揺れる
誰も乗っていない、静かな列車を見るのは中々ない。普段の騒がしく、熱気に溢れた光景に慣れてしまっていたが、本来の姿はこっちなんだろう。シートに腰を下ろして一息つくと、薙が距離を二人分ほど空けて座った。
「終点まで間に何駅だ?」
「8駅ほどだな、乗ってくるんだろ?」
「ああ。通常の客とは一見見分けがつかないから、何箇所かの負傷は覚悟しておけ」
古い線路を使用しているのか、会話の間に何度も大きく列車が揺れた。戦闘の際に気をつけなければならなそうだ。
『間もなく、真波、真波、お出口は右側ドアとなっております。お降りの際は、足元にお気をつけてお降り下さい。 we’ll soon arrive Manami terminal 』
アナウンスが鳴った。薙が日本刀の状態、クロスボウの再装填を行う。俺はガバメントがポケットに入っているのを再確認し、備える。列車が停止し、ドアが開いた。数人が乗り込んでくる。
新聞紙を手に大事そうに抱えた中年の男、急いで整えたのか、髪の毛がぼさっとしているサラリーマン、おぼつかない足取りのお婆さん。どれも警戒の必要がなさそうな人たちだ。
ふと気を緩めた瞬間、頭に重い衝撃が走った。くるくる回る眼球の中で、新聞紙がちらりとはためいた。脳震盪が起こり、体がふらつく。足を使って体を持ち直そうとしたら、再度衝撃が襲った。
「ミルウォール•ブリックか、早業だったな」
ぼやけた視界に薙の姿が見えた。丸めた新聞紙を持った中年の首を両腕で固めている。裸絞めのような体勢だ。シートに手を乗せて体を支え、起き上がらせた。中年は背後の手すりに勢いよく体をぶつけ、薙を引き剥がした。中年の落とした新聞紙を拾い、奴の頭に叩きつける。ぐらりと大きな体が揺れ、俺たちの体も右に引っ張られた。荒い線路に出たようだ。
揺れたままの俺の体はふわりと浮いて列車内を転がる。薙はシートの縁を掴んで留まっていた。
『間もなく、図中、図中…』
揺れが収まり、全員が体勢の立て直しを計る。自分の体とは思えないほどに融通が効かない。手を床に叩きつけ、体を浮かせた。いつの間にか、俺と中年は向かい合わせとなっていた。中年は足を肩幅ほどに開き、構え、右足を下げて蹴りを出す。右手を中年の膝裏に差し込んで空を切らせた。空振った蹴りは勢いよく手すりに当たり、中年の顔が少し歪む。薙が揺れで床に投げ出された日本刀を掴んで投げる。中年の右頬に入った刃は、そのまま列車の壁へと突き刺さった。
「チッ、手間取りすぎた」
薙が中年の額にクロスボウでボルトを撃ち込み、殺した。他の乗客は呆気に取られ、ただただ黙り込んでいる。再び静寂が訪れた。
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