05話.[慌ててしまった]

「二週間ルールか」


 二週間経過したことで穂波の中でリセットされて真樹を誘うようになった。

 ここで問題なのが取られたくないとか言っていた千葉の存在だ、千葉がいなかったら応援しているところだけどいるから難しい話になる。

 まあでも、穂波は相手をしなければならないと言っていただけで思わせぶりなことを言っていたわけではない、だから悪いとか言うつもりもない。


「どうしたの?」

「なんでもないわ」


 穂波が真樹のことを好きだということになったら面倒くさいことになる。

 言い争いから喧嘩に、なんてことにもなりかねない。

 逆にならない可能性もあるけど、絶対に隠し続けるということは不可能だから雰囲気がアレになりそうだった。


「テストが終わったらクリスマスだからね、頑張らないと」

「そういえばあんた、クリスマスはどうするの?」

「やだなー、真織と過ごすに決まっているでしょ」

「今年もそれでいいの? 別にいいならいいけど」

「当たり前だよ、真織以外で一緒に過ごせる人はいないよ」


 ふむ、まず間違いなく千葉は穂波を誘うだろうから分からなくはない、が、私と真樹では全く違うから言わせてもらっているわけだ。

 真樹にはなくてもどこかの女子の中には一緒に過ごしたいと考えている子がいるかもしれない。

 あれがあるから直接はぶつけられないけど、今回も半分ぐらいの確率で一緒に過ごせなくなるといった風に考えておくことにしよう。


「ま、真樹君、ちょっといいかな?」

「うん、分かった」


 ほらきた、きっとこれは始まりにすぎない。

 仮にもお姉ちゃんが寂しいとか悲しいとか言うのは違うので、とにかくいまは勉強に集中することにした。

 数学が少し苦手だからそれをメインにやっていく。

 序盤に飛ばしたところで続けられなければ意味がないので、あくまで自分のペースでだけどね。

 やっても二教科ぐらいだ、私の頭にはそれぐらいが丁度いい。

 色々足りなかった時代は無茶をして寝込んでテストの結果がぎりぎりに、なんてこともあったから気をつけているのだ。


「ふぅ、誘われたけど断ってきたよ」

「そ。まあ、一緒に過ごす気がないならそれがベストよね」


 そういうところだけは分かりやすく存在しているべきだ、面倒くさい感じにしないためにもなおさらのことだと言える。

 ただ、こうも考えた通りになるというのも微妙な話だった。

 いい方への妄想というのは叶わないのにこれだからさあ……。


「絶対に真織と過ごすから断り続けるよ」

「あんたの自由なんだから好きに――」

「え、それだと真樹君と一緒に過ごせないの?」


 さすがの真樹も彼女に対して強気でいくということはできないだろう。

 だからやっぱりひとりで過ごすことになるんだろうなと考えていた自分、


「うん、真織と過ごすから」

「え、ちょ、あんた……」


 まさかの結果に思わず反応してしまったことになる。

 それはともかくとして、彼女も諦めるつもりはないようで「嫌だ、一緒に過ごしたい」と重ねてぶつけた。

 でも、今日の真樹は違くて「分かった」とは絶対に言わなかった。

 心配しなくても一日一緒に過ごせなかったぐらいでこの前みたいに極端な行動はしない、一日も守れないようではしない方がマシだからだ。


「俺が相手をしてやるからそれでいいだろ?」

「嫌だ、広人じゃなくて真樹君と過ごしたいもん」

「お、おいおい、直接否定される側の気持ちを考えてくれよ……」

「ごめん、だけど本気だから、私は真樹君とふたりきりで過ごしたいの」

「そうか、それなら仕方がないな」


 大人の対応ができるのは素晴らしいことだ、だけどここでそんな物分りがいい感じを出されても困る。

 だって狙っている相手が他の男子といようとしているのよ? しかも普通の休日とかではなくてクリスマスなのよ? ありえないわよ。


「というわけで真織、相手をしてくれや」

「ちょ、ちょっと待って。真樹、あんたはどうするの?」

「僕は真織と過ごしたい」


