第4話 父のもてなし
社交的な両親だったので、我が家にはお客さんがとても多かった。海の近くに住んでいたせいもあって、友達を大勢、泊りがけで呼んでも歓待してくれた。母は大皿料理で、父は親父ギャクでもてなしてくれた。
結婚して家を出て、時々実家に泊まりに行くようになってから初めて気付いた、父のもてなしがあった。洗面所の石鹸を、いつも新しくしてくれていたのだ。液体石鹼が主流になってからも、父は固形石鹸を好んで使っていた。思い返してみると、友達が泊まりに来た時に「石鹸出しといたからね」というフレーズをよく聞いていた気がするから、多分、来客の時はいつもしてくれていたのだと思う。
昭和一桁生まれの父は物のない時代を生きているから、節約は必須の生活もしただろう。使いたくても石鹸がなかったことがあったからなのか、新品の石鹸が贅沢の象徴と思えるからなのかは分からないが、父のさりげない歓迎の気持ちの表れなのかもしれない。
そんな父もここ数年何度か入退院を繰り返している。たまに実家に行っても寝ていたり具合が悪そうなことが多かった。先日、様子を見に行った時は、思ったより元気そうで一緒に食事もできた。ビールを飲んでいた私に「運転いいの?」と聞いてくるので「泊って行くから」と言うと、嬉しそうに頷いてから寝室に行った。
寝る前に歯を磨きに洗面所に行くと、真新しい赤いお洒落な石鹸が置かれていた。老いてなお変わらぬ父のもてなしに、思わず視界が滲んだ。
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