第16話

魔王の体が再び、浮上する。何も持っていなかった左手に、杖が現れた。四人は魔王を睨みながら、距離をあけていく。


「いいか、杖は全体を攻撃してくる。さらに、剣で一人を狙い撃ちにしてくるぞ!」


 四人は構えた。再び立ち上がる。


「月の位置は?」


 勇者が聞く。


「十五年前と変わらん」


 賢者が答えた。


「あの時は二人だけだった。だが、頼もしい仲間がいるから、なんとかなるな」


 勇者が笑った。魔王が杖を振りかざす。巨大なファイアボールが、一気に十個も作り出される。一瞬、驚いたものの、すぐに防御態勢を取った。


 四人に火の玉が降ってきた。全員が避ける。オルスは避けながら、魔王の次の動きを待つ。


 大剣を片手で振り下ろしてきた。冷静に避けたはずだった。


「ぐっ!」


 体が痺れ、受け身がとれずに倒れた。


「シールド」


 オルスの周りに、光の球体に包まれる。直後、上から重い衝撃を喰らう。大剣が振り落とされた事を知った。


 だが、それ以上の追撃が来なかった。自分の体が繋がっているのがわかると、ふらつきながらその場から離れる。


 見ると、他の三人が何度も攻撃を繰り返していた。オルスは剣をとり、加勢しようとした。直後、魔王が大剣でなぎ払い、三人を接近戦に持ち込ませないようにした。


 オルスは魔王の背中に向かって走り込む。ふと、握られていた左手が開いた。そこから、黄色い光が生まれた。咄嗟に左に飛ぶ。


 メガサンダーを、寸前で避けた。


「ライトニング!」


 テッドが叫ぶ。魔王の前で、光の球体が回転する。魔王は振り払おうとする。


「ゲンカーク!」


 四人の姿によく似た、白い姿の者達が現れた。戦うそぶりを見せる。魔王はそいつらに大剣を振り回す。


「もう少しで月が真上だぞ!」


 四人が一斉に攻撃を仕掛ける。同時に、魔王が剣を突き立てた。地面から黄色い帯が、部屋の隅に向かって走り出した。四人が体を震わせ、地面に膝をつく。


 魔王の大剣が、テッドの体を突き刺そうとする。


「シールド!」


 賢者とテッドが同時に叫んだ。テッドの前に、二重のシールドが張られる。だが、魔王の大剣は、それを簡単に破った。


「ぎゃっ!」


 テッドは吹き飛ばされた。魔王の大剣に刺さったのは、賢者だった。


「メガサンダー!」


 賢者はありったけの声で、魔王の顔面めがけて杖を向ける。そこから、稲妻が走った。魔王がよろめく。賢者が振り落とされる。


 賢者は、テッドに杖を投げた。オルスはありったけの力で、魔王に向かって短剣を投げた。右腕に刺さり、動きが止まる。


「ホーリー!」


 テッドが魔王の下に、結界が出来る。魔王の身動きがとれなくなった。


「地面にシールド」


 勇者が駆け出す。オルスも後に続く。少し先の地面に、シールドが張られた。そこにめがけて飛んだ。反発力で、天に向かって高く飛ぶ。魔王の動きが復活した。上を向いた。勇者は剣を下に向けた。


「アイスボール」


 魔王の杖が、手から弾かれる。だがすぐに、剣が出てきた。魔王は勇者を突き刺す。


 勇者は身を縮ませる。血が飛び散る。だが勢いが衰える事なく、右目に勇者のロングソードが突き刺さる。そのまま床へ落下した。


 魔王が右手の剣を捨て、刺さったロングソードを引き抜こうとした。


 そこにオルスが、勇者と全く同じように、魔王の頭部に向かってロングソードを突き刺した。


「ぎゃぁぁぁ!」


 オルスは着地した。魔王が叫ぶ。勢いよく倒れ、蒸発した。


「倒したのか?」


 天を見る。真上に来ていた。静寂が襲う。階段から、こちらに向かって昇ってくる音が聞こえた。とっさに二人は、武器を構える。仲間達だった。


「おい、魔物が消えたぞ」


「勝ったんだ……」


 力つき、その場にへたり込むオルスとテッド。他の兵士達は、次々と玉座の間にきた。そして、勝ち鬨を上げた。


「やった、倒した」




 月明かりの下、魔王が蒸発したのを見届けたオルスとテッドは、勇者と賢者の方へと駆け寄った。勇者から離れた所に、右足が転がっている。兵士が数名囲んでおり、医療を行った。