 そこだけは付き合うというのも微妙だしな、こういう形になってしまった時点で詰んでいるのではないだろうか。

 なんて言っている場合ではないか、このまま解散にはできないからもうちょいいい感じで終わらせたい。


「あのさ、いつもみたいに四人じゃ駄目なの? この前の土曜日だってそうやって楽しめたじゃない」

「……真織がいると真樹君、こっちに意識を向けてくれないもん」

「あ、私のせいなのね、なるほどね……」


 なんとかしようとして動いた結果がこれ、あれといい黙っているぐらいが丁度いいのかもしれない。


「そもそもさ、真織はお姉ちゃんなのに真樹君に甘えすぎだと思う」

「そうねえ」

「いやまあ家族が学校にいればそりゃ近づきたくなるものだけど、もうちょっと考えて行動した方がいいと思うよ」

「いやもう本当にあんたの言う通りよ」


 なんでかこちらがちくちく言葉で刺されているけど、残念ながら止めてくれる存在はいなかったー。

 なにこれ、本当は嫌われていたってこと? それとも、真樹が関わっているから言葉で刺されているだけなの? ……どちらにしてもいい結果とはならない。


「真樹」

「……分かった」

「違う違う、別にそういうことが言いたかったわけじゃないの。私はただ、勉強もやれたからそろそろ帰ろうとしていただけのことで――」


 自分が悪く言われたくないから真樹に諦めてもらおうとしたわけではない、いまも言ったように勉強もやり終えたから帰ろうとしただけのことだ。

 いやまあ、自衛しようとしているのは認める、だけど誰だって悪く言われたくないからこんなものだろう。


「大丈夫だよ、でも、先に帰るなら気をつけて」

「あ、はい……」


 で、数分もしない内に帰路に就いているという……。


「なんか滅茶苦茶恥ずかしくなってきたわ、『穂波を取られたくねえ』なんて言ったことがさ」

「好きなら仕方がないでしょ」


 これは悪いパターンだ、私みたいに失敗するところしか想像できない。

 でも、目の前で好きな相手があんなことを言っていたらどういう気持ちになるのかは分からないので、


「でも、穂波は真樹が好きなのに気持ち悪いだろ? 反省してるわ、これからにちゃんと活かすよ」

「極端な行動はやめた方がいいわよ、やりきれる自信があるならいいけどね」


 自分と同じようにならないようにと注意しておいた。

 すぐに失敗した人間から言われたらこうならないように気をつけようとなるはず、だからあれも悪くないことなのかもしれなかった。

 これで少しだけでもいい影響を与えられるのであれば、だけど。


「しないよ、もうあんなことを言ったりもしねえけど」

「そう」

「少し話せてよかった、それじゃあな」

「あんまり考えすぎないようにしなさいよ?」

「おう、どうしようもなくなったら真織を頼るからよろしくな」


 うなずいて別れる。

 だけど多分、千葉が頼ってくることはないだろう。

 ただの勘だ、そのため、なんでと言われても困ってしまうことだった。




「た、ただいまー」


 かなり時間経過を待ったから真織はもう寝ているはずだった。

 リビングの電気は点いていない、が、この前みたいになる可能性があるから寄ることはせずに自分の部屋に移動する。

 いや別にやましいことがあるからこそこそしているわけではないのだ、だからまあ顔を合わせることになったとしても問題はないと言えばない。


「ふぅ」


 簡単に言ってしまえば僕は自分が言ったことを守っただけだ。

 絶対に真織と過ごす、そう言った後に他の人間と約束をするわけがない。

 つまり、二木さんに対してあれからも同じように対応をしたことになる。


「真樹? 帰ってきたの?」


 こういうときに限って積極的な真織、と。


「うん、いま帰ってきたんだ」

「随分と時間がかかったのね、クリスマスにどうするかを話し合っていたの?」

「違うんだ。真織、入ってきてほしい」

「え、あ、うん、別にいいけど」


 今日も電気は点けていなかった、最近は気に入っているからこれでいい。


「ちょ、暗いわね」

