第8話Fufu伝2
町に来てから二年。僕を買った行商は大きな商家の下で働いていたようで、彼の籍を置く商店に預けられ、そこから店の仕事を手伝うことになった。読み書きはこの世界の文字を知らなかったので出来なかったが計算は出来た。
必死で働き、仕事も合間に文字を覚えた。
働き振りと、ここに来る経緯を知る大人達はとても優しくしてくれた。
そして、編み物や糸を紡ぐスキルも認められた。
「子供を買ってきたと言われたときはまた口減らしかと、複雑な気持ちになったが、君なら平時でも雇っていた居たかもなサグ。」
そう言って僕を優しく撫でるのは、この町で最近独立して1つの店を任されている男性。僕を買った行商の従兄弟で同じ商家の人間だ。今の僕の身元引受人でもあるマレクさん。
僕はこの人の独立に合わせて従業員兼職人として、引き抜かれた。
「サグ、もう君は料金の分働いた。君が望むなら故郷へ帰ることも許されてる。一度今後に付いて考えると良い。」
そんな事を言われたのは十歳を目前にした頃だった。
「どうせなら二頭立ての馬車と馬を買って、荷物を一杯に積んで帰りたいです。それにはまだお金が足りません。」
「やめてくれよ、手放したく無くなるだろう。」
「村に行ってからもちゃんと商品は作って持ってきますから。」
「君の織る布や編む服や人形は本当に質が良い。並べれば昼前には売れている。材料の入手に難があるから量産出来ないのが悔やまれるよ。」
「それなんですが、僕も材料を自分で取りに行こうかと。」
「それはあれかい?いよいよなのかな。」
「明後日、ギルドに行って能力判定と登録を行ってきます。」
「そうか、そんな歳か。たが君には今のような編み物職人が天職だ。これは間違い無いよ。君程の才能は見たことがない。魔物を狩る素養が無くても、こちらの才能の方が余程有用だからね。」
そんなやり取りもあって、やってきました魔物退治や迷宮探索を生業に、する名目の日雇い労働案内所。ギルド。
定番の冒険者ギルドというわけではなく、機能的には近いがそもそも冒険者という仕事は無い。
個人事業主への職業斡旋や新規求人の募集、人材斡旋等を行う場所だ。職安やハローワークを拡大した感じか。それでも正確には表現出来ないがそんな感じだ。
ギルド、または職業ギルドと呼ばれている。
受付にて登録申請を行う。
「おめでとう。支払い終わったのね。」
書類に必要事項を記載していると受付の女性が声を掛けてきた。
この町で働きだして四年になる。顔見知りもそれなりに出来ている。彼女はそんな中の一人だ。僕が売られた年は他の村でも飢饉により荒れたようで、そんな中で商人に買われてきた子供の身の上は想像に難くない。
中には出稼ぎに町に出た親が仕送りが間に合わず子供を失った例もある。
そうした出来事がまだ記憶に新しい為に、当時苦労した人達は軒並み幼い僕に親切だ。
特に早く文字を覚える為に、夜でも明かりがつ付いているギルドの前で地面に文字を書いて練習していた時は、辛気臭いから他所でやれと追い払う事も出来たであろうが、それをしなかった。
また、町の中の素行の良く無い集まりや反社会的な組織に属すると思われる人達も、そんな僕を居ないものとして扱い手を出さなかった。まあ金にならないのも理由だろうけど、そうした親切や友好的な無関心に助けられてここに立っている。
それ故に、受付の女性の言葉を皮切りに僕の後ろで目出度い事でもあったような騒ぎが起き始めていた。
身分隠してる貴族っぽい振舞のおじさんが、あの飢饉から立ち直った実感がどうとか涙声で叫んでる。
大袈裟過ぎない?
