第36話 家族の呼び名問題


 夫の呼び名がなくて困ったことがある。

 知り合った頃は苗字にさん付けで呼んでいたが、結婚後は「ねぇ」「ちょっと」で済んでいた。子どもが生まれてからも、お父さんとは呼ばなかった。私はあなたのママじゃないからと拒んだせいで、夫も私のことを昔のあだ名で呼び続けた。

 子どもの学校の救命救急講習を受けた時、「旦那さんが倒れたと想定して、大きい声で呼びかけて下さい」と言われ、結婚後初めて呼び名がないことに気付き戸惑った。「大丈夫ですか⁈」で乗り切った。

 団体旅行で夫が違う方向に行ってしまった時も焦った。ちょっと!では弱い。早く気付かせなきゃいけないのに、呼べない。迷っている間にどんどん離れて行ってしまうので、結局30年ぶりに「◯◯さん!」と夫の苗字を叫んだ。すごく変な感じだった。

 それから、子どもたちが「お父さんとママ」と呼ぶ問題。

 もともとお父さんお母さんと呼ばせていた。長女が保育所に通い始めた時、お気に入りのクマのぬいぐるみを持たせていたのだが、時折、そのクマを見失った長女が「クマクマは?」と探していたのを「ママは?」と聞き間違えた先生が、お迎えのたびに「ママだよー」と言い続けた結果、長女は私をママと呼ぶようになってしまったのだ。次女もそれに倣った。

 「お父さんとママ」と呼ぶまま高校生になり、ある日、友達との無駄話の流れから、事情のある家庭だと勘違いされていたことが発覚した。

 家族の呼び名って、結構大事だった。

 

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