第33話 テンプレ3

  春を迎え進学と相成る。

 グッラスの街のミルニート別邸に移り、そこからアベルのお付きとして学園に通う。

 初日はアベルの兄、ミルニートの長男であるクーゴに連れられての初登校だ。

 入学初日は入学式と学校に備えられた登録判定の魔道具にて、改めての能力判定を行う。潜在判定と呼ばれる物だ。

 今まで行われた能力判定とは少し毛色が違う。今までは特定の魔法やスキルを所持しているかの判定だった。魔法にせよスキルにせよスロットにハマっている物の中に対象があるか否かだ。

 今回は学園で行うのは、スロットにあるスキルや魔法の数を調べるものになる。今はまでの判定では見つけられなかったものが見つかる調査だ。

 情報に関しては家族以外には公表されない。というか使う時に同席したものにしか観れない。

 これを順番にやっていく。それで1日ご過ぎる。生徒全員をやると1日でも終わらないのでお付きの者はやらずに主たる貴族の子たちが受ける。お供はそれに付随するだけだ。

 アベルの結果は未判明の魔法がいくつかあるそうだ。


 このスキルと魔法の判定は大分緩いし偏っている。前世のゲームではスロットの枠はスキルと魔法の合計は皆同じで、種族により偏りはあるものの個性の範疇でばらけていた。

 そして、それを付け替えることで誰でも能力を発揮出来た。

 だが、この世界ではその付け替えが出来無い。枠はあってもそこに魔法やスキルをセットしなければ無いも同じであり、僅かな例外を除き付け替える機会は存在しない。

 貴族の家系は生まれつきスキルが嵌っている家系なのだ。恐らく過去に例外的な事情に出くわし装着され、それが遺伝している。

 貴族と平民にはそうした点で明確に能力差が存在する。

 余談となるがアベルはスキルと魔法を父から受け継いだが、フュンチルは判明している限り受け継いでいない。

 その事は、ある意味で戯れに生まれた命であり、正式な子どもとして扱われない事が望ましい子供として大人には都合が良かった。本人の意志とは別として。

 枠に装着されていないだけで所持している可能性はある。だが装着され無いのであれば無いも同じである。もし、未装着の物を調査し装着したいと望むならば、手段は限られ、そして多くの若者が迷宮を目指す理由にも繋がる。


 話を戻そう。フュンチルに未判明の能力が有るのか否かを学園の設備で調べることが出来る。本人がそれを望むかどうかを別としてして。

 自分の場合は血統としては父方の祖父から受け継いだ任意スキルとなる。

 レイザーエッジを迷宮で祖父が習得、受け継いだ父が、ミルニート家の迷宮攻略に同行、魔法使いの家系でえある母と縁を結ぶと共に貴族位を得た。

 誰でも知っている平民の立身出世としては正攻法だ。しかし、実現出来る者は少ない。

 多くはさらなる成果を目指し危険を犯すか身持ちを崩し、どちらも自滅する。


 両親は上手くやったよ。


 僕は既に両親の能力を受け継いでいるのがわかっているのでこれ以上調べることもない。公表されるのに十分な情報が知れ渡っている。なので改めて調べる必要は無い。

 フュンチルは機会があれば受けるかもしれない。


 さて、位の高さに違いはあれど、初等教育を受けるのは貴族の子息とそのお付きの子供だけだ。親や家庭教師の手により格付けは家で済んでおり、大きく揉める事は少ない。

 親が不仲な貴族の子供同士も、互いに距離をおいている。

 アベルもそのあたりは察しているようで、自宅での腕白ぶりは鳴りを潜めている。

 クラス分けは貴族の位によって分けられている。

 ミルニート家は国境を任されるわけでもない家だ。親が生まれる前に起きた戦争で奪った土地の開拓を統治を任されている。平地に山が一つ。前世なら綺麗な成層火山だと言われるだろう、そんな秀峰や雄峰と呼ばれる様な存在。

