コマンド古武術最終奥義

 ミサイルが配備されている場所は見当が付いている。

 西側、ネオセキガハラ空軍基地。

 アルベルトとともに連れ去られたのなら、エーコもきっとそこにいる。

「無理やり壁を跳べば、そりゃこうなるとは分かっていたけど」

 国境警備の陸軍や西側の警察など、ド派手な墜落で見つかれば、当然またカーチェイスになる。そんな状態で、隠密行動などできるわけもない。

 僕らはスパイクーペで検問を強行突破。東側に対抗するため配備された最新鋭戦闘機たちを横目に、ミサイルハッチへと向かった。

「車が限界だ。乱暴な駐車になるが、構わんな?」

 ここまでスパイクーペを操ってきたマクシムが僕に訴えてきた。

 足の痛みもあったろうに、変態ながら尊敬するべき点もあるらしい。

「十分だ」

 もうミサイル司令部は目と鼻の先。惜しむらくは、

「ありがとう、スパイクーペ」

 被弾とニトロ燃料、それから壁越えの衝撃などで限界を迎えた愛車。

 スパイクーペは最期にエンジンルームから煙を上げると、そのまま動かなくなった。

 国家反逆者三人、揃って司令部に転がり込む。

「HQ! HQ! こちら警備部! 侵入者三名を確認! これより応戦する!」

 殺到する警備の兵士たち。僕とM2は彼らを撃ち倒し、玄関口を確保した。

 僕もM2も、狙いは相手の足だ。自分が何をしているかも分からない状況で死ぬなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるだろう。

「なんというか、さすがにキリが無いわね」

 手持ちの銃弾が切れたM2が、奪った自動小銃を外に向けながら呟いた。

 こうしている間にも、西側の兵隊は続々と押し寄せてきていた。

 マクシムはそこらにあったもので簡単なバリケードを作りながら言い放つ。

「月並みなセリフだが、ここは任せて先に行け。――なに、知っての通り私はしぶとい。坂東共和国が合法的に全裸で街を歩ける国になるまで、私は決して死なないとも」

「お前はここで死んだ方が世のため人のためな気もしてきたよ」

 僕はマクシムたちを背にし、コンソールルームへ向けて走り出した。

 生きて帰るさ。僕も、マクシムもM2も――エーコも。



「!?」

 僕は進行方向から殺気を感じ、通路の曲がり角に身を隠す。

 チュインと、弾丸が壁を削る音が聞こえた。

 僕の感覚にギリギリまで悟らせない技量。こんなことができるのは西側じゃMI3のエージェントくらいしか思い浮かばない。

 それも、この場で現れるMI3といえばただ一人。

「また会ったな、A1。M2まで裏切るとは、いよいよもって嘆かわしいことだ」

「あんたのマネジメントが多いに問題あるんじゃないですか? 元ボス」

 MI3局長、石田三三。

「それは困るな。今度、部下たちを馴染みのスナックへでも飲みに誘うか」

「ちゃんと女の子が接客する店なんでしょうね?」

 軽口を叩き合いながらも、僕と局長は互いの隙を伺っていた。

 一線を退いたとはいえ、彼も元は“伝説”と謳われたスパイだ。三三の実力は、きっと僕が一番よく知っている。

「エーコはどこだ、局長」

 彼を打倒することが困難であるということも重々承知。

 だが、僕がこの男を倒さないと、何も前には進まない。

 局長は僕の問いに対し、冷たく言い放った。

「知らん。逃げられた」

「そうか。だったら殺してでも訊き出――なんですって?」

 聞き間違いかな?

