第43話 モップ

 クソみたいな異世界転生。

 何なんだよあの街は、不良外国人ばかりじゃないか。何で白昼堂々、駅前で女学生がワゴン車に連れ込まれそうになってんだよ。咄嗟に声掛けたら殴られたし。それも複数で取り囲んで。

 最後は何されたかわかんねえ。

 取り敢えず死んだのは確定。

 

 へえ、複数の世界を司る神様ね。

 魔法の無い世界は神からの干渉が少ない分、神様が欲しい資源の発生効率が良いと。神々が関与して資源をふんだんに使い整えた世界の魂が一年かけて誠心誠意祈って色々と生活にも縛りかけて得られる資源の数千倍を、朝起きた時に軽く祈る仕草をするだけで生み出せるらしい。

 その資源の9割を神々が回収しても、異世界の住人の数百倍の資源が残る。

 神の資源で作られた世界では身体に宿る資源が肉体の優秀さに直結する。

 物質的な肉体能力の差異は資源の影響の前では考慮に値しない。

 資源の使い方、ゲームで言うステータスに相当する数値がそこに実在する。


 転生先の世界は、俺の産まれた世界から回収した資源で作った世界だそうで、元の世界の影響を多分に受けている。要は小説とかゲームとかフィクションの世界だ。

 その世界で初期ステータスと成長チート、あと再現出来る範囲で遊んだ経験のあるゲームの装備やらが持ち込めるらしい。


 何で俺を選んだかって?生に未練があり、元の世界で悪霊になりそうだから魂を隔離。後は俺が死ぬ事になった状況から分かる通り、そろそろ俺の産まれた文明の寿命が近いらしい。元の世界で生まれ変わっても長生き出来ず資源もあまり作れないそうだ。

 生に未練があり、その影響で魂が転生による変質に耐えられる魂は適性のある世界、元の世界の資源て作った世界に転生させたほうがコスパが良いとのこと。

 更に俺の魂の資源生産は俺だけの特性だが、資源の生産量だけで無く、使用効率も良いらしい。

 異世界では魂の維持に資源を多く使うが、資源の影響が少ない世界の魂故に維持等に使う資源の量も少なくてすむ。そして、魂の特性は俺に子供が出来るとその魂にも完全にでは無いが引き継がれるそうだ。

 つまり俺の世界から外来種を持ち込んで転生先の世界の同族と交配させると、その世界の資源の回収効率が改善される仕組みだ。

 この神ってのが俺達の命を試験室の培地で繁殖させられる微生物適度にしか考えて居ないのがよく分かるよ。

 まあ、それでも折角転生させてくれるんだ。多少の感謝はしておこう。生に未練があるのも確かだしな。

え、何?今の感謝で世界から回収出来る資源の数年分が回収出来た?

 どんだけイージーモード何だよ。



 そんなやり取りもあって転生する事になった。小説やゲームの世界か。剣と魔法の世界で魔物とか居るんだろうなあ。

 魔物ってのも資源の影響で生態が変化した存在感らしい。資源を回収出来ない程に肉体何かを変質させる進化をして来た存在で、生産効率が悪いというか他の生物を襲って効率が負の値になるので積極的に退治して欲しいそうだ。

 俺はアレか、病気に強い三元豚の生産用のブランド品種か何かか?

 生命の尊厳を感じない扱いだよ。感謝は少しいしてるけど。

 また資源回収できたの?マジでチョロいな。そりゃ転生させたくなるよ。

 でも、不良外国人相手でも怖い思いしたし魔物と戦うとか嫌だなあ。

内政チートとか生産チートで安全な場所にハーレム作ろう。




 取り敢えず転生の流れと方針の決定はそんな感じだよ。

 凄い才能を持った異世界転生。生まれてから暫くは体が出来ていなくて前世の記憶とかそういう状態ではない。身体が勝手に動いて常に夢現。

 そんな状態でも資源を消費して色々出来る。

もう転生させた神からの干渉は無い。これからどうするのか。

 未熟な肉体を他所に物理的でない内面を整える。資源というのは言わば世界の摂理に干渉する物だ。この魂と記憶でその辺を認識しやすい様に整理していく。よくあるゲームのメニュー画面や周囲を認識する俯瞰視点やマッピングの機能を作る。そして、生産保有する資源の数値化だ。それが出来たら更に資源を消費してこの世界への最適化を計る。前世のアカシックレコードとかそういう存在に接続。無かったので作るよ世界の創生からの記憶帯。時間の干渉も可能なのが資源のすごい所だ。ただ、やっていて何となく理解できるのはこれ魂が肉体に定着すると、つまりこちらの世界で自我を保つと、今のような事は資源の消費量が増えて出来なくなる。今はまだ完全に魂がこの世界に定着しておらず、半分転生過程であるから出来ている。いくらこの世界の人間より生産量が多くても、本来は出来ない。可能ではあるが、指定した物の時間を1秒戻すだけで数十年分の資源が、必要になるだろう。

