第38話 テンプレ8
高等科の入学式が行われた。式に参加できるのは基本的に貴族とその関係者だ。というのも、この高等科は国内津々浦々、優秀な人物なら身分を問わず入学してくる。
仮にその出自が良く無い者でも正式な学力と身体能力の証明のついた推薦があれば入学出来る。
少ないが平民の生徒も入学するわけだ。
推薦の権限を持つのは先ずは王族。王立学園故に当然。次に国内の学園に於いて運営方針に関わる貴族。前世の文科省のお偉いさんだね。
そして自領にて学園運営を許された貴族。その貴族から学園の運営を任じられた者。学長だね。
上記から推薦されるのは大抵貴族の子息となる。制度的にそうなっている。
そしてそれとは別に推薦の権限の持つのが傭兵ギルドであったり宗教の様に国を跨いで権力を持っている機関。
こうした機関からの推薦には平民が居ることも多い。しかし、その後ろ盾は下手な貴族では対抗出来ないので、平民だからと下に見られる事は先ずない。また他国からの留学生も含まれる事がある。
そして、最後に極小数何らかの報酬や恩赦として入学を許可されて平民がいる。
こちらは結構見下されがち。一応、市井の者から優れたものをという名目で許されている。これに代表される現在の貴族は法術で成り上がった者達が挙げられるのだが、当の本人達がこの制度に反対しており、これによる庶民の入学を嫌っている。
理由は当時の推薦制度と現在との背景の違いによるらしい。法術家は既に先代までで功績を上げ、貴族位を得ると共に仕える貴族も決まっていた。その為に貴族としての作法や礼節を学ばせた子息を学園に送り、その子が卒業後に貴族位をえる流れであったが、現在はそうした功績も無い無作法な者が、品性を求められる業界に踏み入るのを窓口になっているのだと。
まぁ、アベルや僕達の入学は普通に歓迎されている。周りは気にせず勉学に励むだけだ。
初等教育の成績上位者。新入生に王族やそれに次ぐ権威のある生徒が居ないなら、学園代表の挨拶が任せられても何ら不思議な事は無い。上級生にはいるらしい。初等科と違い社交の場に出てからの学生生活だ。そのうち縁があるかもしれない。
名目上、学内で身分を振りかざす事は無いと言われているが、そんなに者は名目だ。
卒業後に身分のある立場になるのだから、在学中から気を使うの自然と言える。
成績優良者はその出自によらず、貴族に仕える機会を得られるような、普段は生まれの卑しい者は、登用しないが学生なら出自に関わらず登用出来る。
上から下への身分を考えないという話なのだ。そんな事は学生で無くても解っている事だ。逆は想定されていない。
新入生代表の挨拶をするアベルの後ろからみる新入生達の顔に、明らかに不満を浮かべる者がいる。
単に成績で負けただけとは思えない程の敵意を向けている。
「何アレ?平民よね。誰の推薦か知らないけど困ったものね。」
フュンチルも向けられる目線に気が付き不愉快そうに呟く。
アベルは知らぬ顔で無視を決め込んている。
敵意に満ちた視線の主は式の後で素性が判る。
フュンチルの思った通りの平民の出。しかし、光の法術を会得した者だ。僕を含めて学年に何人居たか。
「現王立治療院の副院長以来、十数年振りに現れた光の法術士、セクトの様にわきまえた者では無い様ね。」
「随分取り巻きを連れていたな。全員女子みたいだけど。あの中に彼を推薦したケブレ家の令嬢も居るのか?」
「卑しい事。本当に貴族の令嬢なの?」
「ケブレ家かぁ。歴史書にはよく出てくる名前だね。」
過去に魔族により王族が唆され、人間の国同士で激しい戦争が起きた時代がある。
その戦いを終わらせ国の裏で暗躍していた魔族達を退けた人物、後に勇者と語られる者にルーツを持つ貴族だ。勇者は優れた光の法術士だったらしく、魔族はその法術を種族的に苦手としているとか。
その割に最近までケブレ家の中に光の法術を扱える者は生まれなかった。
先程アベルに敵意を向けていた彼と、その取り巻きの中にいる令嬢が、ケブレ家念願の法術士だ。
しかし、令嬢が光の法術を会得したのに平民の少年も取り込んでいるのか。法術の適性は遺伝し易いからその辺の意図があるのだろうか。
「アベルもまた取得に挑戦してみる?彼みたいに女の子にモテるかもよ。」
「セクト、品の無い発言は控えなさい。オクタビア先生の名に傷が付くわよ。」
