第35話 テンプレ5
「ジークお前からみてどうだった、ウチの一番は。」
「どうだったって、お前、見ての通りだよ。まだ俺には遠く及ばないさ。」
「まだか。」
「ああ、俺があの歳だった頃よりは間違いなく強いが、俺もまだ強くなるからな。」
旧友の言葉に安堵の溜息を漏らす。
「お前がそう言ってくれて安心したよ。中々こっちの武術面では底を見せてくれなくてな。」
「なんだ?跳ねっ返りの問題児か?俺に鼻っ柱折らせようってなら、まぁ上手くいったんじゃないか?」
「問題児ではないな。座学の成績は学年で一番だし、本人の素行も問題ない。」
「なら何で態々俺を呼んでまで試さたんだ。」
「今の彼の底と伸び白を見たくてな。彼には王立学園への推薦の話が出ている。」
「それはまた、将来有望な。」
「彼の仕える貴族の息子ももう一人のお付きの生徒も成績優良でな。推薦に関してはほぼ確定だ。あとは推薦書に書く内容何だが。」
「学園の科目では計り知れないだろうな、あの器量だと。」
「そういう事だ。取り敢えず初級の傭兵程度にはあるか?」
「もう少し上だが、推薦書に書くならそんな所だろう。最低保証だ。あの歳でな。」
旧友の言葉を心に止めて、後に書面に考えを巡らせる。
このまま、この学園で高等教育を受けさせても彼の器に見合うとは思えない。国内最高の環境に送ってやるべきだ。
その様に思える生徒に巡り合うのは稀だ。この教官をして初めての出来事である。
手間は増えるが喜ばしい。こういう面倒事ならたまになら歓迎したいと思う。
教え子の一人を送り出して二年経った。定期的に届く頼りには楽しそうに都会の学園に通う日常が綴られている。
ワンパクな主人について周り、小さな事件に右往左往して、子供達の大冒険が書かれた日記の様な手紙。歳に似合わない綺麗な文字と文書意外に不自然な所は無いと思っていた。
しかし、毎回届く内容が物語として身近くまとめられ、最後に何かしらの教訓、それは作法であったり親の小言であったり普通の子供には耳が痛く、聞き入れ難い様な事が面白可笑しく、されど意味があるかのように描かれている。半年程の間に届いた手紙の内容全てがだ。
違和感というより不気味さを感じた。幼い子供が離れた妹に送る手紙として。しかし、そんな手紙を読みながらとある事を思い出す。
彼を学園に通わせる方が決まった頃の話だ。家族達が祝いの空気に満ちた中でこの手紙の書き手が思っていた事。
本人は学園に通える事を喜んで居たのだろうか。
家族に追い出だされる様で寂しいと、誰に言うでもなく呟いた一言。あれこそが本心では無かったのか。
この手紙はあの子の細やかな反抗なのかもしれない。学園に通わずとも、充分な教養を得られるのだと。その為の教材としての意図が彼の手紙には込められている気がしてならない。
1年目の成績が学年で一番だったと聞く。その褒美として手紙の量を増やしたいと申し出たと聞く。二年目から増えた手紙の内容は、それが教材としての側面を持つことを裏付けるものだった。
これを使い、妹は家族と引き離す事無く立派な淑女に育ててみせろ。そんな事を言われている気持ちだ。
子供が生意気なとも思う。彼の反抗に付き合う事にする。長く生きてきた大人の持つ物を幼い子供の視野に見せつけるのだ。
ノートン家の令嬢から兄の手紙を借り受けその全てを書き写す。
それを基に表現等をより汎用的に校正、編集する。初等教育対象者に向けた寓話として纏める。
そして、他所の家で同じく家庭教師を務める知人を久し振りの会食に誘い手渡す。
「女史、これは?」
「何でしょうね。貴女には何に見えます?」
簡単に紐で綴られただけの物を、友人は開き少し目で文字を追った所でその色が変わる。
「良いのですか?これは女史が今まで磨いてきた手練の類では。」
「そう見えますか。」
「違うのですか?貴女の教え子達を見てきた身にはその様に思えましたが。」
教え子達の傾向。そういう意味では彼もまた自分の教え子なのだ。その事を改めて認識する。