 何故前世での呼ばれ方に言及したのかは説明するまでも無いが、この山は火山由来の物ではない。

 そこが資源となるわけで山を囲う様に統治をする複数の貴族がいる。

 まぁ、国の中では新興の部類で、下の上から中の下辺りの地位だ。

 荒れ地を開拓する優秀さを求められたり、国境や首都の守りも任されない。そんな田舎貴族。更にその配下だ。しかし、学園では地位は関係無いという名目がある為、極端に威張っている者は居ない。かと言って上の地位の者に無礼を働くものも居ない。

 始まって見れば初等教育は平穏な物であった。


 学園に入り学ぶことは基礎教養となる学問、読み書き計算に加えて社会。それは入学前から変わらない。演奏や所作に関しては合奏の練習や会食での振る舞い等、複数人での場面での物が増えた。


 そして、最も重要な追加科目。法術の授業が加わる。


 魔法やスキルに連なる技術体系で、この境の社会設備を支える物となっている物だ。

 有り体に言えば魔法やスキルの劣化模造品、代用技術、下位互換、汎用型。

 魔法やスキルは発動に非物理的な体内機関から生み出された、便宜上魔力と呼ぶ、動力を体内、及び体外にて作用させて物理的な現象を引き起こす術だ。

 そうして生み出された魔力を再度体内に取り込む又は収束させて、再利用するのが法術である。

 これは枠に魔法やスキルを嵌め込まなくても、魔力を感じ取ることが出来れば誰にでも可能である。

 単位魔力に置ける効果としては魔法やスキルに大きく劣るものの、使い手が多い技術であり、体系化や効率化の研究が進んでいる。前世の科学発展に変わる産業革命的な出来事の発端等は大抵法術の進歩によるものだ。

 魔法やスキルを使える者は、当然法術に関しても適性が高い。外部から魔力を取り込まずに作用させられる点で、そうでない者とは一線を画す。

 貴族とは前世で言うと生ける発電所だ。しかも環境負荷が皆無で発電効率も高い。生まれながらに魔法やスキルで世界に魔力を放出出来る、そういう意味でも貴族なのだ。

 まぁ人の価値はそれだけでない。法術も必要な技術あり、多くの人の暮らしに貢献している。法術のみで貴族位を得た家系もある。


 この法術、魔法と違って自由度が高いので学びがいがある。というか、二番目にやり込んだゲームシリーズのシステムだ。魔法やスキルは色々規格外な物を持ち込んでしまったが、こっちは調整しやすそうというのもある。恐らくテンプレ展開でいう想像力とかが大事な魔法はこの法術に該当する。

 呪文や魔法陣とかも使うしね。

 法術は色々と制限もある。魔法なら枠にはめるセットに寄って、熱と冷気を同時に発したりできるが、法術ではそうした反作用的な組み合わせは使えないし習得できない。扱える属性に個人差で適性があり光が使えれば闇は使えないというような制限がある。

 そうした制限も魔法が使える者は緩い。

 初等教育1年目は目新しいことも多くひたすら学びに夢中だった。

 その結果、年度末の試験成績は学年1位となった。

 こういう時に地位に配慮する事なく、付き人の名前を一番上に掲示するのが、地位は関係無いと謳う所以である。


「名誉貴族とはいえ、貴き地位についた血筋か。国に貴様の親を推挙した父上に恥をかかせなかったのは認めてやる。」


 そう言ってアベルも認めてくれたし、クーゴ様がご褒美をくれると言ってくれた。

 フュンチルは無表情であまり話してくれなくなった。

 ご褒美は家族へ送る手紙の枚数を増やすことを要望した。学園で学んだ事や、妹への物語風の手紙の量を増やしたかった。


「君は、君の父上によく似ている。こちらから褒美を用意せねば、些細な事で満足してしまう。」


 そうクーゴ様には呆れられてしまった。また、成績の件ではオクタビア先生から手紙で褒めてもらえた。

 正直、それで大分満足していた。

 学園の二年目が始まる前の休日に父とオクタビア先生が連れ立って会いに来た。

 直接褒めて貰い、さらに父は僕に祝の品を用意していた。

 それは父と母の傭兵時代の伝手から手に入れた品だ。オクタビア先生から自分が家を出てから始めた趣味で、楽しそうにしていると聞いていて、良い品を探していたそうだ。


 渡されたのは不思議な金属で出来た横笛だ。前世の記憶でいうとフルートによく似ている。出せる音色が多く、習熟には努力が必要だがそれが逆に楽しみになる。

 魔道具と言うことで演奏することで様々な効果があるらしい。

 詳細は不明。わかっているのは汚れを光に変えて常に清潔な状態を保てて手入れが不要な事と、小さな傷は自己修復する点だろう。


 これを貰った時、こちらに生まれ変わってから初めて、前世でもそうそう感じた事の無い程に歓喜の感情が湧いて、身体が震えた。そんな僕を少し困った顔で父は見下ろしながら頭を撫でてくれた。転生させた神に心の底から感謝していた。


