第2話
「くそ!」
運よく、ロングソードは手放さなかった。すぐに片膝をついた姿勢で、反対側に体を向ける。
そこに魔物がいた。両手には、巨大な鎌のような武器を持つ、四足歩行の魔物。
「カマキルかよ」
鎌を振り上げ、オルスに向かって駆け出してくる。
「アイスボール!」
カマキルの背後ろから、呪文を唱える声。同時に、氷の玉が見えた。青年は、横に飛んだ。氷の玉は、カマキルの背中に当たり、勢いよく転ぶ。
青年は立ち上がり、すかさずカマキルの頭部めがけて、ロングソードを突き刺した。そのまま、蒸発した。
「ありがとう」
肩まで伸びた黒髪。右手に杖を持ち、青のスタンレーローブを身に纏い、赤いマントに包まれた青年が立っていた。
「オルス、大丈夫か?」
オルスは右肩を押さえながら、頷いた。
「ありがとうテッド。死ぬかと思ったよ」
二人は森を出て、太陽を浴びた。そこには少女と、仲間の兵士がいた。少女は目を潤ませながら、オルスの方を見ている。
「大丈夫か。どんな魔物だ?」
仲間が心配そうに聞いてきた。
「コンクーンとカマキル。油断していたよ。お嬢ちゃん、俺は大丈夫だ。ただ、これからは一人で森の中は、行くんじゃないぞ。ここも危険だ」
少女は、大きく頷いた。テッドは袋の中から薬草を取り出した。
「これを使ってくれ」
オルスは袖を破り、傷口に薬草を当てる。
「ありがとう。俺とテッドで、この子を修道院まで送る。後で合流しよう」
「わかった」
オルスとテッド、少女は森に背を向け、近くの修道院まで歩いて行った。
二人は少女を修道院に、送り届けた。少女は修道院長を見るなり、おなかに抱きつく。
「薬草を採っている時に、魔物に襲われそうになりまして」
「そんな……助けていただき、ありがとうございます」
「あそこの森も、決して一人では入らないように。では、私達はこれで」
「ありがとうございました」
少女は小さな手で、二人に大きく振っていた。それに答える二人。
「本当、嫌だよ。協議堂までの道のりはさ」
「仕方ない。いずれ先発隊の順番がくるはずだったんだから。あともう少しだ」
集合地点に向かうと、そこには軽装兵士が五名。重装兵士が五名。弓兵が五名。魔法使いが二名。そして隊長が馬に乗って待っていた。
「お待たせしてすみません」
「話はさっき聞いたぞ。魔物の行動はいつも通りか?」
「はい」
「ここら辺の魔物は、もういないはずだ。先に進もう」
隊長を囲むようにして、弓兵を前に出発をした。オルスは隊長の右斜め後方から、辺りを見回している。周辺からの魔物は見られなかった。
「しかし暑くなってきたな。鉄の鎧じゃなくて良かったよ」
「あれは冬用みたいなもんだよな。ここらへんじゃ、虫系の魔物しかいないし」
オルス達は無駄口を叩きながら、歩いていく。
目の前に、見上げるほどの大きな門が見えてきた。
「お疲れさまです」
門番をしている二人の兵士。革の鎧の胸部には、オルス達とは違う国旗が刻まれていた。
門を通過すると、そこからは石畳になっていた。隊長が馬を下りる。近くにいた兵士が、手綱を握る。
森よりも高い、レンガ造りの協議堂。扉が開かれていた。大人が四人、横に並んでもまだ余裕がある長さ。
「いつも思うんだけどさ。こんな大きな扉、いる?」
オルスがつぶやいた。
「しょうがないだろ。ここら周辺の国王達が来るんだ。これぐらい大きくしないと」
テッドが鼻で笑った。
「五ヶ国が金を出しあって作ったんだろ、この協議堂。ただ話し合うためだけなのに。一階しかないのに。中も豪華だし」
一行は、協議堂の中には入らず、右に曲がった。休憩所が見える。
「お疲れ様です。馬を預かります」
そう言って、一人の兵士が近づいてきた。門番とは違う別の国旗が、革の鎧に刻まれている。
「でさ、なんで俺たちの休憩所は、相変わらずボロいのよ」
「オルス、愚痴はそこまでにしろ。他の国の兵士にも移る」
馬小屋に引いていこうとしている兵士が、苦笑しながら頷いた。
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