夜風に吹かれて、ただ二人

御厨カイト

夜風に吹かれて、ただ二人


「……こんな時間に一体どうしたの?」


俺はベランダでボーっとしている奏の首元に缶ビールを当てながら、そう言う。


「ピャッ!?……あぁ、君か。いや、ちょっと眠れなくてね。」


「ふぅん……」



物憂げな様子の彼女を見ながら、缶ビールを開ける。



「……いいのかい?明日も仕事だろう?」


「いいんだよ、別に。逆にこんな時間に起きちゃったら、酒が入らないと寝られ無い。」


「……ごめんね、起こしちゃって。」


「奏のせいじゃない。俺はただトイレに行きたくて起きただけさ。」


「あはは、……そうか。」



そう少し微笑みながら、缶ビールを開けて一口飲む彼女。



「奏こそ良いの?明日は大事な仕事があるんじゃなかったのか?」


「だって君が飲むから、私も飲みたくなってきたんだよ。」


「……なんだよ、それ。俺の所為かよ。」



苦笑いをする。

そして、彼女の横でそっと缶ビールに口を付ける。



沈黙が夜風と共に二人の間に流れる。



「……人間関係ってめんどくさいね。」


「うん?」


「あぁ、いや、……やっぱり何でもない。」


「本当に?……大丈夫か?」


「うん、やっぱり大丈夫。」


「そっか……」



ビールを一口。

口に付いた泡を腕で拭う。



「俺はさ、確かに奏の隣にいるやつとしては頼りないかもしれないけど……、それでも一息つける存在になれるように頑張ってるからさ。……だから頼ってくれたら嬉しいな、なんてね。」


「君はかっこいいし、頼りなくなんてないよ。それに十分、君の横にいることで休めているからね。」


「本当かよ。今の所はお世辞として受け取っておくぜ。」


「もうー、本当なのに。」



頬を膨らませる彼女。

その様子に笑いながら、俺は彼女の頭を撫でる。


サラサラとした黒髪、いつまでも撫でたくなってくる。




そんな感じで缶ビールが空になるまでゆっくり夜風に吹かれる。



「あっ、空になっちゃった。……そろそろ部屋に戻ろうか。」


「そうだな、体もちょっと冷えちゃったしベッドに入って温まりたい。」


「……今日はありがとね。付き合ってくれて。」


「別に?俺はただ飲みたい気分だったから起きただけだし。」


「あれ、最初言ってた理由と違わない?確かトイレに行きたいから起きたんじゃ……。」


「あっ……、そうだったわ。」


「……ふふふ、ホントありがとう。」



少し桃色に染まった顔で微笑む彼女。

それが酔いによるものかは分からないが、多分俺も同じ顔をしているだろう。



「……戻ろうか。」


「うん」



そうして、俺たちは空き缶を置いて寝室へ向かう。









カランカラン






空き缶が夜風で落ちる音が響いた。

















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夜風に吹かれて、ただ二人 御厨カイト @mikuriya777

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