フュンチルに怒られた。
「セクトの教えてくれた理論で確かにいくつか法術を得られたし、その内に光の法術も得られそうな手応えはあるが、遠慮しておく、よしんば得ても公表はしない。多分、面倒事を呼び寄せるし、余計に迷宮に入る機会が減る。」
「アベル様、まだ諦めておいでで無いのですか?」
「そりゃあそうさ。ただ、自分で攻略して見たいとかは期待して無い。攻略隊の最高指揮官になって迷宮攻略に関わりたい。そうすれば迷宮に入る機会はありそうだろ?」
「そこまでして入りたいのですか。」
「ああ、夢だしな。家の兵士の最精鋭を護衛に連れてなら、父上達も許してくれると思う。」
「実際、攻略後に迷宮が閉じられる迄、少し猶予があるらしいし、その時になら最奥に行くことも出来るかもね。」
「だよな、セクトは解ってるな。その為に、この王立学園でも良い成績を残して部隊を任せて貰える様にならないとな。」
理由はどうあれ、アベルの行動は学園の勉強を頑張るというものだ。そうなるとフュンチルも否定的な事は言い難く、口をつぐむ。
そんなアベルの側に居られるように僕も勉強を頑張らないとな。
そんな入学式も無事終わり、夜の時間だ。アベルは思いの外疲れていたらしく、夕食後湯浴みをしながら眠りそうになり、湯から上がってすぐに寝てしまった。
僕もフルートを少し練習して、指を動かしてから寝室へ。フュンチルも同じタイミングで移動する。
彼女はこの寝る前の時間、欠伸などは絶対にしない。眠そうな様子を一切見せない。よく見ると欠伸を我慢してるし、目の端に涙が溜っていて眠いのがわかるが、僕の前ではそれを隠して済ました顔をしている。可愛いと思う。
今夜は久し振りに一人で転位魔法を使う。いつもの様に妹に会いには行かない。学校が始まったら忙しくて来れなくなると伝えたばかりだ。初日から会いに行くのはどうかと。実際はこの時間に転位するだけなので対して負担はない。
でもまあ、今夜は一人で別の場所に転位する。
気になっていた転位可能な場所。魔力的なランドマーク。
何度か転位魔法を使う中で、いくつか思い当たる転移先がある。
一つは魔法を使うたびに場所が変わる転移先。これに関しては前世のゲームで思い当たる場所がある。妖精の輪と呼ばれる場所。森の中を移動し続ける妖精達の住まう所だ。前世のゲーム中でも夜の度に場所が変化し転位する時も地図での表示場所が変わっていた。この移動する転位先は妖精の輪で間違い無いだろう。
まぁ、条件を満たすと良いアイテムが手に入る場所なので、いつかは行こう。最強の両手剣の一つを手に入れるイベントなんかが関係している。外で迷子の妖精を助けるイベントがゲームではあったが、こっちではあるのだろうか。
そしてもう一箇所、心当たりのある転移先。こちらはおそらく迷宮だ。異空間の混ざり合った場所にある迷宮。ある作品のクリア後に入れる、謂わば隠しダンジョンという奴だな。なんかもう転移先の座標が明らかにこの世界に無い。感覚的に3つの軸の座標を認識出来るのだけど、こいつだけ座標の軸が7つある。こんな異空間はそのくらいしか無いだろう。基本的に前世でやり込んだゲームの世界だ。その中で一番思い当たるのがその場所だ。
このダンジョン自体は今侵入したならそれは自殺行為に他ならない。
ただ、転移先の迷宮入口には敵は出てこないし、回復所等の機能を有した施設があるのだ。連れて行くメンバーの入れ替え等も出来る。
一応お店が会って、と言っても無人の自動販売機だけど。今いる世界の文明とかけ離れた技術体系の設備がある。気になるよな。
と、言うわけで気になる迷宮の入口に転位して来た。
景色はうん、異次元。
そんな中で渦巻く闇の洞穴と、その近くに壊れた宇宙船の残骸。これが宇宙船というか、取り敢えず乗り物だと認識出来るのは前世の知識があるからだ。アダムスキー型だね。
宇宙船の中に入る。有るねぇ。自販機含めた複合施設。近寄ると立体映像の店員が対応してくれる。人型の知的生命体じゃないんだよな。
聞こえてくる音声は知らない言語だ。ゲームだとそのままショップ画面とかになるからわかるけど、現実だと勝手が違うね。
うん、通貨も違うというか支払い方がわからん。
表示される映像や音声を聞きながら、それっぽい操作をしてみる。
おや?
仲間の入れ替えができる?控えてる仲間が居るっぽい。何の躊躇いも無く仲間を呼び出す。一瞬表示された仲間の名前に、記憶が蘇り鼓動が早くなる。
「オサーム様、ですよね?」
何処からともなく現れたそれは僕の姿をみて言葉を発した。
その後ろからもう一つ小さな影が飛び出してきて、キュウという甲高く甘えた声をだして来た。
「まさか、君達が居るとは。というかオサームかぁ。子供の頃は主人公に自分の名前付けがち。」
「やはり、オサーム様でしたか。」
声の主が跪く。
「懐かしい名前だよ。今はセクトって名前だよ。」
「では改ましてセクト様、本当にお会いしとうございました。」
「まさか、君が居るとはねレイオット。いや、やり込んだ要素がこの世界に持ち込まれてるなら寧ろ君は居て当然か。何にせよ来てくれて嬉しいよ。本当に頼もしいよ。」
「ハッ!またお役に立つ事を嬉しく思います。」
「君とイヴが来たか。」
言いながら顔に擦り寄って離れない毛玉を撫でる。黒い毛の、1頭身のウサギと表現するのが最も近いかな。丸いお腹の下に大きめの足、上部には小さな前足とつぶらな瞳に、長い耳。
マスコット的な愛らしさの生き物だ。
「この毛玉、イヴと言うのですか。強い力を感じます。」
「レイオットと同じくかつて一緒に世界を救った仲間だよ。」
「そうでしたか。私に代わりセクト様を任せられそうな者が居て心強いことです。」
確かに心強いけど、この子達は多分オーバースペックだな。単身で外の迷宮を攻略出来る存在が二体も現れるなんて。ちょっと扱いに困るな。
この二人をどうするか少し迷ったが、戦力はあるに越したことは無いので連れて行く事にした。普段はイヴの能力で僕の影の中に潜んで居てもらい、夜間寝ている間の警戒や、今後の転移先での護衛をしてもらう事にした。
そういう訳で新たな仲間を紹介しよう。
ああ、何だか色々と心が。前世の行いから最も都合よく引き継げる世界に転生している筈だが、引き継がれる内容はTVゲームの事が多い。
これでも結構勉強や仕事も頑張って、社会人になってからも資格をとったり、給料もそれなりに増えて、頑張ったのになぁ。結婚して子供こそ作らなかったが、交際相手は居た時期もあるし、相手の両親に挨拶して同棲した時期もあったのに、その辺は前世では努力不足だったと突き付けられる気分になる。
新しい仲間を紹介しよう!
