第5話 遠くからくる人々
9 未来について
不思議なもので、今まで何も感じずに見ていたものが、急に人の顔に見えてきてしまう。目が二つあって顔の輪郭があれば、大抵の模様は人の顔に見えてしまう。カーペット、タンス、ふすまの模様まで。そして、押し入れの引き戸の隙間から誰かが覗いているような気がした。隙間の奥は真っ暗の空間。しばらく隙間の奥を見ていた。
「気のせいか……」
すると静かな声でイケボおじさんはつぶやいた。
「押し入れの奥の錯視は見えなかったんだな。しょうがない」
「今クリエーションだったんですか?」
「どんまいけるだ」
悔しい。何かを求めらているのにそれに応じれない自分が悔しい。完全に未来人のペースだ。
「先に言っておくが、未来人はお前らのように体は大きくない。びっくりするサイズとだけ覚えておけ」
覚えることだらけじゃないか。人間の体の大きさは小さくなっていくのか。宇宙空間に行って筋力が低下するせいなのか。
「いい線いってるが実際は、宇宙で体の大きさは意味をなさない。宇宙ピクニック行くのに、エネルギーの摂取は出来るだけ小さい方が遠くまでいけるからな。物資も限られてくる。つまり、脳だけが大事であって、体はちょこっとあればいい」
ちょこっとってふざけてるじゃん。宇宙ピクニックってなんだよ。
宇宙だと遠出する規模が大きすぎるから、生命維持のためのエネルギー摂取の最小値が求められるとか。宇宙時代は美味しいものが好きなだけ食べられないのか。
「宇宙は動物の殺傷を禁じている時代が長い。生類憐みの令って昔の日本にあったよな。あれ、未来人の指示だからな。そういう時代が来ることを教えてやったのに徳川の犬好きにこじつけやがって」
「時代を先取りしすぎだろ。まだ遠い未来の宇宙時代なのに」
「宇宙時代はエネルギー改革があって、デバイスの力を借りて食料ではないエネルギーの摂り方が主流になる。それによって体の大きさが小さく変化していく。これを教えるのは、バックドア法に抵触するから内緒な」
初めて未来のことを教えてもらった。すごい時代だ。宇宙人の絵をネット界隈で見るが、頭が大きくて体が小さいもんな。近からず遠からずってことなのか。バックドア法という法律があるのか、面白そうだ。
「それでだ、未来人はステルスだと思え。光学迷彩で見えないし、大きさも想像できないくらい小さい。今までの固定概念を捨てろ。クリエーションで見えない未来人を見る訓練するから、見えるような努力をしろ」
未来人は光学迷彩を着ているから見えないのか。じゃあこの場に未来人はいるのか。部屋を見渡しても何も見えないし、感じない。すると、直径1cmくらいの黒い物体が目の前を横切った。すごい速さだった。ハエよりも速い、なんとか目で追えるくらいの速さ。
「錯視なんだが、それくらいの宇宙船もある」
「1cmの宇宙船!?」
「そうだ、未来人の最小だろうな」
なんとなくわかってきた。私の周りに体の小さい未来人がいて、その未来人とは音声会話している。ふと脳裏にあることがよぎった。
「これってテレパシーなのですか?」
「いや違う、お前はまだ意思を送れない。天狗になりきれてないということだ」
そうか、よかった。サトラレみたいに周りに自分の意志が伝わっていたらショックだもんな。でも、少しがっかりした気分でもある。アニメの主人公みたいに、テレパシーでやりとり出来る人間、いや、そっちの世界では人か。そんな人だったら格好よかったのに。
イマジネーションが出来るように努力しよう。いつかニュータイプみたいなことになれてたらいいなと思いながら、今日一日が終わった。
10 夢の支配
「そのうちに集まってくるだろう。お前がそれなら……」
