第8話 最悪の結末

 日記の内容を話した死神。暫くの間、沈黙が三人を包み込む。その沈黙を破ったのは、仁科だった。


「何故、弟の復讐に関係のない人達まで殺した?」


 仁科の言葉に、苛立った表情をした死神。すぐさま言葉を返した。


「関係······ない?確かに、弟とは一切関係ない。でも、いじめをしていた。私は、いじめをする人間を許さない」


「だから、殺したのか?······いじめをしただけで」


 その言葉に死神は、大きな溜め息を吐きながら首を横に振った。


「刑事さん。アンタに分かるか?何もしていないのにいきなり暴力を振るわれる人の気持ちが······。弟だってそうだ。普通に生活していただけなのに、いきなりいじめの対象になった」


「だからって殺さなくても良いだろ!復讐したところで何も変わらない。俺からしてみたら、お前もいじめをしていた奴もそう大差ない。持っている物を捨てて、自首しよう」


 仁科は何とか説得を試みた。しかし、死神は応じない。持っているナイフは牧野の首元で動くことはなかった。


「私が自首したところでいじめはなくならないだろ?いじめをしている連中は決まって、いじめられる奴にも非はあると言う。教師だって、相談したところで何もしてはくれない。じゃ、誰が苦しんでいる人を救える?警察だって何もしないだろ」


 死神の言葉に仁科は何も答えられない。警察だって民事不介入。事件が起きなければ、何もできない。今の世の中、学校でも問題が起きればバッシングは避けられない。だから、問題を揉み消そうとする人間も少なくない。死神が言っていることは間違っていないのだ。


「弟だってそうだ。何も悪いことはしていない。コイツらみたく誰かを傷つけたか?コイツらみたく人を馬鹿にしたか?避難を受けるようなことは何一つしていない!」


一呼吸置いて、更に死神が言葉を続ける。


「なのに······誰一人として、弟を助けようとはしなかった。私だってそうだ。弟の異変に少しでも気付いてあげることができていれば、弟は死なずにすんだんだ」


 そこまで言うと、死神は牧野の拘束を解いた。解けたロープを見た牧野は素早く椅子から立ち上がり、その場を立ち去ろうとしたが、死神は牧野の髪の毛を掴み動きを封じた。


「駄目じゃないか。逃げようとしちゃ······」


 牧野の耳元に口を近付け、低い声で死神が言った。その言葉だけで、牧野の身体は硬直して動けなくなった。牧野の恐怖に満ちた表情を見ながら、壊れたフェンスへと移動していく。


「何をするつもりだ!」


 仁科が叫ぶ。しかし、死神は動きを止めない。壊れたフェンスに辿りついた死神は、振り向き仁科の方に視線を送ると、口を開いた。


「ホントだったら、彼を殺してから教師も殺してやりたかったところだけど······ここら辺が潮時みたいだ。私も、罪を償うことにするよ」


「止めろーー!」


 仁科が叫んだ頃には、二人の姿は消えていた。二人は飛び降り、ドスンという音が下から聞こえてきた。


 仁科はその場に座り込んでしまった。


「助けることが······出来なかった」


 そう呟くと、二人が今まで立っていたところを呆然と見つめていた。


 


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