先ずは先程から言葉も交わしているレイオット。
その容姿は全身濃い橙色で镸手足の人型。背中に大きな羽が生えて、典型的な悪役っぽい姿。種族は悪魔族。頭に短い角が2本こめかみから生えて、整った顔立ちの目には瞳が無く真っ赤なだけの眼球が入っている。
古いゲームの仲間モンスターで、最終盤のステージで雑魚として出て来る存在なのだが、ゲーム中盤にもボスととして出現し、運が良いとその時点でも仲間に出来るモンスターだ。
ステータスとしては防御と魔法よりの成長で、全体的にバランス良く成長する。
しかし、その結果どの能力も半端なものとなる器用貧乏タイプだ。後半の敵らしく、ターン制の戦闘システムで1ターン2回行動出来たりと、優秀な能力を持っては居るが、雑魚として出現する頃には、同時期に仲間になる魔物はもっと優れた能力をもつれ物がおおく、それぞれ特化した成長もする事から、あまり評価は高く無い。
しかし、物語中盤戦、初登場時に仲間にすると、非常に頼もしい存在だ。
前世の自分はまさに低確率を引き当て、物語後半迄彼に獅子奮迅の働きをして貰い、愛着から最後まで使い続けた。
体質としては全ての魔法に強い耐性、軒並み半分以下にダメージを抑え、冷気と雷は吸収する。状態異常にもならず、即死させてくる魔法等にも耐性がある。これは中盤でボスとして出現する故のボス耐性を持っているからだ。
2回行動で通常攻撃には受けた相手の行動を阻害する効果もある。
しかし、素の攻撃力が同時期に出現する敵より低く、2回攻撃してくる相手も珍しくないので脅威度は低かった。
また、耐性も弱点のみ半減で、残りは全て無効か吸収というような耐性の敵ばかりで無効化出来るのが二属性な彼はやはり微妙な評価だった。
魔法に関して取得するものは優秀で攻撃から回復、補助と多才である。最大の特徴は他の魔物には覚えられない、ゲームでも一部の固定の仲間キャラがイベントで習得する特殊属性の魔法を覚える事だろう。
最も、魔法の効果を増幅する装備を身に着けられず、そうした面で魔法主体のキャラにも劣る。
最終ステータスでも、序盤に仲間になるモンスターに終盤では抜かされる能力も出て来て、決して弱くは無いが、突出した物も無い魔物だった。
ステータスを育てるアイテム注ぎ込んでカンストさせて使っていたよ。
というかカンストさせる目的で低確率のドロップアイテムを求めてひたすらやり込んだ。
そんな過去のやり込みの象徴だ。
彼の魔物が使う魔法やスキルがこの世界でどういう扱いなのかわからないが、かなり多芸で色々と習得させている。少なくとも、ゲーム中最強の隠しボスを一人で倒しにダンジョンに入れる程度には育っている。
レイオットがいれば戦力として申し分ない無いだろう。
そして、もう一方。先程から僕に擦り寄って離れない愛らしい小動物。
イヴ
この子はまぁ、確かにやり込みか。
登場したゲーム中での扱いは、世界を司る精霊の対となる存在で、古い世界を破壊して新しい世界に生まれ変わらせる存在だ。
シナリオ終盤のイベントボス戦で出て来る破壊不能オブジェクト扱いの魔物で、クリア後のエクストラダンジョンにて、イベントと同じ見た目の雑魚敵に、同じく破壊不能オブジェクトとしてついてくる存在だ。
物理含めて全てのダメージを無効化する完全耐性を持ち、基本的には倒すことは出来ない。
ただ仕様の穴をついくことで、雑魚として出て来た時は倒す事が可能で、仲間にも出来る。
特筆すべき能力は先ずはその防御性能。敵の時と変わらぬ能力を持っている。
攻撃能力は今の小動物の姿では皆無たが、様々な魔物や人の姿に変身してその能力を使える。破壊対象の世界に存在したすべての生命の形を取ることが出来るという。
作中では竜の姿になり熱線を吐いたり、人の姿になり格闘で戦う姿が見られた。ゲームの戦闘ではその程度たが、イベント映像では惑星を覆う程の巨大な生物になったり、過去の勇者の姿となって、力を振るったりとやりたい放題の存在だ。
そもそも、この存在と切り離す事でラスボスを倒せる様にするのが、後半の物語の大筋でもある。
普通に生命が存在する世界に居てはいけない存在である。
仲間にして、一応ステータスもカンストさせて覚えさせられる魔法や技は全て覚えるしているが、基本的にゲーム中では固有の能力だけで全てを蹂躙していた。仲間になる頃には全てのボスとダンジョンの攻略が終わってからなのでゲームバランスは崩れない。
破壊不能な障壁で味方を包み、いるだけで全ての攻撃を引き受けてくれる、矛盾を許さない絶対の盾だ。
欠点は装備欄が装飾品一つしか無い事であるが、それも気にならない性能である。あとは攻撃モーションが変身を挟むので遅い事か。
単身で明確な過剰戦力である。
しかし、防御面が充実するのは嬉しい事だ。
今回再会出来た2体が居れば、他の転移先を見に行っても大丈夫だろうと思えた。
明日は早速、妖精の輪に行ってみようと思う。
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