第11話 この国は
『先程倒したフォレストグリズリーも、食う時には感謝をする。それが“心”ある者の行いだ。お前は生肉は食えないと言っていたから、我らの食事を見せたことはなかったが……』
「……うん、そう、だね。そうか……うん」
生き物を食べる時は感謝する。
前世の日本でもそうだったじゃないか。
だからこそ、「いただきます」という言葉がある。
手を合わせるという行為……儀式があった。
些細でも、食べるものに感謝をする心。
もしも……もしも俺が魔獣に食べられるのならエルドたちみたいな“心”ある魔獣に食われたい。
ちゃんと感謝して、残さずたべてもらいたい。
まあ、そもそもまだ死にたくないんだけど。
「……なるほど、[魔獣語]を話せるのは本当らしいな」
「は、はい」
やべ、交渉中だったのを忘れるところだった。
「それに子どもを襲う気配もなければ、理性的だ。珍しい……うんうん、どうやら“心”があるのは間違いなさそうだね。“心”のある魔獣は珍しいよ」
「そう、なんですか」
『人間よりも魔獣の方が“心”を得にくく失いやすいのだ。先程のフォレストグリズリーは言葉も持たず、無差別に人間を襲っていただろう? ああいう魔獣が八割を閉めていると思え』
「そ、そんなに」
『人間は二割が“心”を持たないと言われている。そして“心”を持たずとも理性と知識で“心”があるフリをしている人間は、“心”を持たない魔獣よりも危険だ。見分けるのも難しい。気をつけるんだぞ』
「う、うん」
なにそれめちゃくちゃ怖ぇぇ……。
でも、一人心当たりがある。
あの男——チセを俺のところに連れてきた、金髪の口ピアスの男。
顔は笑っていたけど、目は笑っていなかった。
きっとあの男が『“心”がないのに“心”があるフリをしている人間』だろう。
「それで? 坊やはどうしてその歳で魔獣と契約することになったんだい?」
「えーと、親がクズで。エルドとロビンがたすけてくれたんです」
「簡単に言うねぇ。……でも、なるほどね。王都クロッカスのスラムの子——ってところか」
「……おーと?」
首を傾げる。
すると女性は指を指す。
あの、巨大な町。
「あそこは『シンビジウム王国』の王都『クロッカス』。幻想獣種、火焔竜を倒して食った男の末裔が王族として統治している。現国王はトール陛下。大陸最大の魔法国家さ」
「…………」
シンビジウム王国。
王都クロッカス。
国王は、トール。
それが俺が生まれ育った場所、統治している王の名前。
えー、は、初めて知った〜!
王国だったのか〜!
っていうか……幻想獣種を、食った!?
「げ、げんそうじゅーしゅってすっごく強いんだよ……? それをたおしてたべたの?」
「そう伝わっているね。だからシンビジウム王国の王族はみんな、凄まじい火属性魔法を使えるんだ。他国ではあれほどの魔力を持つ王族は存在しない。だからこの国は他国の侵攻を受けず、平和なのさ。まあ、魔獣は出るけどね。平民にも魔法を習う場所や機会が設けられて、他の国より被害は少ない」
「っ……」
「それがこの国が魔法国家と呼ばれる所以! ってわけなんだが、やはり知らなさそうだね」
「う、うん。はじめて、知りました……」
自分の生まれ育った町のことも、国のこともなにも知らん。
今日生きるのでいっぱいいっぱいだったから。
魔法国家ってことは、優秀な魔法使いがたくさんいるってことなのかな。
いいな、魔法。
もっと俺もたくさん覚えて——ひとまずあのクズ親父を殺す……。
そしてなにか仕事をして、家を借りるなり建てるなりしてチセを学校に通わせ、ブローディアと結婚してあたたかで幸せな笑顔の絶えない家庭を築く……よーしこれだ!
俺の人生設計かなり固まってきたぞー!
『だが、この国は他国より魔獣が多い。被害についてはよくわからんが、少なくとも幻想獣種が十体もいるのはこの国だけだろう』
「え! 幻想獣種ってそんなに少ないの!?」
『幻想獣種だからな』
「っ、そのうちの三体があの森にいるんだ?」
「魔獣……エルドだっけ? 三神獣の森の話かい?」
「あ、は、はい、そうです」
思った以上にレアだったんだな、幻想獣種。
この国には十体。
大陸では二十にも満たない数しかいないらしい。
無論、未発見の幻想獣種もいるのかもしれないが。
「そうさ。三神獣の森を監視するのが王都クロッカスの役目。もし万が一、三神獣が“心”を失ったら、シンビジウム王家がなんとかしてくれる、ってね。なにしろ王家は幻想獣種の一体を、倒したて食ったことがあるんだ! 幻想獣種は倒して食うと、その力をそのまま手に入れられるらしいよ」
「へ、へぇー」
本当かなぁ。
でも、幻想獣種三体も住んでる森の真横に王都を作ってる時点で相当自信あるんだろうし。
俺たちみたいな平々凡々な民としては、そんな天災にわざわざ立ち向かってくださるというんだから、その時は期待しちゃおう。
個人的に刺激しないのが一番だと思うけど。
「うん、そしてあんたの後ろのミホシウルフ……これだけ長時間話してても落ち着いていてこっちに襲いかかってくる気配はないね。“心”がある魔獣なのは間違いなさそうだ。この村を守ってくれるって?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます