第14話

【勇者アサヒ視点】


 僕は3日の研修が終わり、レア固有スキル持ちの4人パーティーでダンジョンに進んだ。

 1階は良かった。

 簡単に魔物を倒せた。

 だが2階でトラップと遠距離攻撃、更に奇襲を受けて1階に逃げ帰ってきた。


 今僕は大の字に地面に寝ころぶ。

 スタミナが切れて吐きそうだ。

 苦しい。

 他の3人も息を切らしていた。


 こんなはずじゃない。

 魔物は簡単に倒せるんだ。


 でもあのトラップはなんだ?

 研修中は兵士の女がトラップを解除していた。

 気にも留めていなかった。

 たしかあの女は斥候だった。


 シーフ系は必須なのか?

 トラップが厄介すぎる。

 僕のパーティーは勇者・賢者・剣聖・サムライマスターだ。

 万能の僕以外魔法タイプと戦士タイプ。


 斥候が居ない。


 僕以外罠感知のスキルを取れないだろう。

 でもスキルポイントが無い。


 斥候を雇うか?

 金がかかる。



 呼吸はだいぶ楽になった。

 ん?ハヤトか?

 ハヤトをさげすむ事でみんなの意識をハヤトに逸らそう。


「ハヤトじゃないか」


 ハヤトは僕から距離を取ったまま立ち止まった。


「もう上に行ったのか?」

「そうだね。研修で3階まで行ったよ」


「君はクラスメートとパーティーを組めないのかい?」

「そうなるな。今1階でレベルアップ中だ」

「君はレベルを上げられるのかい?」

「いや、レベル1だ」


 君には底辺の役を務めてもらおう。

 僕らよりうまくいかない者がいるとみんなが分かれば皆やる気を保てる。

 僕への批判も出にくくなる。


 僕らよりうまくいっていないハヤトが居る。

 多少のトラブルはよくある事だとみんなを丸め込める。

 僕なら出来る。

 

「僕らと違って大変みたいだね」

「そろそろ行く」


「待つんだ!君はまだ初心者装備を付けているんだね」

「ん?まあ、初心者装備だ」


 だが何かおかしい。

 色は前から黒だったか?

 しかも持っているナイフはあんなに長かったか?

 いや、気のせいだ。


「ずっと底辺で頑張っているようだね」

「1階で頑張っている」


 ハヤトの後ろから2人の女が歩いてくる。

 ヒメと同じレベルの美人が2人もハヤトの後ろで止まる。


 なんでハヤトのすぐ後ろで止まったんだ?

 まるでハヤトのパーティーのようじゃないか。


「早く行きましょうよ。この人たち感じが悪いですよ」

「早くここから離れよう。嫌な予感がするよ」


 何でハヤトに美女がついてくる?

 おかしい。

 おかしいおかしい。


 僕のパーティーを見ると3人の男だけだ。

 しかも僕のパーティーはみんなハヤトの後ろにいる女に目が釘付けになっている。


 ハヤトは2人の美女と去って行った。


「みんな!ハヤトはレベル1だ!でも僕らは上を目指せるレアスキルを持っているんだ!!」


 言葉が皆に伝わっていないのが分かる。

 なんで弱いハヤトが優位に立っているんだい!?

 運が悪かった。

 今日は日が悪いんだ。


 僕たちは街に戻った。

 街に戻るとすぐ図書館に向かった。



 図書館で優雅に本を読む。

 僕は勉強が得意だ。

 昔から呑み込みが早いと言われている。

 本で調べて分かった。


 防具が重いと疲れやすくなるのか。

 デメリットを解除するには体力を上げる必要がある。

 そういえばステータスをながめて能力値の説明を見た時に何か書いてあった。

 すっかり忘れていたよ。


 解決策はすぐ見つかったよ。

 この重い防具だ!

 僕は冴えている。


 ハヤト、君はこの高度な問題に直面する以前の問題だよ。

 強くなる事すら出来ないんだからね。

 

 


 失敗した次の日には対策を取った。

 僕は柔軟な思考力を持っているんだ。


 防具を軽い装備に変えた。

 赤字にはなるけど斥候も雇った。

 しばらく苦しくなるけど、すぐに2階に行って巻き返そう。

 レベルが上がりさえすればスキルポイントが手に入る。


 そこまで行けば斥候はすぐ契約を解除する。

 ダンジョンに向かおう。





【ダンジョン2階】


「うおおお!」


 魔物を剣で斬り倒す。

 

 トラップの魔法陣は斥候が知らせる。


「昨日の苦戦が嘘のようだ!」

「さすがアサヒだ」

「アサヒについて行けば間違いがない」


 くくく、そうだろうそうだろう。

 あと少しだ。


「皆、後20体以上魔物を狩ろう!」


「「おおおおお!」」



 魔物の群れを倒すとやっとレベルが上がった。

 すぐに街に戻って斥候をパーティーから外した。

 もう斥候は居なくていい。


 僕が罠感知を覚えればすべて解決だ。

 僕は冴えている。


 さあ、罠感知を覚えよう。


『スキル数がスキル枠上限に達しています。罠感知を取得してもステータスにセット出来ません』


 ……スキル枠上限?


 汗が全身から噴き出す。

 そ、そうだ。

 スキルを1つ外せばいいんだ。

 ゲームで良くある。


 外せない。

 10枠が上限なのか?

 どうやって入れ替えればいい!?


 僕は走って兵士に聞きに行った。


 研修に付き添った兵士の女に聞く。


「スキル枠10枠を使ってしまった。入れ替える方法はあるか!?」

「ありますよ」

「そ、そうか。どうすればいい?」


「教会に魔石を捧げつつ女神さまに祈りを捧げれば入れ替えが出来ます。ですがお金がかかります」

「いくら必要なんだい!?」

「100万魔石です」


「100魔石?」

「100万魔石です」


 僕は膝から崩れ落ちた。

 その後兵士に詳しく聞いたが、他の方法は聞いた事が無いと言われた。


「金が、足りない」


 斥候を雇えば金が無くなり、雇わなければ2階で死にかける。

 まずいまずいまずいまずい!

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