ゴブリンに転生した男の生きる術

みつぎみき

第1話 転生

「――すー、はー、最近高いから吸えねーのがつれーな」

 森の中、煙草を吸いながら愚痴る。


 昨今喫煙者への扱いは悪い。町で吸えば冷たい目で見られ、たばこ代は天井が見えない。


 火を消し、ぽいっと投げる。林業者ってのは自分で言うのもあれだが森の扱いは雑だ。缶コーヒーとか平気でポイ捨てするからな。


「おい佐藤! 休憩終わってるぞ!!」

「……さーせん、今行きます」


 佐藤は俺だ。

 先輩のおっさんに呼ばれ、渋々作業場に向かう。


 林業科を出て、そのまま今の会社に入社した。給料も悪くないし、残業も無い。働いている奴らはみんなテキトーで、まあ気楽だ。

 モテないし社会的地位は高く無いが、まあ一人で生きていくには良いんではなかろうか。


 二十前半で完全に枯れ切っている。女にもあんまり興味無いし、趣味も無ければ酒も飲まない。せいぜい煙草を吸うくらいか。まさに無気力の塊。


 だからかな、だらだら歩く俺の頭上から落ちてくる木の枝に気付けなかった。







「――で、こうなるのか……じょーだんキツくね?」

 周りから漂う死臭、吐き気すら覚える。


 気が付けば森の中、それもうちの管轄では無い森だ。開けた場で俺は黄緑色の肌をした小人共に囲まれていた。

 園児並みの身長に、禿げた頭にでっかい鼻。デカい口にぎょろっとした眼、全裸でフルチンを曝け出す奇妙な集団。


 俺を取り囲んでいると言うより俺も集団の一員と言ったところか。全員が棍棒や弓矢を持ちながら冷や汗を掻き、迫りくる死を恐怖している。


 辺りを見渡せばたくさんのこいつらと同じ種族の死体が転がっている。臭いの下はこいつらか。


 こいつらの視線の先には四人の男女。

 鎧をまとったスキンヘッドの大男、かっこいい装束に身を包む爽やかなイケメン、シスターみたいな恰好をした幼女、ツインテの気の強そうな美少女(胸がデカい)。


 RPGのパーティの様な奴らだ。某竜の試練的なね。


 さながらこいつらはゴブリンか。



 あ、俺もか。













「――ふう、これで全部倒しきったかな?」

「そうだな、ゴブリンもこんだけ居たらめんどくさいからな」

「神の導くままにお逝きなさい、不浄なる者たちよ」

「(始まったわ、うっざ)さっさと帰りましょ、ギルドに報告しないと」


 先ほどの四人は死体の山に目もくれずに去っていく。



「行ったか? ……助かったぁぁぁ」

 俺は安堵のあまり、腰を付きため息を吐く。


 咄嗟に死体の中に倒れ込み、死体のフリをしたのは正解だったか。


 手を見る、顔を触る。間違いない、俺はゴブリンになってやがる。


「つーかさ、あいつらカマセパじゃね? てことはここはあのゲームの世界か?」


 かませ犬、その様な役割を与えられた哀れなパーティ、それが奴らだった。俺が学生時代に流行っていたRPGのキャラだった。


「あのゲームの世界だとしてだ、ゴブリンは駄目でしょ……いやほんとに」


 あの日死んで転生したのか? だとしてもゴブリンはねーよ。


 ゴブリン――世界最弱の魔物、雑魚の象徴。あのゲームに置いて最弱の存在で、設定的に悲惨の一言だ。作者はゴブリンに親でも殺されたのかってレベル。


 園児並みの体躯に、人間の子供以上大人未満の身体能力(握力と咬合力は高い)しかない。知能も馬鹿でこの世界の知能ある生物の中で唯一のスキルや魔力が無い存在。メスも居ない、だから人間や亜人の女を孕ませるしかない。だから忌み嫌われる。


「勘弁してくれぇぇぇぇぇ!!」

 ゴブリンの死体の中、俺は叫んだ。

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