第5話 些細なカッコ良さに憧れる

 学生の頃、さりげないことが大人っぽく思えた時期があった。例えば「薔薇」とか「憂鬱」とか難しい漢字を書けるより、「些細」や「挨拶」などの簡単に読めるけれど、実際書く時に一瞬考えてしまうような漢字をさらっと書けたらかっこいいんじゃないかと思い、こっそり覚えてみたりした。

 いまだに、面白い言葉や用語を知って会話の中でさらりと使えたらかっこいいなと思っている。ただ、覚えておけるかどうかが問題なのだ。

 昔、友人と「景色や壁のシミとか、すぐに顔に見えちゃうよね」と話したことがある。先日、テレビでまさにそのことを「パレイドリア現象」ということを知った。この現象の名前をその友人に教えたい!と思って急いで書き留めた。

 しかし、わざわざメールしてまで伝えるのはかっこよくない。その友人と会っている時に使えてこそかっこいいのだ。実際に友人と会った時に「そのカバンの模様がうちの犬に見えた」と言われて、チャンス到来とばかりに、鼻の穴を膨らませながら私が発した言葉は「そういうのって…なんとか現象っていうんだよ」

 おばば現象だ。自分の残念さにうな垂れた。

 ちなみに、本屋にいるとトイレに行きたくなる現象のことを「青木まりこ現象」ということを次女が教えてくれたのだが、毎回「誰さん現象だっけ?」と聞いていたら「もうその現象のこと思い出すのやめれば」と突き放された。

 どんなに呆れられても、ボケ防止のためにも些細なカッコ良さに憧れ続けよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る