 今最強スパイ組織の長とも思えない、とてもマヌケな発言を聞いたような気がするんですけど。

「この基地までは“跳び越えた少女”を連行したんだが、私を含めた実行班全員がバナナの皮で滑ってな。その隙にこの司令部のどこかに紛れ込んでしまった」

「そんなバナナ」

 ウィットに富んだ軽口どころかクソみたいな駄洒落を呟き、僕は呆然と立ち尽くした。大ポカをやらかした局長は悪びれもせずに続ける。

「だが、“跳び越えた少女”など後に回しても構わんだろう。――ミサイルの発射準備は完全に整った。あと五分としない内に、東側の首都である江戸へと核ミサイルが発射される。無人制御システムにはアルベルト教授謹製のプログラムがインストールされ、本体へ直接コードを打ち込む以外に発射の阻止は不可能だ」

「……!」

 遅すぎたか? いや、まだ間に合うはずだ。

「遅すぎたんだよ、この売国奴めが」

 焦燥に駆られる僕に、嘲るような声が放たれた。

 局長の声じゃない。

「……」

 局長ならコンソールルームの前に立ち、無言で銃を構えている。

 テレビやラジオで幾度も聞いた、この不愉快な声は、

「東側のケモミミ人どもは絶滅させる。――この民意は、一頭の狗ごときでは止められん」

「島津真朱」

“ミミ狩り真朱”とも仇名される、西側極右派議員の代表。そうだ。彼もワンダーウォールの一員のはず。歴史的な事件が起ころうというこの場に来ていても、不思議ではない。

「関ケ原の大戦以来、我らヒトミミ人の日本を我が物顔で占領してきた奴腹どもに、今こそ天罰が下るのだ」

 真朱は高揚したように、まるで自分がその民意を代弁する権利を得ているとでも思いこんでいるように語る。

「なぜそこまでケモミミを憎む、真朱議員」

 僕は無駄と知りつつも、局長の隙を探るついでに訊いてみた。

 本当に、無駄と知りつつも。真朱はやはり、演説でそうするよう拳を固めて言い放った。

「結局の話、奴らが嫌いだからだよ。我々ヒトミミは、みんな連中を嫌っている。それが真っ当な西側国民の義務だからな」

 嫌うことが義務、か。それはまるで、

「好きなことを『好き』と言える世の中が来ればいい――なんて、あの娘は言っていたよ」

 くだらない。島津真朱はくだらない。奴の語る安っぽい思想も、自分の『嫌い』を他人に押し付ける厚顔無恥も。そんなくだらない男に従う石田三三も。

 徳川エーコに比べれば、本当にくだらない。

 僕は、

「悪いが手加減はできませんよ、石田三三。あんただけは殺すつもりで撃つしかない!」

 局長の前に転がり出た。

「やれるものならやってみろ、石田栄一」

 三三は冷静沈着に、右手のリボルバー拳銃で僕を撃つ。

 僕はそれを、蛇行しながら躱した。

 二発、三発、四発、五発――

 僕自身も発砲をしながら、同じ動きで互いに接近。

 もう銃の間合いじゃない。銃じゃ決着はつかない。そんなことは初めから知っていた。

「コマンド古武術奥義」

 局長が、膝を半歩分開いた。

「コマンドフリッカージャブ」

「コマンド貫手」

 鮮烈な、達人の域に到達したコマンド古武術の応酬。

 石田三三は強い。それは僕が一番よく知っている。

 なぜなら彼は、僕にコマンド古武術を教えた張本人だから。

「む!」

 人中狙いの貫手を、三三はリボルバー拳銃でガード。残り一発だけ弾丸の入った銃は飛ばされるが、

「コマンド一本背負い」

 互いに銃を失えば意味は無い。

 局長は僕を背負い投げにしながら腕を捻る。僕は愛用の.22口径を落とし、コンソールルームに投げ飛ばされた。

 ミサイルの制御室は無人だった。局長の言っていた通り、コンピュータープログラムを流して本体を無人制御しているらしい。

「背中が少々痛むけど……」

 受け身がうまくいったようだ。骨、内蔵は無事に思える。ただでさえ悪い分が、ますます悪くなったことには違いないが。