「勇者」


 オルスが割って入った。


「あいつは、もうだめか……」


 静かに横たわる賢者を、勇者はじっと見ていた。


「足を縛ります。テッド、すぐに冷やして」


 テッドは切られた右足を、アイスで固めた。


「目を閉じさせてやれ」


「はい」


 テッドは言われた通り、賢者の目を閉じさせた。勇者は、階段からやってきた衛兵によって、担架で運ばれていく。賢者も、白い布を被せられ、担架で運ばれていった。


「もう少し、賢者様といたかった。様々な魔法を教えてもらった」


 賢者が使っていた杖を胸に抱き、瞼をギュッと閉じる。オルスは、優しく肩を抱いた。


「おい、誰か来てくれ」


 一人の兵士が叫んでいる。声は部屋の奥から聞こえた。松明を持ち、大きく手を振っている。二人は、そちらへと向かった。


「これ、扉じゃないか?」


 そこには、複雑な形をした、紋章が描かれている。そして、大きな窪みがあった。


 テッドはライトをいくつも使い、周囲を明るくした。何か仕掛けがないか、数人で探していく。


「おい、レバーがあったぞ」


「引いてみよう」


「また、魔物が出てこないよな。一旦、隊長に相談した方がよくないか?」


「魔王は死んだんだ。出てくるはずがない」


 オルスはレバーを引いた。紋章が二つに割れていく。大きな扉が引かれる音がする。暗闇で何も見えない。ライオードを放った。人がすれ違える程の狭さで、一本道になっている。


「どうする?」


 テッドが聞いた。


「行こう」


 オルスはロングソードを持ち、中へと入っていく。テッドは、ライオードで照らすようにした。


 気配は一切ない。下は敷き詰められた石ではなく。土だった。


「魔物が掘ったのか。でも、どうして?」


「答えは、奥にあるのだろう」


 長かった。二人は歩く速度を速めた。前に、小さな光が見えてくる。テッドは明かりを消した。小さな光が、だんだんと大きくなっていく。


 二人は息を殺し、足音を消した。


「外だ」


 そこは広場だった。


「これは……」


「どういう事だ」


 そこには、石板があった。そして。何かが刻まれている。横四十個。縦二十個。文字のようなものが、均等に刻まれていた。


「文字なのか。あいつら、読み書きができるのか」


「そんなわけない。そこまで、頭が良いなんて……」


 二人は石板を見て回る。何が書かれてあるのか、見当がつかない。


「おい」


 そこに隊長と、数人の兵士が、通路から現れた。二人と同様、石板に驚いている。


「魔方陣だ」


 下には、巨大な魔方陣が書かれてあった。まだ。薄く青く光っている。


「これは、魔物が作ったのか?」


「わかりません。できれば、この石板を他の国と一緒に、解読していきたいのですが」


「なぜだ?」


「これを解読すれば、魔物の事がわかるかもしれません。ですが、私達だけでは時間がかかります。他の国々の英知が必要です。一日でも早く解明したいんです」


「わかった。許可をしよう。上には私が掛け合う」


「ありがとうございます」


「さあ、帰ろう。凱旋だ。すでに、魔法のバードで、国王に報告が行っているだろう。後は私達が、直々に報告をするだけだ」


 隊長と数人の兵士は出て行った。それに続き、オルスとテッドも出ていく。


 ふと、オルスは反射的にロングソードを手に取り、振り返った。


「どうした?」


「いや、気配を感じたんだ」


 だが、誰もいなかった。


「疲れかな」


「きっとそうだろう」


 オルスはロングソードを鞘にしまい、二人は出て行った。


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