 そんなわけで、できる事は出来る内に済ませるのだ。

 スキルだの魔法だのはも前世の影響を再現する。世界に馴染む形で。

 知識帯が完成して世界を認識する。成る程なんとなく記憶にある。多分ゲームの世界だ。まぁ、ゲームとか余りやっていなかったので、細かい事は覚えていない。でも子供の頃に遊んで、大人になってから最新のゲーム機で遊べるようになっていたのをやっていたな。持ち歩いていた通信端末に入れて暇な時にいじって。

 その数個のゲームの影響を受けている世界の様だ。

 身体の成長に合わせて知識帯への干渉も出来なくなる。魂が神の領域から遠ざかっている。

 もうじき肉体に自我が芽生える。数値化した資源のポイントはここまで全てメニュー等の機能を作り世界に最適化する事に消費した。でも大丈夫だ。肉体の強化や技能の習得は自我が芽生えてからでも可能だ。最後にこちらの世界に持ち込める前世のゲームのアイテムを呼び寄せよう。これもポイントを消費するし完全に魂が定着するとその消費が増える。

 持ち込むのは勿論、少ないゲーム経験の中でも一番お気に入りで遊んだ作品の装備品だ。希少な品等も集めたゲームだ。ゲームクリアが可能な強力な装備を持っているだろう。

 魂が定着するのを感じる。準備に使えるのはここまでか。アイテムを呼び寄せメニューのアイテム欄に名前が表示される。何が来るかな。暫くは遊んでいなかったから記憶が曖昧だ。最後にクリアした時は魔法をメインで使っていたかな?そうなると賢者の杖とかそんな感じかな。

 期待の中で表示された最初のアイテム


 フロアモップ





 ん?

 ああ、そうかリマスター版の追加要素のミニゲーム、お掃除イベントの効率上昇用の装備だな。このイベントで追加要素のアイテムや新規スキルが得られるからその為に装備を整えてミニゲームをやっていたのが最後だったな。



 じゃあミニゲームの攻略用の装備達を紹介しよう


 先ずは最初にやって来たアイテム


 フロアモップ


両手装備の槍扱い。ゲーム中の攻撃力は1


見た目は前世でもお世話になったマイクロファイバーモップだ。ポールの先の板状の部分に房や雑巾を取り付けて乾拭き濡拭きこなし、ホコリや零れた液体まで対応可能する現代科学と知恵の結晶。柄はアルミだったと思うがこちらの世界では謎の金属だ。


 そして、全身鎧の作業ツナギ。丈夫で刃物や鋭利な角もへっちゃら。伸縮性もあり動きやすく、洗えば汚れは落ちやすく乾きやすい。仕事は事務方だったので着た経験は殆ど無いが下請けの親方さんがいつも来ていたな。

 手袋には滑り止めのゴム加工された軍手。

 靴として爪先にプレートの入った安全靴。ベルクロータイプで軍手とかしたままでも履きやすいよ。頭装備は顔の下半分を包むタイプのマスク。

 感染症が流行った時に売っていた接触冷感の生地で不織布を挟んだ一品。つけ心地も良いし、普通のマスクの様に横から粉塵等も吸い込まず、くしゃみしても飛沫も遮る。見た目は昔のデモ等に出ていた活動家の様になって少し不審だが、花粉季節などに重宝するため、感染症の流行が収まってからも手放せない。

 そして装飾品に保護メガネ。曇らないすぐれものだぞ(重要)


 まぁ、全てゲーム中では戦闘用の機能は低く、装備してるとお掃除ゲームの効率が良くなるだけなんだよなぁ。

 まぁ、ここで落ち込んでも仕方が無い。ポイントを貯めれば消費は多いが前世の所持品を呼び寄せたり、こちらの世界で再生産出来るのだから。

 それに、前世では実際にこの手のフロアモップは便利だった。きっとこちらの世界での生活でも活躍してくれるだろう。


 そしてこの夢現な状態から意識が外へ向う。見えているのに認識出来なかった景色をようやく認識する。

 眼の前には粗末でボロボロの服を着た痩せた男性。俺は森の中で切り株に座っている。父親だ。


「パパ」


 声に出してみる。そうすると優しく頭を撫でてくれた。


「ああ、パパだぞ。ちょっと仕事をしてくるからここで良い子に待っていてくれ。」

「うん!」


 元気に返事をして離れていく父の背中を見送る。

 そして日が暮れても父が戻って来る事は無かった。

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