第3話

 二人は、ウラシュの後に続いた。祝勝会場の部屋から離れる。廊下を少し歩いた先。ウラシュはドアを開けた。その部屋はテーブルが二つ、椅子が八つ。壁には絵画が一枚しか飾られていない。部屋の隅には、花瓶と数本の花が飾られていた。他の部屋よりも、かなり質素だった。


「この部屋は、他の部屋よりも壁が分厚くてね。だが、この部屋に入ったとわかれば、聞かれたくない話をしているともわかる」


「大丈夫なのですか?」


「今日は誰も気にしていないよ。自分の事でいっぱいだろう。オルス、君にはこれから、特別な任務を与える」


「……はい」


「これから色んな都市を回り、君の強さを証明するんだ。あの魔王を倒した勇者だと、触れ回る。私も一緒に回る事になった」


「……はい」


「テッド、君は他国の魔法使いと一緒に、あの石板と魔方陣の解読を進めてくれ。他の国々が、快諾してくれたよ。各国の優秀な魔法使いが、魔王城に集まる。君を中心にするそうだ」


「ありがとうございます」


「魔王がいなくなった後の仕事は、今までとはまるで違う。訓練も大事だが、周辺の奴らに、自分達がいかに強いかを見せつけていかなくてはならない。新しい武具も、戦術も必要となるだろう」


 ウラシュはドアを開け、部屋から出るように促した。二人は黙って、部屋から出て行く。


 会場に戻ると、先ほどよりも目に見えて、貴族の人数が減っている。国王もいなかった。部屋の真ん中の辺りに、オルスとテッドの家族が、楽しそうに談笑している。


「おお、帰ってきたか。色んな貴族と話せたか」


 みんな、顔を真っ赤にして酔っ払っている。


「やあ、本当に良かったよ。叱ってばかりの息子が、こんな立派になるなんてな」


「うちなんて、朝から晩まで、魔法に関する本しか読んでいなかったのよ。どんな大人になるか不安でしかたなかったわ」


 父親達は笑っている。


「これで平和になった。魔物に怯えず、仕事に精が出せるな」


「皆さん、楽しんでいますか?」


 そこに、ウラシュが現れた。両親達は酔っ払いながらも、何度も頭を下げた。


「この二人のおかげで、世界に平和がもたらせました。貴族を代表して、お礼を述べます。本当にありがとうございます」


「いえ、そんなもったいない」


 両親達は視線をどうすればいいのかわからず、目をキョロキョロさせていた。


「二人は今後も、この国に貢献してもらいます」


「有り難いお言葉です」


「それでは」


 ウラシュの背中を見つめ、テッドの母親が言った。


「まさか、貴族様から声をかけてもらうとはね。考えた事もなかったよ」


「本当だなぁ」


 オルスとテッドは、軽くため息をついた。


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