 その場で父に一曲聞きたいと言われたのでスタトの村で良く歌われた民謡だ。初めての楽器で探り探りだが、基本の操作は他の横笛からある程度応用できたので、引き慣れた旋律は直ぐに奏でられた。


 夢中で一曲を奏で終えると、父もオクタビア先生も嬉しそうな顔を浮かべている。自分の感情が伝わったのだろう。なんだか益々演奏が好きになった。

 それからは笛を常に持ち歩き勉強や訓練の間に時間を見つけては練習していた。

 妹への手紙を書く量も増えた。日常を少し誇張した小説の様になっている。

 転生で引き継いだ能力の戦闘系のスキルや魔法はまるで出番が無い。身体能力向上の副次効果のあるものが知らずに役に立ってはいるのだろうか、スキルや魔法を全力で使う機会は訪れない。それは平和な証してあり、良いことなのだとも思う。

 ただ副次効果による能力向上は日常生活や学校での成績を助けてくれる。それだけで充分だった。

 二年目の年度末の試験

 結果は成績で1位だ。すべての科目で満点を取ることが出来た。そして、同じ成績でアベルが横に並ぶ。彼も僕と学びに触発され非常に良く学んだし、家でも共に机を並べて自己学習に励んだ。共に学んていたフュンチルも成績上位者として名前が掲示されていた。

 自分の様なチートも無い中で、二人は本当に努力していると思う。かなり恵まれた環境で平和に過ごしていると思う。


 二年目もまた勉学を主として過ごす。学びながら他の貴族の子供とも交流を持ち、学園の資料などにも目を通し社会の事を学ぶ。結論としては既にある程度の既得権益や権力体制は整っている為、何か大きな地位を新たに得るのは面倒で、其の為も支出も多く、利益は少ない状態になっている。

 そうすると、色々と見えてくるものがある。ミルニート家の方針として、今のままアベルが学園を高等教育までそれなりの成績で終えるなら、現在僕の父が治める村を中心に開拓事業を含めてその責任者に据えるつもりだ。僕の家は貴族位は失うものの、直属の部下として、事業や地域の統治において、かなり高い地位につけるようだ。

 また、フュンチルを嫡子として認めて僕と入籍させて取り込む話もあるらしい。フュンチルの意見は知らないが、大人達に取って都合がよく、尚且つ僕や僕の家族への利益も大きい。

 スキルを得た祖父の代から3代かけての立身出世物語とするなら綺麗に纏まる落とし所だ。

 大人とって都合が良いのは、僕を含めて3人の成績と素行が問題無いからだ。

 現状を維持しつつ現実な発展を心掛けよう。


 さて、二年目の個人的な思い出を話そう。

 一番は父と先生から贈られたフルートだろう。常に持ち歩き吹き続け、色々と判った事や見つかった効果がある。

 先ずは持ち主の魔力を記憶し、それによりいくつか効果が加わる点だ。

 持ち主の魔力や周囲の魔力を取り込み効果を発揮するのは魔道具と呼ばれる物ので、それ自体は高価ではあるが珍しい物ではない。その効果として、小さな傷を治したり、手入れが不要になるのは有り触れた効果だ。基本的に先ずついている機能だと思って良い。それだけでも道具として優秀である。


 魔道具の中には多くの魔力を取り込み使い続ける事で、まるで生き物のように成長し新たな機能を発現する物があり、自分のフルートもそれに該当した。

 加わった効果はフルートが光の粒子となって、自分の体内に取り込まれる様にして消える効果だ。

 ケース等不要で、本当に何処へでも持っていけるし、好きな時に直ぐに取り出せる。本当にありがたい機能だよ。

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