日も儲けてきたわよ!」

「本当? すごいねぇ」

「お風呂沸かしてくるね」

「うん、ありがとう」

「っ」


 帰るなりブローディアに後ろから抱きついて甘えるチセ。

 俺はリッツと狭い廊下を進み、脱衣所から浴室に入る。

 スラムはあんなに底辺なのに、王都に住むと生活水準が突然前世の日本並みになるのだから世の中生まれって本当に大事だよ。

 親ガチャって言葉、俺は好きじゃなかったけどマジでこれな、ってなる。

 あのクソ親父は森の肥やしになったから、もうあのスラムに行く用事はない。

 思い出すのも不愉快だから、忘れよ。

 ……と、思うんだが、最近チセについて思うことがある。

 チセは魔法適性が非常に高く、エルドとロビンに「もうこれ以上教えることはない」と言われるほど。

 その結果、ブローディアのお姉さんに相談して現在に至る。

 ブローディアのお姉さんは、シンビジウム王国王立学校で魔法科教師をしているのだ。

 彼女の勧めで俺は普通科、チセは魔法科に入学推薦を得ることができた。

 チセは十歳での入学。

 これは破格の待遇らしい。


「ただいまぁー」

「あ、お帰りなさい! ソフィアさん!」

「おかえりぃ、姉さん」


 帰ってきた!

 そう、このいかにもお色気魔女、みたいなこの人がブローディアのお姉さん、ソフィアさん。

 シンビジウム王国王立学校、魔法科教師にして王宮魔法研究者。

 最初紹介された時は「すごい! 眼鏡と唇の右下に黒子ほくろなんてエロい! これが保護者枠のお姉さんか!」と感動したものだけど……。

 研究者・・・ってのは、馬鹿にできないもんだよなぁ。


「ブローディア、ご飯作っておいてくれたの?」

「うん。今日の夕飯はチセちゃんたちが獲ってきてくれたリーバードの照り焼き」

「わーお、美味しそう!」

「……お姉ちゃん、脱ぎっ放しにしないで」


 裸族。なのだ。

 さすがに俺がいるので下着に留めてくれるのだが、十分目の毒!


「そうだわ。明日から寮に入るけど、三人とも準備は終わっているのよね?」

「はい!」

「もちろんよ」

「うん、大丈夫」


 三人、というのは俺とチセとブローディア。

 そう、ブローディアも俺と同じ普通科に入学が決まってる。

 チセは一人だけ魔法科なのだが、魔法科にはソフィアさんがいるから心配は心配だが心配はしてないというか。

 まあ、違う意味で心配ではある。


「寮はブローディアと一緒なのよね? ご飯の時はお兄ちゃんとブローディアと食べられるのよね? ね?」

「うん。寮は男女別だけど、食堂は共同だから一緒に食べられるよ」

「ブローディアとチセちゃんは寮部屋も一緒だから、なんにも心配ないわよ」

「やったー!」


 ……羨ましい。

 い、いや、羨ましくなんてない。

 チセはまだ十歳なんだから仕方ない。

 ブローディアが同じ部屋で面倒を見てくれると思えば!

 ……俺だけ一人男子寮なんだよなぁ、仕方ないんだけど。

 寮は二人一部屋。

 俺も明日からは寮で同室の奴との生活かぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る