カタール

 男の死体がホームに転がった。薙は上機嫌に足を走らせて死体を漁る。スーツのポケットからは銃が一つ出てきた。


 「見ろ、M1911だ。通称コルト•ガバメント、お前も映画とかで見たことあるだろ?」


 鈍く銀色に光るその銃は、画面越しで見るよりずっと魅力的だ。人を殺す道具なのにな。ポイッと手に向かって銃が投げられた。


 「持っとけ、役に立つ。ソイツには安全装置が付いたままだから、撃つときはしっかり握れよ」

 「良いのか? 一般人に銃なんて渡して」

 「法律上ではダメだろうな」


 中々に重いもんだ。鈍器としても使えるとは聞いたことがあるが、こんなもので殴られたら即死だろうな。


 「今何時だ?」

 「5時10分」

 「この駅の始発は?」

 「確か…6時だったはず」


 こんな駅に止まる電車なんて数本しかないが、それでもまだ忘れられてはいない。


 「駅弁は食べるか? 美味いぞ」


 薙はギョロッと死体に向けていた目をこっちに向けた。少し呆気に取られたような表情だ。


 「まだ弁当のことを考えてたのか…」

 「胸肉がブルーベリーソースで味付けされていてな、美味い」

 「ブルーベリーソース…?」

 「酸味があって非常に美味しい、税込600円だ」


 死体から弾丸を取り、ポケットに入れると、薙はサイフを取り出した。100円玉をチャックを開いて六つ取る。


 「そんなに言うんなら、買ってこい」

 「爺さんが来るのを待たなきゃな、お手製だ」

 「何時に来る?」

 「8時頃」

 「そんなに待てるか、6時に始発でこの町を出るぞ」

 「売店になら置いてあるかも」

 「……とっとと行ってこい」


 売店は改札を出て直ぐ右手にある。「坂田商店」と手書きで書いてある看板が目印だ。カウンターの下にズラリと弁当が並べられているのが見えた。薙の分を上から一つ取り、600円をトレーに入れる。食べた後の反応が楽しみだ。


 突如、コトンと物音が響いた。後ろを振り返ると、ダガーのような物を握りしめた青シャツの男が立っていた。男が拳を突き出すと、刃は勢いよく直進し、俺の右腕をグジュッと抉った。痺れるような痛みが流れる。間髪入れずに二度目が来た、蹴りを使って相手の体を浮かす。勢いはあまり乗らなかったが、脇腹に上手く入った。相手が仰け反っている間にホームへと走る。


 ホームへ入った瞬間、ボルトが頬をかすめた。


 「二人目か、頑張ったな」


 青シャツは頭を貫かれてホームへとヨロっと倒れ込む。今日で切り傷は二つ目だな。


 「こいつが持ってるのはカタールだな。メリケンサックみたいだろ? 腕の勢いをそのまま刃に乗せられる、危険な代物だ」


 螺旋状の装飾が目に痛い、相当な金がかかった武器だ。


 「お前の傷はかなり深いな、少しこっちに来い。応急処置くらいはしてやる」


 薙は針と透明な糸を取り出した。傷口がゆっくりと縫い合わされていく、ちょっと痛いが、幸せな時間だった。

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