「三三局長! 君ほどの男が、小僧一人に何を手間取っている! 万に一つもありえないだろうが、核攻撃が妨害されたらどう責任を取るつもりだ!?」

 外野の真朱が吠えた。声だけはデカい男だ。

 というか、まず前提の話として……東側への核攻撃自体……

「東西相互核攻撃という話が、そもそも僕には疑わしかった。本当は何を隠してる、局長。最初のブリーフィングで僕に見せた核弾頭、僕の見た限りあれは……」

「ふむ、やはり気づいていたか、A1」

「なんのことだ? なんの話をしている?」

 僕らの会話を理解できない真朱だけが、不自然に狼狽する。

 ああ、僕にもワンダーウォールの描く絵面が見えてきたぞ。

 コンソールルーム内、ミサイル『内部』を監視する画面から、不意に声がした。――馬鹿馬鹿しい。そもそもミサイルに人が乗れるものか。

「どこですかー、ここ? 道に迷って変な箱で休んでいたら、なんだか暗いとこまで来ちゃいましたよー?」

 核弾頭を入れるべき、警戒色のマークが付いた謎の箱から――徳川エーコの馬鹿みたいな声がした。

「!? どういうことだ、三三!? シュレディンガーの猫じゃあるまいし、なぜ放射性物質で満たされた弾頭から人の声がする!?」

「真朱議員、ご苦労様でした。あなたはもう用済みということですよ」

 そういうが早く、三三は真朱の首を親指で突く。極右の議員は経絡の流れを遮断され、気を失った。

「コマンド肩井穴。――そうだよ、A1。我々『ワンダーウォール』の目的は、核攻撃などではない。陛下はそのようなこと望まれていない」

「やはり……!」

「なんかポチポチした感触がありますぅ。これコンピューターですか? エロゲはできますか?」

 シリアスな会話をエーコの馬鹿に邪魔されながら、僕は局長の言葉に耳を傾ける。

 局長は語り始めた。全ての真実を。ワンダーウォールの目的を。

「ワンダーウォールの目的は、合衆国の大学で陛下と東側大統領、そして酒井アルベルトが見た夢を実現すること。――宇宙開発という、前人未到にして荒唐無稽の夢をな」

「宇宙開発……」

『聞き慣れない単語』を、僕はじんわりと咀嚼した。

 冷静に考えてもおかしいだろう。そもそも、

「そんなことをして何の意味が?」

 利益が無い。観測した限りでも地球の外にコストに見合った資源なんか無いし……そう、だからこそ、『誰もそんな荒唐無稽な夢は見なかった』。

 ただ一人、酒井アルベルトを除いて。

「それは、アルベルト先生が研究活動を干されるきっかけになった言葉だ」

 優秀な数学者の、唐突な発狂。空想科学への傾倒。当時の合衆国で、彼はそんなレッテルを張られて追放された。

 ……よくよく考えれば、僕にも理解できない話ではない。

「仮に、ロマンあふれる研究者やSF作家が、アルベルト先生の提唱した『宇宙開発』や『有人ロケット』などの概念を世間に浸透させていれば――もう十年も昔にだって人類は月にすら行けたかも知れない。そんなことになんの意味も無くたって。……でも、ここはそういう世界にならなかった」

『ここはそういう世界にならなかった』

 身も蓋もないが、そういうことだ。

 この世界で宇宙開発はただの夢。真っ当な大人が口に出せば、世間から馬鹿にされるだけ。

 局長はしかし、僕に向かって淡々と言う。

「だから、陛下とそのご学友たちは好きにしようと考えた。己の治める国を欺いてでも、ご自身の夢を果たそうとなされた。私は、一臣民としてそのご意志に従っただけだ」

「あんたがそこまで尊王派だったなんて知らなかったよ」

 立憲君主制をとる大和民国における帝の権限は、ごく限られている。単なる象徴とまでに影響力が無いわけでもないが、政治の中心は国民に選ばれた議員だ。MI3の局長である三三が直接指示を仰ぐ立場かと問われれば、はっきり否と言える。

