第14話 夢の中の話?

 アランとの仲を進展させるため、マリアから色々とアドバイスを貰うと、私たちはお休みを言い合った。


 ずっと馬車に乗っていた名残か、横になると、ゴトゴトと馬車に乗っている感覚が蘇る。ここはベッドの上だと自分に言い聞かせていると、次第に意識が遠のいていく。


(明日も、無事旅を続けられたら良いな)


 アランは大丈夫だと言っていたけれど、野犬の被害に一抹の不安を感じながら、私の意識は闇の中に落ちていった。


 どれだけ時間が経ったのか分からない。

 ふと私は、人が動く気配で目を覚ました。


(マリア?)


 パタンとドアが閉まる音がしたと同時に、私は少し身体を起こした。窓から差し込む月の光が明るくて、室内がよく見える。

 予想通り、隣で眠っていたマリアの姿がない。


 どこにいったのだろう。お手洗いかな?

 しかしその予想は、ドアの向こうから聞こえてきた声によって否定された。


「……なさい……ア……様……」

「ああ、問……な……」


 ドア一枚隔てているため、何を話しているのかは分からないけれど、間違いなくアランとマリアの声だった。ミシッと床が軋む音が響いたかと思うと、隣のドアが閉じる音が聞こえてきた。

 マリアが部屋に戻ってこないと言うことは、アランの部屋に一緒に入ったみたい。


 急に不安がわき上がってきた。


 もちろん、マリアは信頼している。だけど、夜中にこっそり男性の部屋に行くなんて……いや、ルドルフもいるから、大丈夫だと思うのだけれど。

 それに、さっきマリアにアランをどう思っているか聞いたときも、もの凄い勢いで、弟のような存在、恋愛関係に陥るなんてあり得ない、と言っていたし。


 否定すればするほど、二人の会話を聞きたい欲求がわき上がってくる。

 かと言って、こっそり隣の部屋のドアの前で聞き耳を立てるっていうのも、褒められた行動じゃないし。


 大きくため息をつくと、私はベッドに横になった。瞳を閉じると、また眠気が襲ってくる。


 現実と夢の狭間を行き来しながらも、私は、隣の部屋の会話が気になって仕方なかった。


(気になる……何を話しているのか、聞きたい!)


 そう思った瞬間、


『本当にお疲れ様です、アラン様、ルドルフ様』


 突然マリアの声が、耳元で響き渡った。


 え?

 マリアが、アランとルドルフに、様つけ?


 それに、声色だっていつものお姉さん的な明るさがない。まるで、仕えるべき主人と話をしているような緊張を纏っている。クロージック家の使用人が、叔父さんやお義母さんと話す時みたいに。


 耳元で聞こえる声に、いつもと違うマリアの様子。

 これはどういうことかと思った瞬間、


(ああ、夢だわ、これ)


 そう思ったら、急に全てが受け入れられた。

 きっと私、あまりに二人の会話が気になりすぎて、夢に出てきたんだわ。うん、あるある。こういうリアルな感じの夢をみることって。


 取り乱すことなく、私は夢の会話に耳を傾けた。


『マリアもありがとう、エヴァの傍にいてくれて』

『それで、野犬討伐の方はいかがでしたか? 怪我など、なさってはいないでしょうか』

『ああ、もちろんじゃ。野犬は、すでに精霊の影響を受けて、力を失いつつあったから、討伐は簡単じゃったよ』

『そうでしたか……やはりエヴァ様のご心配が、精霊に……』

『そういうことだな』


 マリアの言葉に、アランが同意しているけど、私の心配が精霊にって、どういうことかしら?

 いや、深く考えるのはよそう。だってこれは、夢だもの。


『とりあえず、野犬の死骸は、村長に届けておいた。やはり死骸がないと、本当に討伐されたか不安だろうからな。俺たちのことは伏せるように伝えている。変に目立って、後々面倒くさいことになっても嫌だからな』

『賢明なご判断だと思います、アラン様。これでエヴァ様の不安も取り除かれ、安心なさるでしょう』

『そうだといいな』


 声色から、アランが笑っているのが分かった。

 夢の中のアランとルドルフは、噂の野犬を退治してくれたらしい。


 夢は、自分の願望が反映されると聞くから、私は無意識のうちに、二人に野犬を退治して欲しいって思っていたのかしら? 本当に討伐に出かけるっていわれたら、全力で止めると思うけれど。 


 部屋に沈黙が流れた。

 その間に、私の意識は睡魔に誘われるように、夢も見ない程の深みに落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る