第37話 ラッコにキュン死す。

 2年前にラブラドールを亡くしてから、幸せホルモンが出なくなった。SNSで大型犬の動画を見まくっていたが、いくら同じ犬種のかわいい動画でも、所詮他人様の犬。思ったほど満たされない。

 癒しを求めて深海魚や海獣などのオーシャン系の動画を見るようになった時、流れてきた一本のリール動画。

 そこには、まん丸い顔に黒い大きな鼻、つぶらな瞳でこっちを見ている物体がいた。流線型のフォルムで小さく万歳、濡れた大型犬のようなモフモフの物体。ラッコだった。

 ズ、キュン!可愛すぎる!キュン死とはこのことか!

 小学校の時、旧江ノ島水族館によく行っていたのだが、そこにもラッコがいた。昔もラッコが好きでキーホルダーを買ってもらったなぁと思い出しながら、ラッコの動画を貪り見ていくと、まさかの現実を知ることになった。

 現在、日本国内にラッコは3頭しかいない。鳥羽水族館にメスが2頭、マリンワールド海の中道にオスが1頭。今後、新たに日本に輸入されることもない。もう繁殖もできない。増えることはないのだ。

 引き寄せているのか、偶然本屋で「ラッコのすべて」という雑誌に出会い即買いした。見れば見るほどキュンキュンする。幸せホルモン出まくりだ。

 実物に会いたい。早く会いに行かなくては。

 推し活してる人を羨ましくも冷めた目で見ていたが、こんなに些細なきっかけで気力が湧いて前向きになれるなんて。ラッコのおかげで推し活している人の気持ちも、初めて理解できた。

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