第18話


 バトルモードの開始と同時に俺は中距離を維持した。

 俺には短剣と投てきしか攻撃手段がない。

 魔法スキルもアーツスキルも無い。

 全力でナイフを投げる、それだけしか出来ない。


 俺はロングナイフを何度も投げる。


「ぐう、ま、待つんだ!痛、やめ、あああ!」


 何度もロングナイフがアサヒに刺さり、アサヒが苦しむ。

 

 俺の装備はただの初心者卒業セット。

 攻撃力はほとんど無い。

 スキルLVを最大限に振って能力値と武器LVを上げ、火力を何とか作り出した。

 対してアサヒの防具は性能が高い。

 

 俺は何度もナイフを投げた。

 1発2発で倒せるとは思っていない。

 100発は投げ込む!


 短剣も投てきもジョブスキルではなく基本スキルだ。

 基本スキルは誰でも取得可能なかわりに強い攻撃手段は存在しない。

 短剣は攻撃力が低く、武器を使えないスキル構成用の救済のイメージが強い。

 投てきも同じで強いスキルではない。


 基本スキルはいくつも組み合わせてシナジー効果を及ぼすものが多い。

 だがそれでも短剣と投てきスキルを組み合わせて相乗効果を発揮しても遠距離攻撃専用の弓や銃には見劣りする。


 中距離止まりの射程。

 威力も専用武器に見劣りする。


 だがこれしか攻撃方法がない。 

 中距離の相手にはナイフを投げ、近距離ではナイフで突き、斬る。


 俺は全力で何度も何度もナイフを投げ……る? 

 アサヒが倒れる。


『勝者ハヤト、バトルモードを終了します』


 大歓声に包まれた。


 勝った?

 あっけない。

 弱すぎないか?

 100発も投げ込んでいない。

 


「凄い!ナイフの動きが目で追えなかったわ!」

「強い勇者をさらに強いあの子が倒したの!?」

「あの子も転移者みたいだよ!」

「いつもボロボロになってダンジョンから出て来てきてたみたいね」

「転移してから数日しか経っていないのにもうこんなに強くなったの!!」


 俺の情報がどんどん広まっていく。

 噂の拡散が早すぎる。

 女性が多いのはいい。

 だが噂が広まるの早すぎじゃね?


 トレイン娘とエリスが駆け寄って来る。


「やっぱり!思った通りでした!」

「カッコ良かったよ」


 ヒナは気配を消していた。

 俺の指示通りの行動だ。


 アサヒを見ると俺を睨み、怒りに震えていた。

 もしくは痛みで震えているのかもしれない。


「何で!なんで何で何で!何なんだ!僕は勇者だ!もう1回戦え!今度はスキル有りでぶちのめしてやるうううううううううううううううううううううううううう!」


「俺は皆とデートに行く」

「ヒメは僕の物だ!」


 その瞬間ヒメの顔が恐怖で引きつる。


「待つのだあああ!!」


 王がリングに降りてくる。

 王まで出てきた!

 お前ら!またややこしくなるだろ!

 帰れよ!


 だが、王の様子がおかしい。

 口からよだれを垂れ流し、ヒメを見つめ、吐息を荒くしている。

 

「ワシのものだ!!ヒメもここに居る女も全部ワシのものだあああ!!!」


 ゲームのメインヒロインであるファルナが王に駆け寄る。


「お父様!おやめください!」


 その瞬間王のいる地面を中心に魔法陣が展開される。

 王が魔法陣に吸い込まれ、違う者が出て来た。


 人間と同じような姿をしているが、赤黒い体と、指の先が触手のようにうごめいており、すぐに人間ではないと分かった。


「お父様はどこです!!」


 ファルナが剣を出現させ構える。


「生贄にした。もうこの世にはいない」

「そ、そんな!」


「やっと封印を解くことが出来た。こいつの欲望の強さのおかげで力を蓄えることが出来た。我の名はエクスファック!まずはここに居る女を味わってやる」


 こいつゲームストーリーのボスキャラだ!

 出てくるのはまだ先のはず!


 俺はヒメを見た。

 ヒメに興奮して王の行動が変わった!?

 歴史が変わったのか!?


「悪は僕が倒そう!ハヤト!ちまちまナイフを投げてチクチク攻撃する事しか出来ないせこい君には倒せないだろう!」


 確かにそうだ。

 火力不足感はある。

 俺の攻撃は中距離までの雑魚狩り用だ。


「火力不足かもしれない」

「ははははは、認められる頭はあるようだね!この敵は君以外の転移者で倒そう!みんな!降りて来て戦うんだ!」


 アサヒは武器をしまった。 

 素手で発動させるブレイブアーツだろう。


「勇者の切り札を使うよ!ブレイブクロス!」


 アサヒは素手で手腕をクロスさせて斬る動作をする。

 十字の斬撃がエクスファックに向かって飛んでいく。


「ブレイブボム!」


 アサヒの両手から放たれた魔法がエクスファックに当たって爆発する。


「ブレイブショット!」


 アサヒの両手から魔法の弾丸が飛ぶ。


 勇者の専用スキルをすべて使ったか。

 確かに高火力だ。

 だが、あの3つはクールタイムが異様に長い。

 1時間使えなくなる。

 ロマン砲ってやつだ。


 それを使ったらゲームでは勇者はただの器用貧乏だが、何か策があるのか?


 いや、倒せればいい。


 そう、倒せれば……健在か。

 長期戦には向かないスキルだが、倒しきれていないか。


「ぐうう!勇者のスキルか!何という威力だ!」


「エクスファックはひるんでいるよ!行けるぞ!みんな戦え!」


 アサヒがクラスメートにも戦わせる。


 クラスメートはエクスファックに総攻撃が加える。

 エクスファックは指先から触手を伸ばして鞭のように攻撃するが、追い詰められる。


 クラスメートでエクスファックを囲む。

 更に兵士も集まって来る。


「僕の勝ちのようだね!止めを刺してあげるよ!」


「舐めるなああ!!」


 エクスファックがガスを放出した。

 女性全員の動きが止まり、皆顔を赤くし、吐息を荒くする。

 状態異常か!

 この人数で囲んで攻撃して倒しきれなかっただと!


「男は死ね!!インフィニティウィップ!」


 エクスファックの指先の10本の触手が高速で振り回される。

 クラスメートの男性が何人か攻撃を受けて倒れる。

 更に連続でインフィニティウィップが発動する。


「ぐうう、下がるんだ!」


 アサヒはエクスファックから背を向けて逃げ出していた。

 取り巻きパーティーの3人も続いて逃げていく。


 メインヒロインのファルナは金髪の長い髪が乱れ、少し緑の入った青い瞳を潤ませている。

 

 遠くにいた俺達は無事だったが、エクスファックは強い!

 女性には状態異常を仕掛けられ動きが止まっている。

 男は倒された。

 俺の投げナイフの射程よりエクスファックの攻撃射程の方が長い。


 覚悟を決めよう。


「トレイン娘、エリス、ヒメ、すまない。あいつを本気で倒しに行く」

「倒せるのかい!?」

「倒せるかもしれない。だが、俺はこの場を離れる。みんなを守ったまま戦うことが出来ない。みんなを巻き込んでしまうだろう」


「倒せるなら倒しましょう!」

「俺はエクスファックに近づく」

「私の事は気にしなくて大丈夫だよ」

「皆、納得してくれて・・・・・・・ありがとう」


 俺はエクスファックの前に歩いて行った。



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