「電気、点けた方がいい?」

「まあ、移動するのが楽だから」


 それなら仕方がない、リモコンで点けられるから電気を点けた。

「眩しいわ」とか言いつつもベッドのところに近づいてきた真織、が、すぐにこっちの顔を見たまま固まった。


「もしかして――」

「真織」

「あ、皆まで言うなってやつ? 分かったわ――……どうしたのよ?」


 ちょっと困ったような顔をしていた真織を抱きしめた。

 正直に言ってしまうとそういう顔をしてほしくなかったとかそういうことではなくて、僕がしたくなってしまったというだけだけど。

 本当の寂しがり屋、甘えん坊なのはこちらの方だった。


「適当に絶対なんて言ったわけじゃない」

「そんなに私と過ごしたいの? 言ってしまえばいつもと同じなのよ?」

「だからこそだよ、だからこそいつも通り真織と過ごすんだ」

「分かったから離して。ふぅ、ここに座らせてもらうわね」


 流石に叩かれるとは僕だって思っていなかった。

 二木さんはいつだって千葉君といたし、こっちを誘ってくるということもほとんどなかったからだ。


「明日から気まずいわね、穂波、私にも言いたいことがたくさんあるわけだし」

「気にしなくていいよ、真織は僕が守るから」


 でも、あのときの選択は間違いなく正解だったと言える。

 あのまま自由に言わせていたらどうなっていたのかは分からない。

 真織も真織で「そうね」とか言ってしまうから慌ててしまった、なので多分、無様なところを晒していたんだろうけど。


「ぷふ、姉に対して言うのはなんか変ね」

「真織は女の子なんだ、妹でも姉でも他所様の子でも同じように言うよ」

「穂波も女の子なんだけど? あんた絶対に強気で対応するとか無理でしょ」


 全部教えているわけではないから仕方がないけど、真織はやはり勘違いをしているようだ。

 誰にだって同じようにできるわけではない、しかも誰よりも自分のために行動をしているのだ。


「できる、真織のことを悪く言うなら許さない」

「ちょちょ、マジになりすぎよ、私のことはいいから仲良くやりなさい」

「駄目なんだよそれじゃあ」

「いいから、落ち着いて行動しなさい」


 まあ、こう言われることは分かっていた、すぐに変なことを考えて遠慮する真織のことだから。

 そうとなれば黙って行動するしかない。

 距離を置いたりとかはしないけど、言わないでおいた方がいいこともあった。




「よう」

「あんたこんなところでどうしたの? 私に用があるにしても学校で待っていればよかったじゃない」


 休み時間になったら来ればいい、私なんてどうせ暇人なんだからいつでも対応できるわけだしね。

 私も彼も不効率なことをよくしている、でも、彼の場合は敢えてそうすることで内のもやもやをなんとかしたいのかもしれなかった。


「いいだろ、あ、穂波が無理だからって真織に変えたとかそういうことじゃないから勘違いしてくれるなよ?」

「あはは、それならいいけど」

「って、俺はそんな人間だと思われているのかよ……」

「冗談よ、だからそんな顔しないで」


 今日真樹は別行動をしているから悪いことではなかった。

 ただ登校するだけとはいっても誰かがいてくれるのとそうではないとでは全く違うからだ。


「昨日、穂波から断られたって言われてさ、話を聞きながら色々考えていたんだ」

「うん、私も真樹から聞いたわ」

「で、真樹が断ってくれたからと考えたわけじゃないけど、やっぱり諦められない」

「好きな相手なら誰だってそうでしょ、ストーカーとかにならなければ問題ないわ」


 幼馴染なんだし、すぐに連絡するあたり穂波の中で彼の存在はそれなりに大きいはずだった。

 自分があれだから都合が悪くなったときだけ利用しているだけとも見えてしまうものの、これは私の見方に問題があるということにしよう。


「でも、それは穂波も同じなんだよな、一度断られたからって諦められるはずがないよな」

「あー、そうね、確かに同じだわ」

「手強いな、真樹がまだはっきりとしてくれている分はいいけどさ」


