第2話 盗み
『君と行く夢と絶望の狭間の――』
そう名付けられたRPGは発売されるや否や人気を博し続編はもちろんの事、十八禁版すら発売されたほどの大作だ。
(カマセパが居たってことは十八禁の方か……全年齢の優しい方が良かったな)
森の中の少し大きい岩に腰かけ、木の実を噛み締めながらボンヤリと呆ける。
現実逃避か未来への絶望か。俺にできるのは考える事だけ。
おそらくこの森は最初の街のすぐ近くの森(第一ダンジョン)だろう。こんなにたくさんのゴブリンが居たとなればそこしか考えられない。
ゴブリンはその繁殖力の高さ故に他のモンスターに捕食される悲しき生物だ。最弱の生態系の最底辺であるゴブリンが纏まって行動できるのもこの森ぐらいか。
元の世界に帰る方法を探すのはもちろんの事、それまでどう生き残っていくかが最優先事項か。
もし俺がゲームのキャラであればレベルアップもしただろうが、モンスターにレベルなど設定されていない。筋トレなどは多少の効果はあるだろうが、劇的な実力アップとはいかないだろう。
「――なんだよねぇ、まっじうっざいのあいつ」
「た、大変だね……」
そうこう考えていると何やら聞こえてくる。耳を澄まし隠れて観察すると、どうやらツインテ爆乳のツンデレとその幼馴染の男だ。
(カマセパのリンと最初の街の道具屋の息子か……あいつら確か幼馴染とか言う設定が有ったな)
昨日俺の仲間? を屠った奴らの一人がまたのこのことやってきていた。
十八禁はグロが強化されただけでは無く、エロ方面も追加されている。その筆頭がカマセパだった。
長い金髪をツインテールにし、大きくなツリ目の碧眼。鼻立ちはスッキリし、シュッとした輪郭とぷくっとした可愛らしい唇。女性としては大きい身長に細く長い胴と手足、そして爆乳。格好は痴女その者で、上半身はビキニの様な物を着けてるだけであり下半身はふんどしの様な前掛けが有るだけ、アソコに絆創膏の様な物が貼ってある。後ろから見たら尻丸出しだ。
男は興味ない。
彼女が何故あんな頭おかしい格好をしているのか、それは彼女たちが『これは十八禁版だよ』と言うことは示すための導入イベントのキャラだから。
カマセパは最初のイベントで悲惨な末路を辿る。故に分かりやすいシンプルさで勝負している。
奴らが何しに来たのかは分からないが、これはチャンスか?
道具屋の息子は大量のアイテムと、それを収納する袋(RPGお得意の無限袋)を持っているはず。
リンのあの前掛けも何かの効果が有った気がするし(と言うかフルチンから早く脱却したいし)。
ならば俺の出来ることは一つ、盗む。
殺しは出来ない、したくない。俺がこの世界で生きていくと決めたなら覚悟は必要だが(こんな世界で現代の倫理観でやっていけるはずも無し)、俺は帰る気満々である。そんな中で殺しなどしては帰ってからのメンタルに支障が出る。
「ふぅ、で? 必要な薬草ってのは何処に生えてんのよ」
「森の丁度中間部辺りなんだ、そこには滅多に行かないし今回で大量に持って帰るよ」
「ああ、だからそんなでっかい籠背負ってたんだ」
「なんだと思ってたの?」
「私のために鍛えてんのかと思ってた」
「……」
「なんでジロジロ見てんのよ、イヤラシイ」
(絶対僕が鍛える必要ないよね……すでに君はメチャクチャ強いから僕に護られる必要は無いし)
仲良く並びながら歩く二人。
あんな格好の女が横に居ながら平然としているところに凄さを感じるな。慣れか?
それにしても薬草摘みか。中部にはまだ結構あるし、たくさん採取するなら時間もかかるだろう。
速やかに作戦をたてなければ。
俺は周りの樹を見る。
(あれはシラカンバに似てるな……使えるな)
やろうとすることが出来るかどうかは分からないが、俺は樹の樹皮をぺリぺりと捲って剥がしていく。この白い樹はペラペラの樹皮で、とある性質がある。
それは――燃えやすく、煙を多く立てるということだ。
ゴブリンに転生した男の生きる術 みつぎみき @mumusasa
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