第7話 【インスタント】スキルを使ってみよう!


 ——そのように、俺は一週間毎日群れのみんなの指導を受けてめきめき能力を伸ばし、スキルを増やしていった。

 やはり師となってくれたのがミホシウルフの群れだったので若干……若干人間としてどうなんだろう、っていうスキルもなきにしもあらずだが。


「よし、今日はいよいよギフトスキルを試せるぞ……!」

『そうね、頑張って』

「うん! 行ってきます!」


 チセをロビンに預け、エルドと森の中に向かう。

 森の中なら夜泣きをしても人間に居場所を悟られることはない。と、思う。

 それにしても、結局チセを連れてきたあの男は何者だったのだろう。

 考えても仕方ないし、嫌な感じしかしなかったから一旦忘れておくべきなんだろうけど……。


「それではまず火を起こして」


 ミホシウルフたちは火を起こす文化などないので、薪を集めてきたら石で縁を作り、その中に拾った薪木……と言っても体の小さな俺が拾えるのは細い枯れ枝ばかりだけど——を入れて火をつける。


「[着火]!」


 火魔法、[着火]。

 低級の魔法で、ステータスに表示こそされないが生活魔法と呼ばれるジャンル。

 よく習得できたな、と思う。

 魔法を教わりながら「こういうのほしい」と思いながら訓練した甲斐があった。


『なにをするのだ?』

「ポテツをちょーりするんですよ。ちょーり、って言っていいのかわからないですけど」


 調味料も油もないしな。

 でも、油かぁ。

 オリーブオイルなら頑張れば作れたりしないだろうか?

 森の中だし、もっと動けるようになったら探してみよう。

 とはいえ、ナイフもまな板も鍋もないので、砕いたポテツを川で洗って、木の棒に刺して——これはポテツが硬くて失敗したので石の側に置いて炙る……ということしかできなかった。

 味はどうかな、とかじる。

 ぽり、ぼり、ぽり。

 うん、あったかいだけでいつもの生ポテツだ。


「どうぐがもっとあればなぁ……」


 せめてナイフ……!

 皮を剥いてカットすれば火も通るだろうに!


『本来の目的を忘れているぞ』

「そそそそうだった!」


 今日の課題は【インスタント】を使ってみることだった!

 エルドに言われて気づくとは不覚。


「じゃあ、やってみる」

『ああ』


 手のひらの中に生温かくなったポテツを包む。

【インスタント】発動。


「!」


 手のひらの中身がほんのり光って、瞬く間に小さくなる。

 これ以上小さくならない、と言わんばかりに光が消えてで、合わせていた手のひらを開いてみた。

 すると、カラカラに乾燥したポテツ。


『すごいなこれは、どうなっているのだ? 縮んで干からびた』

「これ、お湯に浸けると元に戻るんです」

『元に戻るんでる? また食べられるようになるのか?』

「スキルしょーさいには、そのように書いてありました」

『ふむ、保存食を作り出すスキル、ということか? 我らには理解し難いが、人間は食事にこだわるからだろうか』

「そうですね……なんでもナマでは食べられないです」


 俺もできればポテツを美味しく調理して食べたい。

 チセだってもう少し大きくなったら、離乳食とかになると思うし。

 そうなったら、ポテツをすり潰して食べさせてあげたらいいのだろうか。

 ポテツ……どうしたらお前を美味しく調理できるんだろう。

 けど、まあ火は起こせるし水も川から汲んで来ればいい。

 問題はそれを入れる鍋だ。

 ああ、せっかくポテツを保存できるようになったのに……!


『なんにしても、ギフトスキルの発動は問題なくできるようになったようだな』

「あ、はい! ちゃんとできました!」

『よし、では群れの移動先探しを手伝え。近々少し深いところへ拠点を移す』

「? どうしてですか?」


 群れは定期的に拠点を移し、人間の襲撃をされにくくするという。

 けれど、エルドたちが俺たちを拾った時からさほど時間は経ってない。

 引越しには時期が早いと思うんだが。


『嫌な予感がするのだ。この森には三体の主がいると、ロビンに習っているな?』

「は、はい」

『時折それらの討伐のために、人間が多く森にはあることがある。その時期が近い気がする。最近斥候のような人間が増え始めているからな。無駄なことをすると思うが、人間には人間の考えがあるのだろう。故に三体の主の住処より少し離れた場所に移動するつもりだ』

「そう、なんですね。わかりました、俺でおやくにたてるなら」


 一体はロックストーンドラゴン。

 人間はおろか並みの魔獣も手が出せない。

 もう一体はベヘモス。

 こちらも幻想獣種であり、ドラゴンに匹敵する魔獣。

 ……もうこの時点でこの森めちゃくちゃゆべーじゃん、となるが、最後の一体もヤバかった。

 フォレストマスタードラゴン。

 元々の森の主であり、非常におとなしい性格だが名の通りドラゴンである。

 ロックストーンドラゴンとベヘモスは、フォレストマスタードラゴンに「煩わしい人間の対処をする」代わりに、一区画を借りて住んでる状態、らしい。

 異世界の魔獣界隈にも賃貸とかあるんだ……。


『我らが今住んでいるのは、ロックストーンドラゴンの住処の側だ。人間どもは安直にベヘモスによく挑む。ドラゴンより弱いとでも思っているのだろう』

「お……おろか……」

『その通りだ』

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