 はっきりとしすぎだ、それはそれで問題な気がする。

 しかもいつでも一緒にいられる私と過ごすために、だからなおさらだ。

 私ならいつでも付き合うのに、意識していなくたって自然とそうなるのにさ。


「焦っても仕方がないな、今日もやらなければいけないことを頑張ろうぜ」

「そうね」


 テスト本番ももうくるわけだし、それを頑張ってからでも遅くはない。

 クリスマスだけではなく大晦日なんかがあるから上手く利用してなんとか少しぐらいはよくなるといいけど。

 いやまあそこは友達としてね、失敗したら友達でいられるかどうかも分からなくなるわけだから……。


「真織」

「なんで先に行ったのよ、待ってって言ったのに」


 合わせるために急ぐことすらさせてもらえなかった。

 それを見て今度は真樹が姉離れを選んだのかと少し寂しくなったぐらいなのに、いま目の前にいる本人は柔らかい表情でこちらを見てきている。

 自分が言うのはあれだけどもっと気をつけてほしい、簡単に影響を受けてしまうのだから。


「ごめん、ちょっとひとりになりたかったんだ」

「もういいの?」

「うん、もう大丈夫だよ」

「じゃあいいけど。今日の放課後も一緒に勉強をやりましょ」


 ひとりでやるより集中できる、また、分からないところがあったら教えたり教えてもらったりがやりやすくなるからいい。


「うん、あ、今日は家でやろう、また誘われたりしたら集中できないから……」

「分かったわ」


 家か、分かったと言っておきながらあれだけど誘惑してくる存在が多すぎる。

 特に本だ、ちょっと視界に入っただけで半分ぐらいは意識をもっていかれるから怖い存在だった。

 それもテスト週間となればなくなるだろうか、やばいな、ただテスト勉強をするというだけなのにいまから不安になってきてしまった。


「えっとあとは――」

「真樹君、ちょっといいかな」

「あ、二木さん……」

「そんな顔をしないでよ……」


 真樹には申し訳ないけど教室から逃げた、この時点で穂波のことを良くない存在だと考えてしまっているから微妙な気分になりながら、だ。

 同じ教室だから仕方がないという見方もできる、昨日中途半端な別れ方をしていたのであれば穂波はまだまだ話し足りないだろうからね。


「穂波も勇気があるよな」

「そういえばあんた、あれは聞いたの?」


 聞いていないのであればいちいち言ったりはしない。

 真樹だってほいほい話されたくはないだろう、穂波だってきっと同じだ。


「真樹を叩いたことだろ、全部教えてくれたよ」

「一緒に過ごしたいとぶつけるのはいいけど、叩くまでいくのはね」

「だな。好きでもなんでも擁護できるわけじゃない、だから昨日ちゃんと言った」

「多分、謝罪をするために話しかけたんでしょうね」


 というか、そうならなかったら私が嫌だった。

 でも、普通なら被害者面せずにそうするだろうから心配はいらない。

 逃げてきたのは見たくないとかそういうことではなく、昨日みたいになったら嫌だったからだ。


「別にクリスマスに一緒に過ごせなくてもいいから喧嘩別れみたいなことはやめてほしいな、春に出会ったとはいってもここまで仲良くやってきたんだからさ」


 仲良くか、昨日のあれだけで判断するなら正直微妙なところだった。

 穂波と真樹の間にはなにかがあってもこっちと穂波の間にはなにもない気がする。

 いや、あったけど不満に感じるところもたくさんあった、というところか。


「続くようだったら物理的に引っ張って離れさせるわ」

「止めるしかねえよな」


 それこそいま加わろうとするのは喧嘩を売っているようなものなので、それまでは介入しなくていい、できることはなにもない。


「広人、話も終わったからあっちに行こ」

「お、おう」

「大丈夫、ちゃんと問題なく終わらせたから」


 それならこっちは教室に戻ることにしよう。

 いまはただただ柔軟に対応をする必要があった。

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