第2話 桜を見上げて

 庭に桜の木がある。15年ほど前の4月、飼っていた犬が亡くなった時に染井吉野を植えた。桜の木はどんどん大きくなり、毎年、満開の桜を楽しませてくれるようになった。

 数年に1度剪定はしていたものの、ついに2階建ての家の屋根を越えたので、冬の間にかなり大胆な剪定に踏み切った。1週間前くらいから、数本残ったひょろひょろの枝にも僅かな花をつけ、桜の生命力に力をもらう。

 桜も宴会も好きだが、行楽としての花見は少し苦手だ。夜桜の下で宴会をするという花見をしたのは社会人になってからだ。バブル全盛期、新入社員の最初の仕事は花見の場所取り、なんていう時代だった。

 場所取りに行かされたことはなかったが、まず、満開の時期は外で飲食するにはまだ寒い。木の上から落ちてくるかもしれない虫や、酔っぱらった人たちに巻き込まれないよう、神経を尖らせていなけらばならない。片付けだした途端、残り物目当てにホームレスの人達がわらわらと寄ってくる。花見は、緊張感でいっぱいだった。

 それでもやはり、桜を見るとワクワクする。新しい自分になれそうな気がする。冬の寒い時期、体も縮こまり下を向きがちだったのが、桜を見るようになると顔を上げるから必然的に気持ちも上向くからか。毎年、桜を見上げて何か始めたいと思い「何か」を探しているうちに桜が散る。

 社会人になった娘にエールを送り、今年こそ、やる気が続かないのを桜の儚さのせいにするのはやめようと心に誓った。

 


 

 

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