第34話 スマホを失くして恥をかく

 スマホを失くしたことはない。一度だけ飲食店に置き忘れたことがあるが、すぐ店に取りに戻った。私のスマホには「そして、今日も飲む」というビールのイラストのステッカーが貼ってあり、ちょっと恥ずかしかった。

 数日前、旅行から帰ってきた夫が「スマホ置いてきたかも」と宣った。

「多分、ゴルフ場のロッカーだから」と大丈夫感を出している夫が理解できない。個人情報を抜き取られ悪事に使われる、一瞬で脳裏に最悪の事態が駆け巡る。車で3時間ほどかかる旅先は、すぐに探しに戻れる所ではなかった。

 翌朝、夫がゴルフ場に電話をかけていた。

「昨日そちらにスマホを忘れてしまって…多分ロッカーに…」

 フロントにスマホが届いていたらしく特徴を聞かれていた。

「黒のiPhoneで…裏に女の子の写真が2枚…」

 え⁈女の子?誰?気持ち悪っ!冷静に夫のスマホを思い浮かべた。

 あぁ。娘たちが、余った証明写真を夫のスマホに貼っていたのだ。娘の写真と言えばいいのに、女の子の写真、なんて変態じゃないか。それより、貼ってあるステッカーの説明をすればいいのにと思ったが、それも「誰がハゲやねん」と書かれたカッパのイラストだったので、プライドが許さなかったのか。

 画面の待受はふざけて撮ったアラ還の同級生のオジサンの写真だし、見つけたスタッフの方も、どういう趣味嗜好だと、怖かったに違いない。

 半日かけて、無事に夫のスマホは戻ってきた。旅の恥はかき捨て、とはならなかった。

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