また不思議な夢を見た。私が街中でうろうろしていて、向かい正面から芸能人らしき人間が歩いてくる。誰だかわからないけど、なぜか芸能人だとわかった。どういう夢だったんだ。街中をただ練り歩く夢じゃないのか。
あれから色のある世界を楽しんでいた私。近くだけではなく、遠くの雲や飛行機までも色付いて見えていた。でも今だに実用的な能力とは思えない。
だって、単に物体の輪郭を彩っていることから抜け出せてないから。
そのことを未来人は教えてはくれない。法律に抵触するのかしらないけど、私も怖くて聞けない。
自分でどういうことに役立つのかを考えてみた。まず実用的なのは車の運転で、白線を彩るので見えやすい。日本は左側通行の交通規則なわけだけど、左側の白線の外側をオレンジに、内側を青に彩るので、より白線を見えやすくなる。今のところこれくらいしか思いつかない自分の無能さが恥ずかしい。
最近は未来人の声が聞こえてこない。彼らはどこかに行ったのだろうか。さみしい気もしてくる。毎日家にいても精神衛生上よくないので、ウォーキングをすることにした。ウォーキングをしていると街を詳しくなる。若い人はウォーキングを馬鹿にしがちだが、いろいろな道を発見出来たり、こんな場所にこんな家があったのかなど気付くことが多い大人の趣味だ。学生時代に友達が宅配ピザのアルバイトをやっていて、彼はこう言っていた。
「暇なときはバイクで住宅街を走るんだ。走っているといろんなことに気付いてバイトで役立つんだわ」
今ならその意味がわかる。私も宅配ピザのアルバイトやってみようかな。でも四十歳で宅配ピザのアルバイトやってる人を見たことないか。やめよう。
ふいに気配がして、しゃがんで空を見た。これも未来人の教えだ。気配がしたら、脳を攻撃されるかもしれないから、いつ何時でもしゃがんで防御態勢に入れとのこと。そして大抵は空から「くるくるぴー」のビームがくるとのことだ。いまだにそんな場面きたことないけど、真面目に言われたことを守っている私。
空を見ると、何もない空間に丸く彩られた場所があった。円の左側はオレンジ、右は青。そして円のなかはスケルトンで向こうの空が映っている。
「嬢出禁、違った、上出来だ。それをやっていればあちらも攻撃はしてこないだろうな。つまり、見えていることに気付くからな」
久しぶりの声でうれしくなった。名前を呼びたいけど、そういえば名前を聞いていない。イケボおじさんって勝手に言ってるけど。聞いてみるか。
「そういえばお名前をお聞かせ願えませんか?」
「平だ」
まさか、未来人は都市伝説で「ジョン・タイラー」と呼ばれているから、それで「たいら」なのか。きっとそうだろう……
「それでだ、これからある芸能人が正面から歩いてくる。驚け」
「まじですか?(夢のとおりだ)」
「そう、我々は夢もコントロールできる。いしを説明するおじさんの演出、格好よかったろ」
「は、はい」
自画自賛すな。それで、芸能人は誰が来るんだ。白鳥すずか。あれ?
今なんで白鳥すずって言ったんだろう私。
「呼び水だ。つまり、‘しら’ という二文字をお前に聞かせれば、連動して勝手に白鳥すずと続けて言ってしまう。会話でオウム返しってあるよな。あの類。これもクリエーションの一部だ」
言わせられたのか、くそう。でも本当に白鳥すずが向こうから来るのか。するとキャップを被った小柄な女の子が向かって歩いてきた。緊張する私。しゃがんでいた姿勢を改め、彼女に向って歩ていった。この距離では顔がわからない。もう少し近づかないと。キャップを深く被っているので誰だかわからない。緊張で心臓の脈動が首を打つ。もうあと少しでニアミスになる。本当に白鳥すずなのか。顔を上げてくれ。するとすれ違い様に、彼女は震えた声でつぶやいた。
「次に来る人が能力者です」
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