ネコミミ美少女の陰謀

 非合法ディスコからの脱出劇、衝撃の一夜が明け次の日。

 宝石のように黒く美しいネコミミと、雪のように冷たい表情。徳川エーコは、生徒会室に入ってきた僕をじっと見ていた。

 ついでに彼女の後ろには本多マクシムが座っている。『生徒会長』と書かれたプレートの乗った机の上、彼は常のように鷹揚な微笑を浮かべていた。背後にはタヌキミミの武将がヒトミミの侍を打ち負かす、見事な屏風が飾られている。

 果たしてエーコからどこまでの事情を聞いているのやら。……彼の思想自体はリベラリスト寄りと見ているが、政治委員長のエーコが処罰を主張するならば断る権限は無いだろう。

 まあ、彼に関してはあくまでついでだ。なぜなら本多マクシムはケモミミであっても美少女ではないから。ケモミミ美少女以外の尋問、脅迫、恫喝、罵倒、性的な意味での挑発に戦々恐々と耳を傾けるなど、僕のポリシーに反する。

「さて、小早川エーチさん」

『ついで』が口を開いたので僕のテンションはいきなりダウンした。もう通報でもなんでも好きにしろよ。

 任務放棄をしかけている僕に、マクシムはゆっくりと続ける。

「政治委員長の推薦により、君を生徒会特別補佐役に任命するかどうかだが」

「生徒会特別補佐役?」

 予想外の単語。反体制活動やスパイ容疑の話題に身構えていた僕は、そのままマクシムに返した。

「おや、エーコさんから聞いていない?」

 聞いているわけないだろう。僕は昨日不健全な遊び場で不健全なペロペロ行為をし損なった挙句、そこのネコミミ美少女に『……明日、生徒会室に来てください』と短く伝えられただけなのだ。

「すいません会長。私が伝え忘れてました」

 何を考えているやら、当事者のエーコはしれっと、昨日は何も見ていなかったかのように言った。

「というわけです、小早川エーチさん。あなたには生徒会特別ピザ役として今日から私たちの手伝いをしてもらいます」

「分かった。早速生地の仕込みに入ろう」

 僕がそう冷や汗交じりに言い放つと、エーコはマクシム会長の方を一瞥した。

「『生徒会特別補佐役』ではないかな、エーコさん」

 マクシムの訂正にエーコさんはうんうんと二度頷き、再び僕を見る。

「というわけです、小早川エーチさん。あなたには生徒会特別補佐役として今日から私たちの手伝いをしてもらいます」

『というわけです』から、ピザの部分だけ訂正してそのまま繰り返すエーコ。僕の冷静さを試しているのだとしたら大したものだ。僕は急に西側のサラミピザが食べたくなった。仮にそれが表情に出れば、西側の工作員だとバレてしまう。

「どうやら三者三様に情報の行き違いがあったようだな。……ともあれ、私としては君が生徒会に出入りすることを拒むつもりはないのだが」

 生徒会長と政治委員長の力関係からか、マクシムはエーコの宣言をそのまま受け入れた。

 僕は――

「是非お手伝いをさせてください」

 毒を食らわばなんとやら。こちらの監視が強化される代わりに、“跳び越えた少女”の捜査もやりやすくはなる。

 エーコが何を考えているのか、いまだ分からないのが不気味だが。

「それではエーチさん、早速仕事をしましょう。私の隣の席に着いてください」

 イエェェェイ! 役得ゥ!

 僕のテンションは今の一言でローゲージからMAXになった。あのネコミミを今日一日間近で見ていられるのだ。今ならゲージ消費して超必殺技が放てるだろう。演出が五秒くらいあるやつ。

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