第15話

「被害は甚大。魔王城に入る、最低人数にも達していません。増援は、早くても夕方です」


「夕方まで待とう」


「その方が賢明だ。城の中もやはり強敵で?」


「一体だけだ。モラクス。牛の姿をした、悪魔だ。巨大で強い。攻撃の種類も豊富だ。全開はそいつのせいで、時間を食ってしまった」


「それは聞いています。そうしますと、上にどんどん行かせたほうがよろしいのですか?」


「いや、追いかけてくるかもしれない。そうなると、魔王と一緒に戦うことになる。だから、一匹に対し、あらゆる人数で戦わせて、モラクスを食い止める。そして魔王には、少数精鋭で倒すしかなくなる。大人数で、戦うのが一番いいのだがな」


 太陽が山間に隠れ、月が昇ってきた。増援部隊が到着した。


「これ以上は無理だな」


「多すぎて、魔王城へ入れない。これぐらいでいい」


 隊長は兵士達に指示を始めた。


「相手はモラクスだけだ。だが、強敵だ。オルスとテッド、ここに残れ」


 他の部隊長は、みんな伝えに行った。残る二人。


「二人は、魔王優先だ」


「二人だけですか?」


「勇者と賢者もいる。この中で一番活躍できるだろう。この四人で戦ってもらう。もし、モラクスを倒したら、そちらに加勢するようにさせる。お前たちは、一番後ろにいろ」


「はい」


「今日で決着をつけるぞ」


 プラッカー王国の兵士達が、一斉に入っていく。しばらく時が過ぎた後、オルス、テッド、勇者と賢者は、最後に入っていった。


 天井には、魔法使いが放ったライオードが、天井の至るとことに付いている。


 長くて広い廊下には、誰もいなかった。両脇には、幾つもの部屋があったが、魔物や味方の気配は全くない。


「駆けるぞ。時間が惜しい」


 勇者を先頭に、廊下を駆けていく。


「どいて下さい!」


 前から声が聞こえた。四人は右に避けた。衛生兵だった。すれ違う。そこには、右腕を潰された重装兵が、担架で運ばれていく。意識はなかった。


 次々と運ばれて来る。腹が千切れた者。顔面を潰された者。前から、怒号、悲鳴の声が聞こえて来る。


「いいか、俺たちの為に戦っているのだ。絶対に忘れるな。俺たちは一刻も早く魔王を倒すのだ。仲間のために!」 


 大広間に入った。天井にはライオードが沢山、張り付いている。それに照らされて、四方の壁には、真っ赤に染まっている。オルスは立ち止まった。


 恐怖に染まりながらも、各々の武器を構え、巨大な魔物に立ち向かっている。


 一軒家よりも大きい体格。前に向く、牙のような鋭い二本の角。


「前後の攻撃はするな。足の攻撃で潰される! 隙を見つけろ。むやみに動くな」


 隊長の指示が飛ぶ。


「弓兵、攻撃」


 何十本もの矢が、牛に向かって飛んでいく。だが、かすり傷しか負えない。


 牛の側面から、数人の兵士が斬りつけようとした。牛は素早く体を回転させ、兵士達を後ろ足で蹴り飛ばす。壁まで飛ばされた兵士は、そのまま倒れ、動かない。


「オルス、行くぞ!」


 勇者が怒鳴った。隊長の後ろを通った。


「俺たちが何とか倒してみせる。魔王は頼んだ」


 四人は二階に上がっていった。そこに魔王はいなかった。


「どうしていない?」


「これからだ。降臨してくるぞ」


 見上げれば、天井がなかった。綺麗な月が見える。


 漆黒の床から、わずかに輝く法衣が現れた。足がない。胴が現れ、腕が現れ、顔が現れてきた。


「来るぞ、魔王だ」


 ガイコツ姿の魔王。身の丈は石像よりも低い。が、人の大きさに比べれば、大人四人も合わせても、十分に高い。右手には剣を持っている。


 ガイコツは、オルス達をじっくりと眺めていた。法衣はひらひらと揺らめいている。魔王は剣をゆっくりと天にかざし、オルスに向かってくる。


 何も話さず、静かにこちらに近づいてくる。オルスは月の位置を見た。そして駆けだした。


「ダメだ、防御しろ!」


 勇者が叫んだ。すぐに体が反応し、すぐに盾を構える。瞬間、盾に衝撃がきた。勢いよく、後ろに飛ばされ、盾が割れる。オルスの体はすぐに反応し、受け身をとると、すぐに魔王に体を向けた。


 目の前に、魔王は剣を両手で持ち、振り下ろす。


 オルスは、右に飛んだ。剣から出される風圧に、吹き飛ばされる。背中と両手で受け身をとり、魔王に向かって剣だけを構える。


「メガファイアボール!」


 テッドが攻撃を食らわした。魔王はオルスに背を向け、反対側にいる。テッドの方に向く。


「伝えたはずだ。あいつの攻撃は緩急をつけてくる」


 魔王を注視しながら、勇者が駆け寄ってきた。


「あせるな」


「わかりました」


 ライトボールをくらわすテッド。軽く弾き飛ばす魔王。


「もっと強力な魔法ではないと効かぬ!」


 賢者がシャイニングボールを唱えた。魔王の顔面に当たり、よろける。


「炎!」


 勇者が駆けだした。同時に、賢者が、勇者の剣に炎を纏わせた。腹部に向かって、剣を突き立てる。


 深くのめり込んでいく。すぐさま、魔王の左手が、勇者の体を掴んだ。高く持ち上げ、床にたたきつけようとする。


 テッドがシャイニングボールを放つ。魔王の顔面に当たる。勇者が、短剣を左腕に突き刺す。魔王の動作が止まり、左手が離れた。


 勇者は床に受け身をとると、すぐにその場から離れた。


 魔王はじっくりと、オルス達を眺める。四人は魔王を中心に、囲んだ。


 賢者に剣先を突き立てる。予備動作なしで、突進してきた。


「バリア」


 賢者の前に、白く発光する半球対が現れた。同時に、体を縮める。剣先が頭上をかすめる。賢者は両手でバリアを押し上げる動作をした。


 大剣が上に弾かれた。腹部ががら空きになる。勇者が突っ込んでいく。


「テッド! 剣にマグマ」


 テッドは一瞬ためらったが、すぐに唱えた。オルスの剣が、赤く燃え上がる。


 魔王の腹部に、勇者とオルスの剣が突き刺さる。魔王は天を向いた。そして、ゆっくりと床に落ちていく。


「あちち!」


 テッドが唱える。


「コールド!」


 赤々と熱せられたオルスの剣は、一気に凍りに包まれた。蒸発する音とともに、剣は元通りになる。静けさに包まれた。


 オルスは倒れた魔王をじっと見ていた。他の三人も同じように、消えていかない魔王をじっと睨んだ。


「賢者。ここからですか」


 テッドが聞いた。


「真の姿を現すぞ」


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