#3 剣と紅茶とクッキー
「ここがイムリスの部屋だよ。じゃあ僕はマキアたちのところへ行ってるね」
「案内ありがとう」
シッダと別れて部屋に入る。
「お、おー来たか、これがもう一つのコール石だ」
息を荒くしてコール石をボクの前に差し出す。よく見ると、部屋のあちこちが散乱していた。
「失くしてたんじゃないぞ、しまった場所が分からなくなっただけだ」
「それを失くしたって言うんじゃ……とにかく、ありがとう。大事にするよ」
「それと、これも渡しておきたい」
「剣?」
イムリスがベッドの脇に立てかけられた剣を手に取る。
「『断呪牙』っていう呪いを断つ剣だ、お前にやる」
「呪いを断つ……」
それを受け取り試しに抜いてみる。白く鋭い刃が日の光で眩く反射する。
「古いけど手入れはちゃんとしてあるから心配ないぜ」
「ありがとう……でも、どうして?」
「オレはもう使わないから。その代わり、それでマキアを護ってくれ」
何かを誤魔化すように笑う。ボクは見て見ぬふりをした。
「分かった、ボクにまかせて」
「すまないな……」
イムリスは小さな声でそう呟いた。
「さて、そろそろティータイムにしようかな」
さっきのは聞かなかったことにして話題を変える。
「カップは食器棚にあるから好きなの使ってくれ」
「そうさてもらうね。じゃあ、また」
「おう」
部屋を後にし食堂へティーカップを取りに行く。お気に入りのカップはたぶん家と共に壊れたはずだ。
「グァンバデスめ……」
次は絶対に容赦しない。心の中で強く誓った。
廊下を歩いていると前方に背の高い後ろ姿。
「あ、シュナイド」
「シュリルか……ん、その剣」
シュナイドの視線が腰の断呪牙へ向く。
「イムリスからもらったんだ」
「兄上が? いったい何を考えて……まあいい。シュリル、その剣を大事にしてくれ」
「う、うん。もしかして、キミたち兄弟の大事なものだった?」
それなりの覚悟を持って受け取ったつもりだが、思ったより重たい使命感がのしかかる。
「違うとは言い切れないが、そんなに重く受け取らなくていい、その剣は君が思ってるよりはるかに丈夫だ」
「よかった、これで存分に剣を振るえるよ」
「本当は、使わないままの方がいいんだがな」
どこか意味ありげな発言に引っかかるが、今は深く考えないようにした。
「ん、そうだね」
「私はそろそろ行くが、シュリルはどこへ?」
「中庭でティータイムかな」
「ならば赤色のカップを使うといい、あれは不思議と淹れた茶が美味しくなる」
それを言い残すと、シュナイドは行ってしまった。
「ありがとう、シュナイド」
気難しそうな空気を感じていたが、それはボクの思い過ごしだった。
――本日何度目かの食堂。食器棚を覗くと、シュナイドの言っていた赤色のティーカップがいくつか置かれていた。
「一つ借りるね」
赤いラインに金色の縁、シンプルな模様だがそれが絶妙な味わいを醸し出している。
「ティーポットはここか、茶葉は……はっ!?」
棚の奥に眠る高級茶葉の缶と目が合う。買うお金が無くていつも諦めていたアリースの紅茶だ。
「中身は……」
蓋を開けると紅茶のいい香りが広がる。中にはまだ茶葉が残っていた。あまり飲んだ形跡はないようだ。
「うーん、いくら家族になったからっていきなり高級茶葉をいただくのは厚かましいよな……うーん……」
おそらくこの長い人生の中でここまで悩んだのはこれが初めてだろう。ウィルを拾った時だって決断は早かったのに。
「こっちでいいや……」
そっと缶を棚に戻し、手前の安い方の缶を取る。赤いカップを信じよう。
「ふんふんふーん」
手慣れた動作で紅茶の準備をしていく。すると――。
「シュリルー! 何してるの?」
マキアとウィルが戻ってきた。
「中庭で飲む紅茶の準備をしてたんだ。君たちもどう?」
「ご一緒させていただきます」
「ぼくも一緒に飲みたいな」
ボクはさらに二人分のカップを取り出した。
「あ、待って。えっとね、確かこの辺に……」
マキアが隣の戸棚を開ける。そこにはクッキーの箱があった。
「みんなで食べる?」
「いいね、それも中庭に持って行こう」
準備ができたので、ティーセットをトレイに乗せて中庭にあるガーデンテーブルまで運ぶ。椅子はちょうど三つある。
「さあどうぞ」
それぞれのカップに注がれた色鮮やかな紅茶が湯気と共に香り立つ。
「わぁ、ありがとう」
「ありがとうございます」
穏やかな時間の中、ボクたちはお茶会を楽しんだ。暖かな日差しがこの空間を優しく包み込む。
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