第14話

「すぐに知らせろ!」


 テッドはマイクで仲間に知らせている。


「魔法部隊、すぐにゲンカークを!」


 魔法部隊が、ガイコツ騎士たちの前に立ちふさがった。そして呪文を唱える。


「出でよ 兵士たち!」


 地面からすっと現れたのが、透明な姿をした、兵士達だった。左手にある盾を前に出し、防御態勢を敷く。


「走れ! 数名はここに残るんだ」


 オルスは再び駆け出した。他の仲間達も、追従する。狭い螺旋階段を、何度もこけそうになりながらも、一気に下に降りていく。


 城下街に出ると、その場に置かれているグラブと盾があった。それを拾う。辺りを見回すと、魔物の姿はほとんど見られなかった。だが、倒れている味方の数も多かった。体のどこかに、矢が刺さっている。斬り倒され、その場に呻いている者もいる。衛生兵が負傷した兵を担ぎ、城下街から出て行く。それを何度も繰り返していた。


 前線に向かって走る。対面から、魔法部隊が、退いていく。


「間に合ったか?」


「もうすぐで、ゲンカークの兵士達がやられる」


「用意!」


 オルスの後ろから、隊長の号令。みな、すぐに攻撃態勢を整えた。一番前には、オルス達の軽装兵。その後ろには、重装兵が、体制を整えた。


 ゲンカークの最後の一人が、白い霧を残して消えた。馬に乗ったガイコツ騎士、およそ五〇体が列を整え、こちらに向いた。馬が嘶き駆けてくる。だが、プラッカー王国の兵士達は、まだ動かない。


「ウォーターフォール!」


 魔法使い達が一斉に唱えた。ガイコツ騎士の真上から、大量の水が落ちてくる。馬たちはバランスを崩す。乗っていたガイコツ騎士は落馬。すぐに立ち上がろうとした。


 そこへ、オルス達は棍棒で、頭部めがけて振り下ろす。骨が砕け散る。やわらかい地面の感触が、棍棒から手に伝わってきた。


 視界の隅から、ランスの先が見えた。寸前で避ける。もう一度、オルスに向かって、ランスを突き刺してきた。ガイコツ騎士の頭部が砕け散る。仲間が倒してくれた。


「ここからは、ゴリ押しだ!」 


 オルスも他の兵士たちも、冷静に相手の出方を見極める事ができた。ガイコツ騎士は、次々と頭を砕かれていく。


 周りに味方の兵士しかいなくなった時、遠くから勝ち鬨が聞こえた。その瞬間、オルスは深いため息をついた。


「これから、太陽が真上にくるまで、休憩だ。この後、魔王城に攻め入る!」


 各部隊は、何もない民家や教会、集会場で体を休めた。補給部隊が、新品の武具と食料を届けに来た。少量の食べ物を口にしたオルスは、集会場の隅で、休憩をとった。


「この前の仇は、とれたみたいだな」


 横に座ったのが、テッドだった。


「最初に倒した時は、緊張したよ。後は、冷静でいられたけど。お前、ここにいていいのか? 魔法部隊も、なにか作戦をしているんだろ?」


「すでにやっているよ。でも、厄介なことになっている。魔王城に入る門は、一つしかない。その門は木製でできているんだが、壊せない」


「さっき開いたんだけど、すぐに閉じた。中は全然見えなかったよ」


 二人は、民家から出ると、魔王城を眺めた。


 斥候部隊が、中の様子を探ろうとしている。その時、魔王城の扉の向こう側から、大きな音がした。扉が震えている。


「オルス、武器を」


丸腰のオルスは、すぐに自分の武器を取りに行こうと走り出した。その時、後ろから叫び声が聞こえた。同時に、風圧が体を襲う。


「うぁぁぁぁ!」


 体が半分に千切れた仲間が宙と飛んでいた。門から出てきたのが、石像だった。ゆっくりとこちらに向かってくる。


「退避!」


 隊長が叫んだ。


 巨人像は、全身ネズミ色で、上半身が裸、腰には簑を巻いている。右手には、剣の形をした、石を持っている。


 他の兵士たちは、破壊音に驚き、皆外に出てきた。そして、巨人の石像を見て、慌てて武器を取りに行っている。


「こんなのと、戦うのかよ」


 石像は、城下街にやってきた。背は軽く超えていた。二階建ての屋根と、肩の高さが同じだった。


「建物から出ろ。一人で戦おうとするな」


 巨人像は、手当たり次第、建物を破壊していく。中にいた兵士たちは、悲鳴を上げながら、潰されていく。


「ファイアボール!」


 魔法使い達が、次々と呪文をとなるが、傷どころか、跡もつかない。ダメ元で弓矢も放ったものの、簡単にはじき返されてしまう。


 軽装兵たちが注意を引く。巨人像が剣を振り回す。その隙に、重装兵達が足元に鉄球をたたきつける。だが、全くひるまない。


「メガサンダーを使え!」


 後ろから、男性の声が聞こえた。賢者だった。巨人像の前に立った。杖を天高く上げる。その瞬間、晴天から巨大な稲妻が、巨人像を貫いた。巨人像は体を震わせ、膝をつく。さらに他の魔法使いたちが、心臓めがけて一斉にサンダーを唱えた。細長い稲妻が、手から発せられる。そこにぽっかりと穴が開いた。赤い色が見える。鼓動している。


 動きが止まった。重装兵達が、ふくらはぎめがけて鉄球を振りぬいた。後ろに倒れこむ。


「こいつは人間と同じ、心臓がある!」


 一人の男が後ろから走ってくると、ロングソードを天高くかかげる。賢者は、杖からサンダーを出した。鈍く銀色に光っていたロングソードが、真っ白に光り輝く。男は両手持ちに変えた。


 巨人像が左手で、男を捕まえようとした。だが、右足で手のひらを蹴り、避ける。左足で着地。ロングソードで突き刺した。


「死ね!」


 巨人像の口が大きく開く。ゆっくりと後ろに倒れた。砂埃が舞い上がる。巨人像は蒸発した。


 歓声も勝ち鬨もなかった。周りの者たちは、ただ二人の姿を見ていた。


「勇者と賢者だ」


 オルスの隣にいたテッドが、つぶやいた。


「助かった」


 鎧を着た勇者が、兵士たちの方に振り向いた。


「いいか。ここから先、腕っぷしだけでは、勝てない。魔法が重要になる。よく連携を確認しろ」


 そう言うと、その場から離れた。隊長は我に返り、すぐに指示を出した。


「すぐにけが人の手当をしろ。亡くなった者は外へ。それ以外の者は休憩の後、城に侵攻する」


 周りの者は言われた通り動き始める。隊長の所へ、賢者がやってきた。


「すまなかった。あいつの事を忘れていた」


「いえ、倒せた事がなによりです。二人がいなかったら、全滅していました」


 そこに、伝令がやってきた。

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