「民意は世相でころころと変わる。私は真に命を受けるに足るものに、忠を尽くしているだけだ。諸君らエージェントが、局長である私の命に服従するように」

 それが石田三三という男の信念か。冷戦という不安定な時代に、決してブレることのない軸を求めた結果が京の帝ということか。

 三三は続ける。

「それに、我々『ワンダーウォール』は、単にロケットを打ち上げただけで終わりの組織ではない。今後の展望というものもあるのだ」

「展望?」

「『次世代核搭載型ミサイル計画』の名目で真朱がごときタカ派勢力までも取り込み、東西両国において同時に開発していたロケット。それら二つには、核弾頭ではなくあるモノが積載されていた。――『人工衛星』という単語を知っているかね?」

「それは……」

「大気圏外、地球重力軌道上より地上に満ちたジャミング電波を変調。軍用通信、民間テレビ、ラジオ……あらゆる周波数帯をジャックし、同じ情報を届ける通信機械。同時にあらゆる電波情報を傍受し、情報戦という概念を丸裸にする万能の器。――徳川エーコが今現在閉じ込められている箱は、そのための代物だ。各々が秘匿する情報という壁を破壊し、情報戦を主軸とした冷戦構造を崩す。『ワンダーウォール』の目的は、関ケ原合戦の完全終結に他ならない」

 馬鹿げている。『ワンダーウォール』の計画は、あまりに荒唐無稽で馬鹿げた話だ。

 宇宙からあらゆる通信に割り込み、あらゆる通信を傍受する『人工衛星』?

 そんなものを、共和国と民国が密かに共同開発していたというのか。『ワンダーウォール』の名の下に。

 いや、重要なことはそれじゃない。そんなことより、

「……発射されたら、今あのロケットに閉じ込められているエーコは」

「二度と地球に戻ってこれんだろう。有人ロケットのプロトタイプとして設計はされても、現段階での運用はあくまで人工衛星だからな。――なんというか、私にも意味不明な事故だが、今更発射を取りやめるわけにもいかん。徳川エーコには犠牲になってもらおう」

「いや、誰かと連絡とって救助してくださいよ。そのくらい今でもできるでしょう」

 局長にしてはあまりに短慮だ。核兵器ではないなら僕が一々ロケット発射を阻止する意味は薄いし、エーコは別で取り返せばいい。

 だが、案の定局長にも事情はあった。

「人を遣って救助しようにも、部下は全員M2と“ネイキッド”にやられてしまってるし、アルベルト教授とも連絡がつかない。まあ、その、運が悪かったとしか……」

 あまりの事態に、後半局長ですら自信を失いかけていた。

 エーコのせいか僕のせいか、それとも『ワンダーウォール』の計画が元からスカスカだったのか、とにかく僕は、

「それなら僕が直接ロケットに行くしかないでしょう。――互いに本音をさらけ出せば戦争が終わるなんてお花畑、僕にはどうでもいい。ワンダーウォールの計画をブッ潰してでも、エーコは僕が連れて帰る」

 全ての陰謀は露になった。ここから先、モノを言うのは暴力だ。

「させはしない。帝のご意志は、誰にも阻ませは」

 僕らは互いにコマンド古武術を構えた。

「あ、スケパン仮面のサイン入りハンカチ落としちゃいました! どこですかー、スケパン仮面ー!」

 コンソールから流れるエーコの叫びが合図になった。

 コマンド縮地で接近した僕が先手を打つ。

「コマンド正拳突き」

「コマンド回し受け」

 局長はいとも簡単に受け流した。敵のカウンターが放たれる。

「コマンド肘打ち」

「コマンドデンプシーロル。コマンド中段蹴り」

「コマンドハステイラ」

「ッ!」

 僕の中段キックをしゃがんで回避した局長は、中年を過ぎたヒトミミとも思えないしなやかさで回し蹴り。僕は足元をすくわれ、姿勢を崩す。

「コマンドメイアルーアジコンパッソ」

 僕は転びながら地面に手を突き、カウンターの蹴り。局長は身を反らし、スレスレで回避した。

 まずい。

「コマンドブレーンバスター」

 僕は逆立ち姿勢のまま局長に掴まり、そのまま杭打機じみた威力で首を地面に叩きつけられた。

「がァッ!?」

 首の骨を折る致命傷は免れたが、視界がグラつく。失神一歩手前といった有様だ。

「勝負ありだな、A1」

「まだだ……」

 勝ち誇る局長。しかし、ここで僕が折れればエーコは永遠に宇宙を彷徨うことになる。

 負けられない。負けられない!