「読み書き計算の出来る素行の良い人物向けの仕事はいつでも求人が有りますので、お声掛けくださいね。」
受付の笑顔と奥の事務職の人達の猛禽の様な瞳をやり過ごして、手続きを進める。人手不足だなぁ。
「では技能測定に入ります。」
さて、ここからだ。
魔法への適性と保持スキルを調べてもらう。
一応魔法の適性は高いし全ての属性を網羅している。
実際にはこの世界の住人は全員魔法への適性を同じ位に持っているし、属性も全て使える。たが同時にそれを阻害し打ち消す素養も同じだけ持っている。
その打ち消される分が少い属性を行使することが出来るわけだ。
適性を測るのもその打消す素養も含めての測定となる。
まぁ、詳しい事は抜きにしてこの適性測定結果は僕の任意で操作出来るわけだ。
余りに凄い適性を示してしまうと、魔法は戦闘力に直結するので、望まぬ面倒を引き寄せかねない。しかし、魔法を使える利便性は無視できない。この世界の文明は魔法ありきだ。豊かな生活には欠かせない要素でもある。
なので生活の利便性を確保しつつ、戦闘に向かない程度の適性が望ましい。
「測定結果は、水と土、それと火の属性が少しありますね。残念です。火との反属性で高い水属性が弱められています。」
「竃に火を入れたり、飲水を確保出来る程度にあるなら充分ですよ。」
「土への適性も有りますので、ここでは測れませんが、水属性との複合属性である樹への適性を調べる事を勧めます。」
属性の仕組みは解釈のされ方が実際とは異なるが、現象としては間違って居ないので深く考えない。複合属性も追々だ。
「続いてスキルの測定になります。」
文字の掘られた石板に触れる。掘られていいる文字はスキル系統だ。取得しているスキル系統の文字が光る。
身体能力強化のスキルと服飾や細工等の生産型スキルの文字が光る。
石板に無い分霊の様なスキルは持っていても、この石板では解らない。本気で詳しく調べるなら魔法同様、他の場所で調べる必要がある。身体能力強化と生産系スキルの保持が確認出来れば充分なので測定はここでおしまい。
「優秀な子だとは思っていたけど、少し驚いたわ。生産系スキルは予想してたけど、魔法の適性もあったのね。これからも勉強に励めばきっと役にたつわよ。」
そんな言葉と共に登録を終えた。
さて、ここからは少し目線を変えよう。
僕が転生し3歳になった頃、早速発動させたスキル。分霊戦士。
能力的には
破壊力D
スピードB
精密動作性C
射程距離∞
持続性∞
成長性C
現在自律稼働中です。結構凄い性能である。嫌な戦闘を押し付ける為の射程距離と持続性特化。本体とは遠く離れた場所でも活動できる。
何が凄いって、離れていても視界等を共有して任意で操作も出来るのだ。時を止めたり、生命生み出したり、ジッパー付けたりは出来ないが、この活動範囲。そして自律稼働型で元ネタの設定的通り受けたダメージは本体に返らないという利点を持ちながら、必要とあれば任意操作可能という利便性。
非常に有用だ。強力な能力というより有用というのが勝つ。
基本的には魔物を探して攻撃する。人目は極力避ける。しているのはそれだけだ。
見た目は小柄な銀色の人型。目の部分だけ開くヘルメットに関節と胸部を覆うプロテクターが付いている。
拳と足も金属の様な保護具に覆われ、基本的な攻撃手段は格闘となる。
パワーは無いので手数で攻める事になる。
それでも小型の魔物やゴブリンの様な身体能力の低い相手なら容易く退治出来る。
今は故郷の村周辺の山林で魔物を襲い続けている。先日、中型の猪の魔物と対峙し、一晩戦い続けようやく仕留めるに至った。この調子で魔物を駆除して行けば、僕を転生させた神様も満足だろう。
ギルドへの登録も済ませて何するものぞ、いつもの通り店番と品出しの仕事だ。
そんないきなり生活様式を変えたりはしない。ただ、今後は店の仕事意外にもギルドで仕事を受けようというだけの事。
故郷に錦を飾るつもりかと言われるとそれも違う。
やはり田舎の農村と町での暮らしを比べると、今のほうが娯楽があり文化的で豊かな暮らしになっている。
たまに土産を持って帰り、町で元気にしてると両親に伝えて安心させたい。
稼ぐ為の手段は単純に布や衣服の生産だ。元々僕がそうした事を得意としていることは知られているし、今日の能力測定でスキルがあることも公になった。スキルがある者の作る品と、無い者の品質は同じ労力で作ると格段な差がでる。
というより、スキルがあると、不自然な程に良いものが出来る。
それ故にスキルを持ちの作る品は一種のブランド扱いだ。だからこそ、店番の合間に僕が編み物や糸を紡ぐのが黙認されていた。能力の鑑定はされて居なくても、縫製系のスキルがあることは目に見えていたからだ。
そして、今回ギルドで判定を受けて公認された。こうなると大抵は商人と契約するなりして職人として独立を目指すのが一般的だ。
産業革命の起きていない文明に置いて織物は高価だし、品質の良いものは財産たり得る。
この流れでスキルについてもう少し話そう。
