第2話

「オルス、オルス」

 

 母の声が聞こえ、同時にやわらかい掌が、オルスの頬を何度も叩く。


「衛兵の方が迎えに来たわよ」


「もう?」


 窓を見る。淡い色をした日の光が、山間に隠れようとしていた。起き上がろうとすると、全身の筋肉から悲鳴のような痛みを感じた。


「うっ」


「どうしたの。怪我でもしたの?」


「違う。筋肉痛みたい」


 オルスはようやく起き上がる。机の上に、自分の衣装が置かれていた。


「これに着替えるのか」


「玄関で待っているから」


 そう言って、母はオルスの部屋から出ていく。オルスはうめき声をあげながら、ゆっくりと衣装を着た。


 玄関を出る。そこには両親と、テッドの家族がいた。


「今、起きたよ」


「俺も。風呂、入ったか?」


「しまった」


 オルスは腕や脇を嗅いでみた。


「まあ、大丈夫だ」


 城内に着くと、貴族達はすでにワインを嗜みながら、談笑をしている。オルスとテッド、二人の家族は、部屋の隅っこで固まっていた。


「国王、入られます」


 国王が入ってくると、その場にいた全員が談笑をやめ、一斉に国王に体を向ける。


「諸君、集まっていただき、ありがとう。簡単だが、祝勝会を開きたい。今日の夜までだ。まあ、諸君は色々やりたいことがあるとは思うが」


 国王は、咳払いをした。


「まずは、魔王を倒した英雄たちを紹介しよう。兵士、オルス。魔法使い、テッド。こちらに」


 二人の前に、衛兵がやってきた。


「私たちの後に付いてきてください」


 いわれた通り、二人は衛兵の後ろに付いていった。貴族たちが全員、こちらを見ている。二人は胸を張り、行進するかのように歩いて行った。


 回れ右をして、国王の方へ向いた。


「この若者二人が、魔王を倒し、この国に平和と安定をもたらした。この二人に乾杯を」


 国王が言い終えると、周りの貴族から次々に乾杯と言う声が聞こえた。グラスに入ったワインを飲み干し、拍手が鳴り響く。


「国王である私は、この二人に称号を与えようと思っている。オルスには勇者。テッドには賢者だ。そして、新たに勇者の剣と、賢者の杖を贈呈しようと思う」


 二人は驚きながらも、喉から声が出ないように必死に耐えた。


 国王はオルスに勇者の剣を渡した。テッドには賢者の杖を渡した。二人ともどうしていいかわからず、手に持ったまま、固まってしまう。


「そして、この二人の家族には、新しい地区の新しい家に住んでもらおうと思っている。そして、かまど税、食料税などの税金を永久に免除する」


 貴族達は、再び拍手をした。


「では、今日は盛大に祝ってくれ。私からは以上だ」


 再び衛兵が来ると、家族の所まで送ってくれた。


「おい、今の話を聞いたか? 本当に税を免除してくれるのか」


「まるで私たち、貴族じゃない」


 二人は手に持っている剣と杖を見て、困惑していた。そこへ、ウラシュがやって来た。


「隣の部屋に来てくれ」


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