「負けを認めたまえよ、A1。ワンダーウォールの大義は融和の実現。人工衛星が頭上を回り、スパイなど不要になった新世界。――君に、我らの思い描く未来を邪魔する大義があるのかね?」

 大げさな話を、帝の受け売りを、僕に朗々と語る局長。なんと滑稽な男だ。彼の程度なんて、僕と大して変わらないというのに。

「何が大儀だよ。あんたのそれなんて、僕の下心と変わらない。僕が好きな人を好き勝手に救おうとしているように、あんたも帝の命令を好き勝手に実行しようとしているだけだ」

 大義も正義もこの世に無い。人間は皆、自分のわがままで、好きなように動いているだけ。

 局長も僕も、帝も大統領もアルベルトもエーコも、全員同じだ。

 だから、僕は負けられない。『好き』を貫くために、他の『好き』を打倒しなければならないのなら。

 だから、最後の手段を使ってやる。

「……!」

 僕は一本の――小瓶を取り出した。スパイ七つ道具が一つ、『ただの小瓶』……いや、『特別な小瓶』。エーコの耳毛が詰まった小瓶を!

 蓋を開き、鼻を近づけた。

「何をする気だ、A1。今更苦し紛れか?」

 ダメージが重篤だ。コマンドブレーンバスターを食らった頭がぐわんぐわん鳴り始めた。局長の声も理解できない。

 どうでもいい。僕にとってはこの瞬間が全てだ。

「コマンド古武術最終奥義」

 芳しく、中枢神経に作用する美少女のネコミミ。喫ミミによって得られた集中力は、僕の感覚を極限以上に研ぎ澄ます。

 時間が――鈍化した。これこそコマンド古武術最終奥義……

「コマンド明鏡止水」

 武術の境地とはすなわち無我、無識。喫ミミという手段には頼ったが、その段階に精神を到達させた僕の体感時間は――百分の一にまで遅くなる。

 全てがスローモーションのようだった。局長の動きも、空気の流れも、僕には周囲のあらゆる物事が知覚できる。同時に、それら全てを意識することは無い。

それこそが無我の境地、明鏡止水。

「馬鹿な! A1がコマンド古武術をここまで極めていたなど――」

 一撃、二撃、三撃――コンビネーションの連続が局長の身を浮かし、さらに連撃を叩き込む。

一つ一つが骨肉を粉砕するコマンド古武術の打撃技。全てを受けた局長は、ドスンと地面に落ちて動かなくなった。

「……」

 無言でロケットへと向かおうとする僕に、

「私の負けか」

 局長が呟いた。諦めたように。

「……私はこれから国外に高飛びする。こうなった以上は切腹もやむ無しだろうが、私が関わったという証拠自体残すわけにはいかんのでな。安心したまえ、君とも二度と会わんだろうさ」

 さもなくば、京の帝の立場も危うくなるだろう。あくまで三三は自分の口を封じるためだけに生きるつもりのようだ。

「次期MI3の局長は君がやれ、栄一」

 そして、裏切者の僕に思わぬことを言った。この僕がMI3局長とは、これまた……

「考えておくよ」

 僕の返答を聞き、三三は微笑んだ。敗北したというのに、どこか満足そうに。

「そうか。……強くなったな、栄一。好きな道を選べるほどに、君は強くなった」

 僕は、皮肉交じりに三三へ返す。

「一割くらいはあんたのおかげと言ってやるよ……義父さん」

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