この世界に於いてスキルを持たない人間は極僅かだ。皆何かしらのスキルを持っている。そしてそれは多くは魔法の適性にかかる物だ。スキルもまた魔法同様いや魔法の一種と考えたほうが良い。なので当然阻害される素養もある。多くは弱い魔法を行使するか、属性に対する耐性。少し火にあたっても火傷し難い、水中で動きやすい。地面を掘るのが楽。向かい風でも何とも無い。そんな程度だ。
そして全く魔法への適性が無い人もいる。世界の作られた目的が神の資源を作ることであり、その原資が信仰で産物が魔法等の現象として現れる世界だ。適性が無い者は地域によっては差別の対象となる。
この町や近隣の地域は表立った差別や迫害は無いが、自ずと疎まれ僕の産まれた村の様に離れた土地で同じ境遇の者が集まり暮らし始める。
そして、スキルの有無は体質の様な物で遺伝する。
例外はあるが傾向として知られている。
勿論希望はある。それが僕だ。無才の者同士の子には時折多才な子が生まれる。その子を中心に村にスキルや魔法を使えるものが増えて、発展する。
そして下に見られていた境遇を脱する。
百年以内に起きる程度には在る出来事だそうだ。
それ故に魔法やスキルの無い者への極端な迫害等は少い。勿論差別的な視線はあるが、公の場で高らかに叫ぶような事はない。小さいものは有る。
僕が身を売った事は村にとっては大きな損害かも知れない。村に顔を出した時に1人で寝ることは許されないだろう。僕を転生させた存在的にはハーレム作れるので願ったりだろう。
日を跨いで
今日はお店の仕事はお休みを貰ったぞ。魔法と生産系のスキルを持っていると適性のある僕には自動で使えるスキル系統がある。それが錬金術。これも一種の複合属性の魔法扱いだろう。
生産系スキルで薬効のある草を丸薬にしたり、成分を抽出濃縮した水薬を作ったり出来る。その一つ上の物が作れるスキルだ。薬効の無い草から効果のある丸薬を作れる様になる。
当然、使い手は少い。複合属性は基になっている属性と複合属性自体への適性も求められる。
まあ、使えると知られるとこれも面倒のもとである。ぶっちゃけ薬作れる生産スキルを持つ者自体も少いので、それだけでも結構な事だ。ギルドの石板では生産系スキルを持つことしか判らない。
僕は編み物等を表に出していたので皆それだと認識している。縫製や織物を作るとスキルだけだと思っている。
こっそり薬も作って闇市辺りに流そうかと。非正規の販路は利益が大きいからね。
勿論表の顔となる縫製系の仕事も忘れない。
名目は生地の素材を取りに町の外に出るわけだ。
遠く、独立して動く僕の分霊だが、魔物を探して回る傍ら、スキルも磨いている。分霊を通しても経験値は入る様に神が作ってくれたので寝る間も惜しんで分霊は働き続けている。人間の活動時間的には単純に昼夜通して二倍。僕自身の活動の加えて3倍の経験値が得られている。
まぁ、経験値の感覚はよくわからないけどね。続けてると、慣れてきたなあから、分かって来たかも、と何かを閃くというか真理に近付く感覚が偶にある。それがレベルアップ的なモノだろうとは思う。
ギルドで調べられないから正確では無いが、格闘的なスキルを取得していると思うし、パッシブ出なくアクティブスキル、必殺技っぽいスキルも分霊を通して覚えているっぽい。
使えるスキルが多くて経験値が不足しそうな所を分霊で補えている。神様も良い感じに調整してくれて感謝だよ。
この感謝は直接神に触れた僕がすることで、より強く純粋な信仰として神に資源を与える仕組みだ。
成る程異世界転生を積極的させるわけだ。再生可能エネルギーという名目で馬鹿みたいに風車を建設を推し進めた活動家達と同じ気分だろう。彼等より遥かに効率的で良い結果を出しているし、そりゃ量産するわ。
そんなこんなで、人知れず本体は戦闘力も増して、作れるものも増えている。
良いこと、効率的な成長をしている事もあるが、育っていない物もある。
それが魔法だ。正確には魔術。
魔法は魔力を使う事は何でも魔法だ。魔術はそれを制御する術だ。
解りやすく例えると何だろう。爆発物かな。
岩をどけるのに火薬を使うとして粉末の火薬を山と積んで火打ち石で着火する或いは手に持った松明を近付ければどうなるか。
紙などで包んで導火線を付けて
その様に加工していくその加工が魔術だ。
その型は研究され体系が確立されている。そして伝承方法も同様だ。
特定の属性を流すと魔術を発動する様に作られた魔道具。魔術の型を付与された道具。それを使い魔術を体で覚える。または付与スキルを持つ人間に自身の身体に付与してもらう事だ。
より簡易な物として魔導書や魔術の巻物がある。使い捨てだが何度か使うと型が体に染み込み体得出来る。
自分で術を開発するのは非常に手間である。基礎の術すら数百年掛けて天才たちが改良を重ねたものだ。むしろ基礎の術こそである。これは我流でやるより後からでも習った方が効率的だ。
適性を調べた後に使い捨ての巻物を買うのは若者にありがちな行動である。僕もその例に漏れない行動を今後はとるつもりだ。
やれることが増えた。何から手を付けた物か
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