第6話 女性の能力者

11 思い出の操作


 白鳥すずが言っていた意味を理解できない私。


「能力者が来るだと!?」


夢ではそんな内容なかったぞ。足早に去っていった白鳥すず。本人かどうかは確証はない。しかし声と骨格はそっくりだった。

サイン欲しかったのに……。


「それでだ、次第にこの時代の超能力者というのがわかってきていて、未来人がアプローチしている。おそらくお前の元に集まってくるだろう」

「超能力者は昔からいて、隠されたりごまかされたりしてただけではないのですか?」

「それがちょっと違っていて、能力者は未来人によって能力を消されていた。能力者ではない未来人からしたら面白くない存在だからな。いじめたいんだ。しかしだ、ZAN法が出来た今、未来人によって保護される対象となった。そうでないと未来がなかなか作られないことにようやく我々も気付いたわけだ」

「あほくさ! 未来がわかるのになぜそんなことを?」

「それ言うな! バックドアは何回でも行けるんだが。未来に行くフロントドアは成功率が極端に低い。仮に行けても帰ってくる確率は、流れ星を偶然に見るくらいの確立だ」

「それなら私、見たことありますよ。ウォーキングしている時に流星をこの間ですが見ました。」

「それはおれらが見せたんだよ」


どういうことだ? 私が見た流れ星は未来人が作ったのか。私が空を見る動作を未来人が操作したということか。

宇宙から物体を大気圏突入させて流れ星を作る。作ったタイミングで私を操作して、流星を見させる。もの凄い技術だ。マジで凄い。今の人類では絶対に無理だろう。


「こういうのを今までやってきたんだが、失敗もある。お前、道歩いていてスポーツカーが交差点をドリフトしたのを見たことあるだろ? あれは我々が運転手を操作した。お前が当時好きだったカーバトル漫画のようなことを肉眼で見せたかったからな」


今までおれが見たり聞いたりした経験の中に、未来人が操作した出来事があるってことか。なぜだか好きだった子と両想いになれなかった学生時代を思い出す。


時代時代に好きな子がいて、大抵その子と話す機会も多かった。次第に「なんか両想いっぽい」という感触が得られていって、でも告白するのは恥ずかしいなと思ってしまっていた。そんな時間が過ぎていったら、いつも決まって、好きな子と彼氏が手を繋いで歩いているのを私は見かけてしまう。そんなのが3回も続いた。あの出来事はなんだったんだろう。両思いだったという私の勘違いならいいのだが、操作された過去なら腹が立つ。

でもまあ、恋は実らない方が深い思い出になるのかもしれない。

じいちゃん、そういうことなのか?


12 出会い


学生時代好きだった子達は今頃、家庭を持って幸せに暮らしているだろう。そういうことを考えると切なくなる。嫉妬とかではなく、今の自分の不甲斐なさに。おれには出来ないことだけど「沢山子供を育てて、日本の為に頼む」そんな心境だが、他人任せも駄目だ。私も頑張ろう。そう思い、求人を探しにハローワークへ向かった。今のハローワークは便利で、自宅でも求人検索出来るのだ。ただしモチベーションを上げるのには、やはり現地で求人検索すると気合が入る。


いつもこうなのだ。行く前は今日こそは仕事先見つけるぞと思い、家を出るのだが、結局自分に合った仕事がなく諦めて帰ろうとする。今の自分には仕事を選んでいる場合ではないのに、そのことを受け入れられない。こうやって四十歳まで生きてきた罰が今に来ている。


「まっすぐ帰る気分ではないな。カフェに寄って時間潰してから帰るか。母にも仕事を真剣に探しているという気持ちは伝わるだろう」


全国チェーン店のカフェに寄ってアイスコーヒーを頼んだ。まだ肌寒いのにアイスコーヒーを頼む私。店内は7割くらいの混みあいで、なんとなく静かそうな人がいる隣を選んで座った。そうすると隣の女性がスマホをいじるのをやめてホットコーヒーを一口飲んだ。カップを机に置くと私の顔を見て


「残の世界をご存じですか?」


と聞いてきた。


「はい?」


ふいに「残」の単語は流石に驚く。


「あなたもイケボおじさんの声を聞いてますか?」


と言いたくなった。

そうだ、次来るのが能力者と言っていた。この女性か。年にして若くはない。私と同年代かそれよりかは少し下くらい。初めて実物の人間から「残」という言葉を聞いた。なんて返そう。言葉が出ない。


「夢で見たんです。この場所で佐藤うとささんに出会うと。私は木杉海と申します」


礼儀正しい女性だな。年齢を聞きたいが女性に年を聞くのは失礼だろう。


「不思議な世界を体験してるんですか?」


すると間髪入れずに返答が来た。


「そのことを佐藤さんに聞きたいんです」


上手な返しをしたかったが、今の私にはこの台詞でいっぱいいっぱいだ。平おじさん出てこいや。肝心な時にいないじゃないか。私に残の世界を聞かれてもわからないし、私の方が何を知っているのか聞きたいくらいだ。


「木杉さん、本当に私が来るかもわからないのに待っていたのですか?」

「はい、暇なものでして。夢の話になってしまいますが、今までの不思議なことが、ここに行くことでわかると意思を説明するおじさんが言ってました。隣に座る佐藤うとさに聞けとも」


おいおい、いしを説明するおじさんは共通認識出来るのか。楽しくなってきた。それから木杉さんと一緒に、いしを説明するおじさんの「いし」は「石」なのか「意思」なのか議論した。木杉さんは石を持った子供は見ていないらしい。なぜ木杉さんは「意思」だとしか思えないのか。それは能力に関係しているとは、その時は思わなかった。

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