#3 標的


月日が経つのは早いもので、私たちは二年生になった。

エトと同じクラスになれたらいいね、なんて話をしたが、神様はそんな簡単に味方してくれなかった。

「クラス別れちゃったね」

隣で寂しそうに呟くエトとは裏腹に、私は内心物凄く焦っていた。



今 の エ ト を 一 人 に し て 大 丈 夫 な の か ?



「フェリちゃん」

「え」

「クラスは別れちゃったけど、登下校とかは一緒にしてくれる?」

「もちろん。放課後も、湖で待ってる」

「うん。その言葉が聞けたら、わたしは大丈夫。だからフェリちゃんは心配しないで」

彼女は優しく微笑むと、私の手をぎゅっと握って教室へと向かう。

そして私のクラスに辿り着くと手を離して、またあとで、と手をふる。


……なんで、こんなにあっさりしているのだろう。


「? フェリちゃん?」

気が付くと、私はエトの制服の袖をぎゅっと握りしめていた。

あまりにも無意識にやっていて、自分でも驚き、あわててその手を離す。

「またあとで」

「うん!」

私はぼーっと彼女の背中を見守った。


その後のことはあまり覚えていない。

気が付いたら下校時間で、エトに引っ張られながら帰って、それから……。


「……エトは、寂しくないのかな」








月日は流れ、もう二回目の夏休みに突入しようとしていた。

そして慣れ、とは怖いもので、エトと別のクラスでもあまり不安を感じなくなっていた。

少なからず、登下校の時と放課後は一緒にいるんだ。

いや、エトへのいじめがエスカレートしていないかだけは未だに不安ではあった。


「とめられれば、いいのに」

「……とめてもいいよ」


突然クラスメイトが声をかけてきてビックリする。

……いや、それよりも

「とめてもいいよって」

「エトワルさんの件だよね?」

「そ、うだけど」

私は返事をしながら、冷や汗をかいているのを感じていた。

嫌な予感がする。

それに、にこやかに話しているものの、彼女の瞳は一切笑っていない。

「今すぐやめてあげてもいいよ。……あなたが犠牲になってくれるなら、ね」

「……」

私が絶句すると、彼女は嬉しそうに、へらへらと笑いながら語り始める。

「あの子、最近何してもあなたの名前ばっかり口にしてて面白くないんだよね。それに加えて、なんであんな目に合ってるのかもわかってないみたいだし。

……それなら、あの子が大事に思ってるあなたを痛めつけた方がいいんじゃないかって最近思いついたんだ。どう?私、天才じゃない?」

「……エトが傷つかないですむなら、私は構わない」

「へぇ」

「でも、一つ聞かせて」



--エトをいじめていた理由を聞いたら、ビックリするほどくだらない理由だった。


ちょっとかわいいからってだけで異性からちやほやされているのが気に入らなかった、だって。

エトが異性からちやほやされてるところなんて、見たことないけど。



……。


…………。


あれ?


なんか、声が、



「……り、ん……フェリちゃん?! 大丈夫? 痛いところはない?」

「え、と……?」

「よかった、教室に迎えに行ったら倒れてたから……」

「そう、だったんだ」

「誰かになにかされたの?」

「ううん……病気のせい」

「薬は?」

「丁度切らしちゃって、帰ったらのむね」

「安静にしてね?」


咄嗟に嘘をついてしまった。

多分、殴られたか蹴られて、意識を失ったんだと思うけど。

……エトにわざわざそれを伝える必要はないもんね。


これで、エトが平和に過ごせれば、

私のやったことは無駄にはならないはず。


だから



「エト」

「何?」

「お願いが、あるんだけど--」





こんな嘘つきな私を、

どうか許さないで。

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