「貴女、書紀の者と縁がお有りでしたよね。」
「女史が望むなら、それにこれなら拡める意義もあります。それで、これは女史の著ということで良いのですよね。」
「それは、書いた教え子に確認します。」
「教え子が、そうでしたか。優秀な方なのですね。」
「そうですね、私の教えた中では一番かもしれない程に。」
彼の作った物で、妹どころか国の子供達の教育水準を高めて見せる。
功績を与え、一人学んだ事に意義を付与する。これから広まる教材が表に出た時、彼がどんな表情を見せるか、先の身近くなった余生に楽しみが増えた。
翌年、3年生になった何も知らぬ教え子から新たな教材が届いた。歴史や文学を内包した娯楽要素の濃い物だ。全く
老骨に無理をさせてくれる。
口うるさい家庭教師に連れられて来た奴は、弱そうに見えた。オクタビアに紹介され一緒に授業を受けると、そいつは既に俺とフュンチルに出された課題を済ませており、所作や武術の訓練では、明らかに上だった。
父の友人の息子で、かつて父が迷宮攻略を果たした時の仲間だったそうだ。その縁での名誉貴族となり、我が家に仕える立場だという。
先日の能力判定で両親のスキルと魔法を受け継いでいる事が確認され、年が同じと言うこともあり、俺の付き人になるそうだ。
名誉貴族に任じられるような両親の能力を受け継いでいるので、そこらの平民とは比べ物にならない。
気に入らないな。
そう感じたのは妹も同じだったようだ、二人して嫌がらせのように毎日、嫌味や無理な要求をし続けた。そのうちに向こうも我慢の限界が来てボロを出すと思っていた。
しかし、何事もないようににやり過ごされてしまった。
そんなアイツに張り合って勉強も熱が入り、色々と身に付いた。
学園で学ぶようになって感じたのは、その生意気なアイツ、セクトの振る舞いや勤勉さは他の生徒も比べても特別であった事だ。
退屈な授業に真面目に臨み、学園から帰った後もその日の復習や翌日の予習に励む。そして、一段落すると家族への手紙を書いている。
一度、その手紙の中身を盗み見た。どんな悪口を書いているのかと気になったのだ。
悪く書かれていたと言えばその通りだ。わがままな貴族の息子の悪戯や無理難題に振り回されている様が面白可笑しく書かれていた。最後にオクタビアが好きそうな教訓めいた事まで書いて。
何だが気が抜けたよ。
その後、アイツは1年生の成績でトップになった。それでも特に喜んだ様子は見せない。それどころか一年生の終わり頃には二年生の予習に手を付けていた。
そんなセクトに褒美として兄は家族に送る手紙の頻度や紙の使用枚数の増加を許可した。
そんなセクトが珍しく感情を表に出したのは成績褒美として、彼の父とオクタビアから楽器を贈られた時だろう。
父親に頭を撫でられながら、本当に嬉しそうな顔をしていた。その姿に何だか自分と重なる物を感じた。俺も父から褒められたい。よくやっていると頭をなでて欲しい。
家族と離れ、普段は手紙でしかやり取りが出来無いのだ。偶に会える時に褒めてもらいたい、自分は頑張っていると胸を張りたい。大丈夫だと見せたい。
アイツは余計な事を考えずにそれだけをやって見せているだけだった。
俺と同じ子供じゃないか。気に入らないという感情は大分薄れた。それどころかアイツの真似をすれば俺も褒めてもらえると思った。
その結果は2年生の成績に現れた。学年末の世間では俺とセクトの二人は満点を取り共に掲示された。
3年の授業が始まる前に忙しい父がグッラスを訪れ直接、声をかけて褒めてくれた。
これは上の兄達には無かった事だ。クーゴ兄様が羨ましそうにしていたが、学園での成績は兄弟の中で僕が一番良いと言うことで
「お前も期末試験で満点をとっていれば、直接に褒めに来てやってぞ」
と、父に宥められていた。
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