荒波に乗って
列車が図中駅に止まり、何人かの乗客が入ってきた。まだ頭が揺れていて、思考が定まらない。後頭部に血がじんわりと張っていく感覚がある。
「鹿谷、引き金くらいは引けるよな?」
「…ああ」
「構えとけ、恐らくだが、コイツらは全員敵だ」
薙が小声で囁いた。なるほど、確かに誰も通報をしていない。一般人ではないだろう。
腕を上げて銃を取り引き金に指を添える。同時にサラリーマンが席に着く、光が走った。銃弾が相手の口を貫き、窓に血が飛ぶ。肩が真っ赤に染まったのが横目で見えた。
薙が走ってナイフを構えた男の腕に飛びつき、手首を噛みちぎる。他の乗客も一斉に武器を取り出した。撃たれた右肩を揺らして銃口を逸らす。何度も引き金を引く、何度も。何人かの体に弾が掠って皮膚が飛び散った。
かちん、と音が鳴って弾が切れる。自分がうめく音が煩わしいほど聞こえた。誰かの指が目の前に転がってくる。ナイフが喉元に刺さった男がもがいて腕を振り回す。薙は体を細かに動かして舞を踊るように男たちの間を飛び回っていた。
重たい体を起こして立ち上がり、男の喉元からナイフを引き剥がした。力任せに振り回し、薙を取り囲んでいた迷彩姿の男を斬りつける。肩にスッと傷をつけたナイフは勢いのまま床に叩きつけられ、俺の腕は迷彩姿の男に掴まれた。
「腰が入ってねぇよ、ガキ」
男は俺の腕を軽く背中に回し、床に叩きつけた。起き上がろうとするが、関節が極まっている。
「折るぞ」
男は半笑いでそう言うと、骨が軋んだ。みしりと音が響いた後、突然、男の力が緩んだ。きっと薙だろう、体を引きずって手すりを探す。
「骨っていうのはな、何回にも分けて折るのが一番なんだ。一発で折るとアドレナリンを出させちまう。苦痛はちゃんと感じて貰わんと」
声が近づく、目を動かして武器を探す。何もない。こんな時は自分の体を信じるべきだろう。男の手がゆっくりと腕に触れる。体を捻った。折れた腕をだらりとぶら下げ、男にのしかかる。頭の上で何かが飛び散る音が聞こえた。
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